帰省・旅行中、ペットの歯みがきは休んでも大丈夫?
愛犬・愛猫の歯みがきをしていたら、歯ブラシに血がついていた。
このようなとき、
「少し血が出るくらいなら、そのまま磨いても大丈夫?」
「強く磨きすぎただけ?」
「すぐに動物病院へ行く必要がある?」
と迷う飼い主様も多いのではないでしょうか。
歯みがき中の出血は、歯ブラシが一時的に歯ぐきへ当たっただけの場合もあります。
しかし、世界小動物獣医師会(WSAVA)の歯科ガイドラインでは、歯みがきや咀嚼による出血は、歯ぐきの色が変わるよりも早く現れる歯周病のサインになり得るとされています。
今回は、歯みがき中に血が出たときの考え方、磨き方の見直し方、動物病院へ相談したいサインについてご紹介します。
結論:血が出た場所を、そのまま磨き続けないでください
歯ブラシに血がついたら、まずはその日の歯みがきを中断しましょう。
「汚れているから血が出るのだろう」と考えて、同じ場所を繰り返し磨くのは避けてください。
AAHA(アメリカ動物病院協会)の犬猫歯科診療ガイドラインでは、すでに炎症を起こしている歯ぐきを磨くと痛みが生じ、歯みがきそのものを嫌がる原因になると説明されています。
出血した直後は、無理に口を開けず、可能な範囲で次の点を確認します。
- どの歯の周辺から出血したのか
- 歯ぐきが赤くなったり腫れたりしていないか
- 歯が欠けたり、ぐらついたりしていないか
- 歯ぐきに盛り上がりやしこりがないか
- 出血が短時間で止まったか
- 食べ方や元気に変化がないか
口を触られることを強く嫌がる場合は、無理に確認しないでください。痛みのある場所へ触れると、飼い主様が噛まれてしまう危険もあります。
歯みがき中に血が出る主な原因
歯肉炎や歯周病による出血
歯みがき中の出血で、まず考えたいのが歯肉炎や歯周病です。
歯垢に含まれる細菌によって歯ぐきに炎症が起こると、歯ぐきの組織が刺激に弱くなり、歯ブラシが軽く触れただけでも出血することがあります。
2025年に発表されたFelineVMA(猫の獣医療に関する国際的な専門家団体)のガイドラインでは、猫の歯肉炎について、次のように評価しています。
- 軽度:歯ぐきの縁に炎症があるが、検査時の出血はない
- 中等度:炎症の範囲が広がり、検査時に出血する
- 重度:炎症が広範囲に及び、自然に出血することもある
つまり、歯みがき中の出血は、単なる磨き方の問題ではなく、すでに歯ぐきに炎症が起きている可能性を示しています。
歯ブラシの力が強すぎる
歯ぐきに目立った赤みや腫れがなくても、歯ブラシを強く押し当てたり、大きくゴシゴシ動かしたりすると、歯ぐきを傷つけることがあります。
特に、次のような磨き方には注意が必要です。
- 歯ブラシを握りしめている
- 毛先が歯ぐきへ強く食い込んでいる
- 同じ場所を何度も往復している
- 愛犬・愛猫が動いたときも磨き続けている
- 口を無理に開けて磨いている
- 毛先が開いた歯ブラシを使い続けている
ただし、「強く磨いたから出血した」と自己判断するのは禁物です。
磨く力を弱くしても繰り返し血が出る場合は、歯ぐきや歯に何らかの問題がある可能性があります。
歯の破折や猫の歯牙吸収病
欠けた歯や折れた歯の周辺、歯ぐきに隠れた病変から出血することもあります。
猫では、歯の組織が徐々に吸収されていく「歯牙吸収病」が比較的多くみられます。これは進行性で、痛みを伴うことの多い病気です。
歯の根元に赤い組織が見える、歯ぐきが歯へ覆いかぶさっている、歯ブラシを特定の場所へ当てたときだけ強く嫌がる場合は、早めに動物病院へ相談しましょう。
口の中のできものや、血液が固まりにくくなる病気
頻度は高くありませんが、歯ぐきや口腔内のできものが出血の原因になることもあります。
また、血小板や血液凝固に関する病気、感染症、誤って口にした殺鼠剤、一部の薬剤などによって、血が止まりにくくなる場合もあります。
歯ぐきだけでなく鼻からも血が出る、皮膚にあざがある、尿や便にも血が混じるといった場合は、歯だけの問題と考えず、速やかに動物病院へ連絡してください。
一度だけの少量出血なら、様子を見てもよい?
