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榊原宏昌

介護現場をよくするコンサルタント

榊原宏昌(さかきばらひろまさ) / 経営コンサルタント

天晴れ介護サービス総合教育研究所

コラム

老人ホーム整備、計画の7割どまり(日本経済新聞2018年7月4日)(2018.7.6)

2018年7月6日 公開 / 2018年7月9日更新

テーマ:日々の仕事から

コラムカテゴリ:医療・病院


老人ホーム整備、計画の7割どまり(日本経済新聞2018年7月4日)

2015~17年度に全国で整備された特別養護老人ホーム(特養)が、計画の7割にあたる4万5000床にとどまったことが日本経済新聞の調査で分かった。地価や建設費が高騰し、介護人材も不足している。政府は特養の待機者を20年代初頭までに解消する目標を掲げるが、自治体による今後の新設計画も縮小しており、実現は見通せない。

介護サービスの整備計画は自治体が3年ごとに策定する。調査は全国1571の自治体・団体の計画をまとめている都道府県に「15~17年度の整備計画と実績」と「今期(18~20年度)の計画」を聞いた。今期と前期を比較できる43都道府県分を集計した。

15~17年度の計画は全国で約6万床。うち37都道府県で1万5千床の整備が進まなかった。厚生労働省が17年に発表した特養待機者は36万6千人(うち要介護3以上、在宅者は12万3千人)。介護費用の膨張などを背景に入所条件を厳しくしたため、前回の13年調査と比べると3割減ったが、なお高止まりしている。

計画未達の理由で、全国で共通したのは「事業者が集まらない」「介護人材が不足している」。介護報酬の引き下げに加え、人手不足による賃上げなどが収益を圧迫。「建設自体を控える事業者が多い」という。

都市部を中心に「用地確保が困難」(東京都・神奈川県・大阪府)、「建設費の高騰」(東京都・兵庫県・福岡県など)と答えた自治体も多い。

東京都は計7200床の整備を計画したが、新設できたのは4400床。都は「20年の東京五輪を控え、土地の確保すら難しい。整備を促す独自の補助制度を拡充しているが、場所がなければどうしようもない」と話す。大阪府も期間中に整備できたのは当初計画の7割だった。

職員不足や将来の人口減を見据え、収益悪化の懸念が強くなってきたことも整備が進まない要因のひとつだ。徳島県阿南市は「16年に2回にわたり事業者を公募したが、予定した地域への応募はゼロだった」。整備の実績が計画の5割にとどまった富山県も「介護職員の確保が難しく、計画期間中の整備を中止した例があった」という。

整備環境の厳しさは今期計画にも影響を与えている。20年度までの3年間に全国で計画された特養は4万床と前期計画比で3割減。37道府県で新設ペースが鈍っている。

埼玉県は新たに3700床の整備を県議会に提案したが、介護の担い手不足などから見直しを迫られている。「人材の確保や育成策を示し、新たな計画をつくりたい」という。前期計画より2割減らす神奈川県は「前期の状況を踏まえ、より現実的な数字を積み上げた」と説明する。一方、都は「特養待機者はなお高い水準にある。整備のペースを緩める段階にはない」と前期計画より6%増やす計画だ。

政府は在宅待機者の解消をめざし自治体に対して特養のほか、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」などの介護サービス拡充を求めている。

ただ、65歳以上のうち介護が必要になる人は20年度には、17年度比で9%増の683万人になる。「団塊世代」が全員75歳以上になる25年度には771万人まで膨らむ。

岩手県知事や総務相を務めた増田寛也・野村総合研究所顧問は「特に大都市圏では今後、介護施設の不足が深刻な状況となる可能性が高い」と指摘する。

そのため、人口減少に比例して地方での需要が縮小していくことを見据え、都心で働く50代を中心とした現役世代の会社員らが地方へ移住しやすい環境を整備することで大都市での需要を抑制する一方、地方では空きが出てくる既存施設の有効活用につなげることを提案する。各種技能を持つ現役世代が流入することで、地域経済の活性化も期待できる。

併せて増田氏は「在宅介護など施設に頼らない仕組みを拡充していく必要がある」として、施設入所以外の介護サービスの充実も訴えている。

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