【知財】【IT】知財戦略と情報戦略
筆者が保有している資格の1つ弁理士について解説したいと思います。
1.弁理士のなり方
基本的には弁理士試験を受けて合格し、登録をすると有資格者となります。試験については特許庁が正式な概要、統計、過去問等を公開しています。
特許庁 弁理士試験
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/index.html
大雑把には「短答」、「論文」、「選択」、「口述」の4つに分かれています。
試験の一部を免除できる制度があります。
よく使われている免除制度を抜粋しますと下記のようなものです。なお、免除される範囲は異なります。
①特許庁審査官経験者
②修士号・博士号
③情報処理試験合格者・行政書士合格者等の他試験合格
④知財系の大学で単位取得
免除については詳しくは下記URLのページで確認して下さい。
弁理士試験の免除関係に関するQ&A
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-qanda-menjo.html
ちなみに、弁護士は試験不要で弁理士の登録が可能です。
2.スケジュール
現在、新型コロナウィルス感染症により変動がありますが、基本的には下記のようなスケジュールです。
開催数:1回/年
試験の公示
↓
試験申込
↓
短答
↓
論文 選択
↓
口述
↓
合格発表
↓
(登録する場合) 研修
↓
登録
*令和3年度の場合
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/fy2021_shiken-koukoku.html
試験の公示:令和3年2月24日
受験願書交付・試験申込:令和3年3月1日~令和3年5月21日
短答:令和3年7月18日
論文:令和3年8月29日
選択:令和3年9月19日
口述:令和3年12月18日~12月20日のいずれか1日
合格発表:令和4年1月11日
3.難易度・合格率(統計情報)
合格率:6~8% いわゆる難関資格には該当するようです。
*令和2年度の場合
https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-tokei/2020.html
短答受験者数:2259名
↓
短答合格者:411名 合格率18.2%
↓
論文合格者:265名 合格率25.0%
↓
最終合格者:287名 口述合格率98.6%
最終合格率9.7%
最終合格者平均受験回数:4.02回
合格者の属性(令和2年度統計情報)
受験回数1~5回で合格する人が6割
男女比 男:女=3:1
職業 会社員が5割、特許事務所勤務が3割(社会人がほとんどということです。)
修士号・博士号で免除者が6割
文系:理系=2:8
年齢層:30代が多 平均年齢37.9歳
出身校(人数順に上位5校)東京大学、京都大学、大阪大学、東京工業大学、早稲田大学
試験内容は基本的に法律の試験になります。「選択」だけが技術の試験と考えてもらってよいです。
4.勉強時間(筆者の体験+周囲の弁理士仲間の話)
合格までに3000~3500時間ぐらい必要と言われているようです。
筆者は合格まで試験を3回受けています。つまり、合格まで3年かかりました。
修士(工学)の学歴でしたので、「選択」を免除で挑みました。
振り返ってみますと、平均1日3時間×365日/年≒1000時間/年で3年とすると平均的な勉強時間だったようです。
当時、「1試験突破1年」と通称ではありますが言われていました。短答、論文、選択、口述に1年ずつ要するという意味です。
普通にメーカに勤務していたため、平均1日3時間と毎日確実に学習するのは難しく、休みに補完して学習し、平均すると3時間/日ぐらいになるというのが実態です。
周囲の人の話も総合すると、難しいのは、論文→短答→選択→口述の順です。
論文の勉強が一番重く、論文を1つ練習で書くというと、それだけで1時間ぐらいは少なくとも取られます。
思えば毎日のように論文は練習していました。
正直、3年で合格できるのは運が良い方だと思います。周りを見ると5年~10年ぐらい勉強して合格した人は普通にいます。
統計情報を見ると20年という人もいるので、1発合格みたいな人はまずいません。
そのため、弁理士試験を受けるなら数年間の辛い学習期間を経るので、知財業界でやっていく「覚悟」がない人にはお薦めできません。
