【知財】先行技術文献、及び、背景技術

坪井央樹

坪井央樹

テーマ:知的財産

「先行技術文献」及び「背景技術」という知財用語について解説します。
「先行技術文献」は、出願された発明に対して、先に公知となっている関連技術を示す文献です。特許制度のみの特殊な制度です。

先行技術文献の記載義務

出願人は、原則、最低1件の先行技術文献を明細書に記載する義務があります。

記載例(明細書の冒頭部分)

原則、下図の赤枠のように、明細書の冒頭部分へ記載します。
先行技術文献記載例
上記のように出願する際に最も近しい類似の技術を示す文献等を自己申告します。

なお、上記の例は、特許文献(出願の際に既に公報が発行されているもの)の例です。
先行技術文献の内容・解説は、【背景技術】の欄に記載します(下図の赤枠部分です)。
背景技術記載例


また、特許文献以外も先行技術文献となります。この場合には「非特許文献」という形式で記載します。

記載しないとどうなるか?

記載しないと審査官から拒絶理由通知に似た通知(特許法第48条の7)がされます。
ただし、これは必須でなく、審査官の裁量です。そのため記載しなくとも上記の通知がされない場合もあります。
実際には下記のように、記載をせずとも上記の通知なし・無事登録になった事案もあります。
特許第6327502号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6327502/15/ja

なお、記載しない場合には理由を付して記載するが望ましいとされています(上申書でも可能です)。

先行技術文献の調査

先行技術文献・新規性がない範囲は、弊所等には弁理士・特許事務所へ依頼することも可能です。
先行技術文献調査の支援・補助金制度も下記のようにあります。
Japio中小企業等特許先行技術調査助成事業
https://japio.or.jp/service/service01.html
福島県 先行技術調査・国内出願補助金
https://fukushima-techno.com/d/

注意点1

お薦めは、特許文献を記載する(非特許文献でなく)です。
審査官は、先行技術文献が入手困難な場合には出願人に物件の提出を求めることができます。
これに対しては、出願人は対象となる物件を提出する対応(特許法第194条第1項)を取る手間が生じます。
特許文献(外国の特許を含む。)であれば、必ず特許庁に文献があるのでこのような手間が生じないです。
調査は、例えば、J-PlatPat(下記URL)(無料ツール)で検索できます。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

注意点2

【背景技術】は記載内容に注意です。
審査官は、明細書内に従来技術として記載されているものは、引用発明にできます。
つまり、実際は公知でなかった・新規性があっても、明細書に「従来技術」と記載してしまうと、その記載を根拠に新規性がなくなり、新規性のハードルが高くなります。
【背景技術】に記載される内容は、従来技術と認めることになる可能性が高いです。
そのため、【背景技術】は「書き過ぎない」「自己の解釈を入れない」といった工夫が必要です。
この審査運用が分かっている方ほど【背景技術】を少量記載・文献から抜き出して記載しますので、それは手抜きでなく、なるべく記載が少ない・独自の言葉を入れない方が一般的に従来技術を増やさない工夫をしていることになります。
よくある失敗ですが、従来技術を一生懸命調査することに熱心になってしまう場合があります。
従来技術の説明を一生懸命してもメリットはないので、それよりも自己の工夫として様々な変形例を考える方が有益です。


先行技術文献記載関連法令

特許法第36条第4項第2号
https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_2-At_36
特許法施行規則第24条 様式29備考14ハ
https://laws.e-gov.go.jp/data/MinisterialOrdinance/335M50000400010/626870_1/pict/2FH00000065102.pdf
特許法第48条の7
https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_3-At_48_7
審査基準 第II部 明細書及び特許請求の範囲 第1章 発明の詳細な説明の記載要件
2101 先行技術文献の入手が困難な場合の留意事項
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/02.pdf
1207 特許出願の拒絶の理由中に引用する刊行物等の記載要領
 *拒絶理由通知用ですが文献記載方法は同じです(審査ハンドブック2104)。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/01.pdf
審査基準 第II部 第1章 第3節 先行技術文献情報開示要件  2.2.3 記載すべき先行技術文献情報がない場合
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0103bm.pdf
審査基準 第III部 第2章 第2節 進歩性 3.3 進歩性の判断における留意事項(4)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf
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上記の解説は専門外の方にも理解しやすいように、簡略化・表現の一般化をしております。
少々強引に簡略化等をしているため、専門の方からすると違和感のある表現・言葉が足りない場合があります。

また、上記は一例・概略です。詳細等はメール等でお問い合わせ下さい。
以上、ご参考まで。

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