「塗り」を行う職人さんインタビュー(前半)
こんにちは。旭物産の成田です。
今日のお話は、和箪笥を修復したときに思ったことです。
内容はこちらです。
お仏像と和箪笥
仏像屋さんが和箪笥の修理をするの?と思われるかもしれませんが、和箪笥の材料は木材であり、
その木材でできた和箪笥の表面を漆でコーティングするところがお仏像の修復とよく似ているのです。
和箪笥というと全国各地の伝統工芸品として、それぞれ特徴のあるものを思い浮かべる方もいらっしゃると思います。
今回修復をお願いされた和箪笥は表面が漆で塗られて黒く、おそらく時代的にかなり古いのでしょう。引き出しの金具も手作りでした。
お仏像と同じように、旧家には古い和箪笥が眠っていることがあります。
その和箪笥は依頼主のお祖母さんが嫁入り道具として持ってきて大切に使っていたものらしいのですが、今では誰も使わなくなっていたそうです。
わたしが引き取りに伺ったときに、その和箪笥から日付が昭和11年の古い新聞紙が出てきました。
全国に名品はあれど、戦前のまだ物資が少ない時代にあり合わせの木材で精一杯の逸品として作られたのでしょうか。
和箪笥の修復法
今回の和箪笥の修復は、わたしたちがお仏像を修復するときと同じ職人さんと取り組みました。
まず、引き出しや表面に打ってある金具をはずします。
この金具は京都の金具職人さんにお願いして、磨き直してきれいに蘇らせます。
次に、和箪笥の表面に塗ってある塗料を落とし、新しく塗る塗料がきれいに塗れるように表面を磨きます。
と同時に箪笥本体でガタついていたり、ゆがんでいるところを調整します。
その後、表面に漆を塗り、鏡面仕上げでピカピカに仕上げてから、磨き直した金具を取り付けます。
鏡面仕上げとは、表面を磨き上げ、凹凸をなくして鏡のような光沢を出す加工のことで、ピアノにもよく使われています。
金属に多く使われますが、木材でも漆やポリエステル、ウレタンなどを塗装して鏡面仕上げを施すことができるのです。
こうして、くたびれた古い和箪笥がシャキッと、かつ荘厳な面持ちで蘇りました。
引き継ぐ思い
この和箪笥の材料は名品のように良いものではなかったかもしれませんが、お祖母さんが嫁いだときのままなので、今手に入れられるものではありません。
そこには年月を経て、今もなお大切にしたいと思わせる重要な意味があるようにわたしは思います。
さて、今回和箪笥の修復を依頼された方は、その家の現当主に当たり、70歳になられたころ、先代までの遺品を整理し、処分するものと引き継ぐものを振り分けておられました。
そのなかで和箪笥も不用品としていくつか処分されたそうですが、最後の一つだった今回の和箪笥だけは修復して残そうとされ、わたしのところに連絡されたようです。
わたしが推測するに、この和箪笥をきれいに修復して残したかったのは、ご自身が使うためではなく、自分の代まで家が続いてきたことのシンボルとしたかったためではないでしょうか。
家を守ってきて、これから次の代に引き継ごうとしているなかで、先祖を大切にしたいという気持ちの現れのようにも思えました。
先祖のものをきれいにして残したいというのは、ものがきれいになる気分の良さもあるかもしれませんが、今自分が携わることで代々の歴史に自分も存在した証を残すという意味合いもあるのかもしれませんね。
なぜこう思ったかというと、修復された和箪笥は、今はその方の家の玄関ホールにどっしりと鎮座しているからです。
古いものを大切に
さて、先日百貨店の工芸品売り場で箪笥職人さんとお話しする機会がありました。
その職人さんは工芸品の箪笥職人で、売り場には産地の特徴を持つ立派な和箪笥が所狭しと展示してあり、それらは見ているだけでもうっとりするほど素晴らしい逸品ばかりでした。
つい欲しくなる衝動を抑えながら職人さんにいろいろ聞いてみました。
職人さんが言うには、最近は和箪笥の修復依頼が増えているそうです。
こんな立派な和箪笥なら古くなっても大切に使いたいと思うものなのだな、と納得しました。
家具といえば、アンティークの家具が好きという方もいらっしゃるので、古い家具は年月を経ても人気なのでしょう。
ですが、代々家に伝わる古いものを修復されるのは、その方が単に古いものを好むというわけではなく、長い年月をかけて家が続いてきたことや自分のルーツを大切にしたいというお考えなのかもしれないですね。
加えて、後世に残すためにわざわざ手間とお金をかけて修復できるということは、ある意味豊かなことのように思います。
わたしはこうした思いにお応えできるような仕事をできることが、とても光栄に思います。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いしましょう。