もう少し知財関係の勉強や資格取得を気楽にやってみたいという方には知的財産管理技能検定(知的財産管理技能士)をお薦めします。
知的財産教育協会 知的財産管理技能検定
http://www.kentei-info-ip-edu.org/
5.ダブルライセンス・トリプルライセンス事情
弁理士×中小企業診断士
中小企業診断士協会の会員検索(https://www.j-smeca.jp/open/static/membersearchindex.jsf)で検索すると10名が該当します(2021.8.7検索)。
弁理士は、知的財産権の出願・権利化・訴訟の方に重きを置くケースが多く、財務・経営戦略等と両立させる人となると、はっきり言って少数派です。
希少性はあるのかもしれませんが、希少ゆえに認知度もなく、アピールしないと気づいてもらえないが実態です。
個人的には、知財(特に権利化業務)だけでクローズして仕事をする人には意味があまりないと思います。
言い換えれば、知的財産権を核に色々とビジネスを広げようとする人には良い組み合わせではないかと体感しています。
弁理士×ITストラテジスト・G検定(IT資格)
弁理士業務で特許を扱う場合、通常技術分野に専門があります。筆者はITに専門がありますので、そのときにIT資格は役に立ちます。体感としては2点あります。
1つ目は技術者の集まりに入れる点です。「人脈・ネットワーク・横つながり」とも言えるでしょう。
どんな資格もそうですが、有資格者はグループを作っている場合がほとんどです。このグループに入っていくには当然有資格者でなければなりません。
技術者の方は技術には強いですが、法令関係を苦手とする人は少なくありません。
知財は技術を活用する上でどうしても出てくる法令ですので、技術者に近い位置にいて声をかけてもらえるのは強い武器になります。
具体的には、試験対策、セミナー、解説をして欲しいといった需要にもつながります。
2つ目は理論派としての立ち位置になります。
技術者の方は基本的に実務家ですから、実際に流通している製品や具体的な技術には強いです。
少し意外かもしれませんが、これを一般化(例えば教科書・論文等に記載されている用語で記載する等です。)するのが苦手なケースがあります。
特許出願、公的なプロジェクト、論文、又は、プレスリリースのように「公」とされる場面で資料を公開する場合には、なるべく一般的な用語で記載するのが望ましい場合がほとんどです。
こういった場面には、資格試験で勉強する教科書に記載されている用語・概念でまとめるとしっかりした資料になります。これが案外重宝されます。
社内資料では通じれば十分ですが、社外へはそうはいかないです。また、資料作りの負荷はばかになりません。
こういったときに理論派の人が、実務家の意見をまとめて資料にすると綺麗にまとまります。
正直認知度は高くないやり方ですが、実務家と理論家が力を合わせると上手くいく1つのケースではないかと思います。
どの資格にも言えますが、有資格者はやはり優秀で行動力のある人が多いです。そういう人達と一緒に行動できるのはビジネス的にも知識的にも有意義です。
資格に限られず、有意義な仲間ができるのは何よりも良いことです。
6.費用
(受験費用)
弁理士試験の受験料は「12000円」です。あとは試験会場に行く交通費程度の費用です。
(学習費用)
周囲で聞いている限り、独学で合格の方はいません。通常は予備校に通います(通信教育を含みます)。
相場では「1講座(≒1年)20~30万円」ぐらいでしょう。ただし、予備校の授業を受けただけでは足りない場合が多いので、自主学習(テキスト・問題集)・他の予備校講座を受講します。
当時、ある予備校の調査では、合格まで平均で「100~150万円」の投資をしているというアンケート結果が得られたという話でした。
(登録費用)
合格した場合、登録の手続きが必要です。登録時に登録免許税、登録料、及び、登録月の会費の費用が発生します。これが「10万円」ぐらいです。
日本弁理士会 登録申請
https://www.jpaa.or.jp/application/
なお、登録する前に、経済産業大臣指定機関による実務研修があります。この研修を受けるにも費用が発生します。
日本弁理士会 実務研修
https://www.jpaa.or.jp/activity/practical-apprenticeship/
(資格維持費用)
「15000円/月」の会費が発生します。
なお、資格維持には、5年ごと一定の学習の義務もあります。
以上、ご参考まで。