【知財】【基礎】特許権の放棄とは
シリーズで解説しております他社の特許権を侵害していないかのチェック方法を最終回も引き続き解説します。
抗弁方法の代表例
抗弁は、特許権に対抗できる権利、又は、相手方の特許権が無効であるを理由に対抗する手法です。
なお、抗弁方法は、他にも理論上、中用権(特許法第80条)・後用権(特許法第176条)等もあります。
今回は、それらのうち、比較的よく行われる「先使用権」(特許法第79条)と無効理由(無効審判による特許権の無効化)を解説します。
したがって、下記2通り以外の抗弁方法もありますが、少し稀なケースのため、代表的な方法に絞って解説します。
先使用権(特許法第79条)
簡単に言えば、対象となる特許権が出願されるより前(=出願日より前)から実施(「準備」でも可です。)していた場合に認められる法定通常実施権です。
イメージは下図の通りです。ここでも「早い者勝ち」と言えます。
厳密には、上記の時間要件以外にも「特許出願に係る発明の内容を知らない」こと等の要件をクリアする必要があります。
また、実務的には上記の時間要件を証拠等を示して立証する必要があるため、実施(又は準備)を開始した日を示す書面等が必要になります。
(参考)特許庁 先使用権制度について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/index.html
無効理由の検討
特許権は、無効審判という手続きを経て無効化させることができます(特許法第123条)。
ちなみに、似たような制度で「異議申立」(特許法第113条)があります。
主に手続きが可能な時期が異なります(厳密には、進行、理由、及び、請求人適格等も異なります)。異議申立ては特許掲載公報の発行の日から六月以内に限られます。
また、権利化「前」(審査中)の場合には「情報提供」という制度で権利化の阻止ができます(特許法施行規則第13条の2)(権利化「後」も情報提供は可能です。特許法施行規則第13条の3)。
少し分かりにくいのが、「審判」と「裁判」は異なります。
主には、「裁判」は裁判所が行うのに対し、「審判」は行政庁(特許法の場合には特許庁です。)が行います。
したがって、侵害「裁判」とは別に特許庁に対し「審判」を請求して、並行して手続きしていきます。
そして「審判」で無効化(審判請求成立)となると、「裁判」の方でも無効化を理由に抗弁できるという流れになります。
ただし、特許権を無効と認める(無効審決)可能性は低いです。
2019年の実績で「17%」(商標はもう少し成立可能性が高いです。)です。
つまり、一度権利化が認められると中々それを無効にするのは難しいのが実際になります。
異議申立、及び、無効審判で請求が認められる可能性が高い理由は「新規性」、「進歩性」、及び、「記載要件」です。
(参考)特許庁 審判便覧 無効審判
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/sinpan-binran.html#51
特許庁 情報提供制度について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/index.html
特許庁 審判の動向 令和2年度
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/document/index/shinpan-doko.pdf
特許庁 特許行政年次報告書2021年版 第1章 国内外の出願・登録状況と審査・審判の現状
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2021/document/index/honpen0101.pdf
特許異議申立制度の運用の現状と効果的な活用
https://www.inpit.go.jp/content/100868550.pdf
なお、上記の例は、原則の説明用・説明のため簡略化しております。そのため、もちろん例外があります。ゆえに、上記のような検討結果だけで決定するのでなく、検討結果に関わらず一度弁理士等へ相談するのを強くお薦めします。
上記の内容で不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせ下さい。
以上、ご参考まで。