次の条件がすべてそろっている場合は、緊急性が高くない可能性があります。
- 歯ブラシにわずかに血がついた程度
- 出血がすぐに止まった
- 歯ぐきに目立つ赤みや腫れがない
- 食欲や元気に変化がない
- 口元を痛がる様子がない
- その後は出血していない
ただし、これは「問題がない」と断定できる条件ではありません。
同じ場所から再び出血する場合や、歯みがきのたびに血がつく場合は、出血量が少なくても動物病院へ相談しましょう。
特に猫は、口の中に痛みがあっても食べ続けることがあります。
2025年のFelineVMAガイドラインでも、食欲が普段通りだからといって、口腔内が健康とは限らないことが強調されています。
早めに動物病院へ相談したいサイン
次のような変化がある場合は、緊急事態ではなくても、なるべく早く動物病院を受診しましょう。
- 歯みがきのたびに出血する
- 歯ぐきが赤い、腫れている
- 触れていないのに歯ぐきから血がにじむ
- 口臭が以前より強くなった
- よだれが増えた、よだれに血が混じる
- 硬いフードやおやつを避ける
- 片側だけで噛む、食べ物を落とす
- 口元を前足で気にする
- 歯が欠けている、変色している、ぐらついている
- 歯ぐきにしこりや盛り上がりがある
- 歯みがきを急に嫌がるようになった
これらは歯肉炎や歯周病だけでなく、折れた歯、歯牙吸収病、口内炎、口腔内のできものなどでもみられることがあります。
すぐに動物病院へ連絡したいサイン
次のような場合は、通常の診察時間を待たず、かかりつけの動物病院や夜間救急へ連絡してください。
- 出血が続き、なかなか止まらない
- 口から血が流れるほど出血している
- 転倒、衝突、落下などの後に出血した
- 顔が急に腫れてきた
- 口を閉じられない、呼吸しづらそうにしている
- 食べることも水を飲むこともできない
- ぐったりしている、ふらつく、倒れる
- 歯ぐき全体が白っぽい
- 鼻血、皮下出血、血尿、血便などもみられる
- 殺鼠剤などの誤食が疑われる
出血している場所を確認しようとして、無理に口を開けたり、指を口の奥へ入れたりしないでください。
受診までに家庭でできること
歯みがきをいったん中止する
少なくとも出血した当日は、同じ場所を磨かないようにします。
炎症や痛みが疑われる場合は、動物病院で口の状態を確認してもらい、安全に再開できる時期を相談しましょう。
出血した場所と状況を記録する
可能であれば、口を無理に開けずに撮影できる範囲で、出血した場所の写真を残しておきます。
また、次の内容をメモしておくと、診察時に状況を伝えやすくなります。
- いつ出血したか
- どの歯の周辺から出たように見えたか
- 出血量と止まるまでの様子
- 使用した歯ブラシやケア用品
- 食欲、元気、食べ方の変化
- 過去にも同じことがあったか
人用の薬や消毒剤を使わない
自己判断で人用の痛み止め、口内炎薬、止血剤、うがい薬、消毒剤などを使用しないでください。
犬や猫に有害な成分が含まれている場合や、症状を悪化させる可能性があります。
また、見えている歯石を家庭用の器具で削り取ろうとすることも避けましょう。歯ぐきや歯を傷つけるだけでなく、歯ぐきの下にある病変を治療することはできません。
歯みがきを再開するときに見直したいポイント
動物病院で治療の必要がない、または治療後に再開してよいと判断されたら、磨き方を見直します。
- 愛犬・愛猫の口に合った小さめの歯ブラシを選ぶ
- 歯ブラシを握りしめず、軽く持つ
- 歯と歯ぐきの境目へ毛先を約45度に当てる
- 大きく往復せず、小さく優しく動かす
- まずは磨きやすい歯の外側から始める
- 口を無理に開けない
- 嫌がる前に短時間で終える
- 毛先が開いた歯ブラシは交換する
毎日の歯みがきは歯垢の付着を抑えるうえで大切ですが、すでに炎症や痛みがある歯ぐきを、家庭で磨いて治そうとするものではありません。
歯みがきは、病気を予防し、動物病院での治療後に健康な状態を維持するためのホームケアです。
オーラルケア用品開発者からのメッセージ
歯みがき中の出血を見つけると、「自分の磨き方が悪かったのでは」と不安になる飼い主様もいらっしゃると思います。
しかし、歯みがきをしていたからこそ、歯ぐきの変化に早く気づけたとも考えられます。
大切なのは、血が出ても構わず磨き続けることでも、怖くなって歯みがきを完全にやめてしまうことでもありません。
いったん手を止め、出血した場所や愛犬・愛猫の様子を確認し、繰り返す場合は動物病院へ相談する。
そして、必要な診察や治療を受けてから、その子に合った方法で歯みがきを再開することです。
歯ブラシについた小さな血の跡も、お口の状態を知らせてくれる大切なサインとして受け止めてください。
まとめ・ポイント
- 歯みがき中に血が出たら、その場所をそのまま磨き続けないでください。
- 出血は歯ブラシによる傷だけでなく、歯肉炎や歯周病の早期サインである可能性があります。
- 一度だけの少量出血でも、繰り返す場合は動物病院へ相談しましょう。
- 赤み、腫れ、口臭、よだれ、食べ方の変化、痛がる様子にも注意してください。
- 出血が止まらない、顔が腫れる、ぐったりする、ほかの場所からも出血する場合は、速やかな受診が必要です。
- 炎症や痛みがある状態を歯みがきだけで治そうとせず、診察や治療後に適切なホームケアを再開しましょう。
参考情報
FelineVMA
「2025 FelineVMA feline oral health and dental care guidelines」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X251398793
AAHA
「2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats」
https://www.aaha.org/public_documents/guidelines/aaha_dental_guidelines.pdf
WSAVA
「World Small Animal Veterinary Association Global Dental Guidelines」
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/Dental-Guidleines-for-endorsement_0.pdf
Cornell Feline Health Center
「Feline Dental Disease」
https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/feline-dental-disease
MSD Veterinary Manual
「Bleeding Disorders of Dogs」
https://www.msdvetmanual.com/dog-owners/blood-disorders-of-dogs/bleeding-disorders-of-dogs


