「ゴールデンウィークの憂鬱」について
「文化と気分(うつ)の関係」の心理学について、エフエムいみず(79.3MHz) の私の番組、「心に元気を!
大人のメンタルヘルス」(2月1日水曜)で話しています。
いわゆる風土が精神状態にどう影響するかについて、前回は、気候(天気)と気分の関係について
心理学的な面から考察してみました。
今回は、引き続き文化との関係において考察したいと思います。
人間の精神発達が文化の影響を受けるとする考えの先鞭は、米国の文化人類学者マーガレット・
ミードによるといわれています。
文化が人の精神面に影響するというのは、直接影響するというよりも、人間の精神活動をどう
解釈するかに影響を与えているといった方が正確でしょう。
例えば、いわゆる精神疾患といわれるものでも、てんかん発作や幻覚・妄想という現象は、文化
によっては、普通の人が持っていない超能力を示すものとして畏怖されている場合もあります。
ここでは気分、とくにうつと文化の関係についてみてみたいと思います。
うつは、いわゆる意志の強弱と絡めて論じられることがあります。つまり、「気分が落ち込み
やる気が無くなるのは意志が弱いからだ」という具合です。
このような考え方は、米国で特に顕著です。
私がコロラド州デンバー大学大学院カウンセリング心理学博士課程在学中、博士論文を「心理
学者のうつについて」としました。そしてコロラド州の心理学者に質問紙を送り、また個別に面接
して調査しました。
その結果分かったことは、上に述べたようにうつと意志の弱さが関係するという考え方が米国人
の間に根強く存在するということです。
その背景には、自立心、独立・独歩を重んじる価値観があります。つまり、何か問題に出会った
時、まず自分自身で解決するようにする。人に相談したり援助を求めるのは自分の「弱さ」を
さらけ出すことになる、という考え方です。
ちなみにこの考え方は、私のいたコロラド州で特に顕著のようでした。その理由は、コロラド州
は別名「カウボーイ州」と言われるのに関係しています。
「カウボーイ」の一般的なイメージは、一人で弱音を吐かずに孤独に耐える、といったものだと
思います。ですから、うつのような心の問題を持っても、一人で抱え解決しなければならない、
といった考えです。そして、この態度は特に男に求められるというものです。
一方で、うつであることに誇りを持つ考え方があるのです。これは、米国である心理学者から
聞いたのですが、ヨーロッパのアルメニアという国では、人々はうつであることに誇りを持って
いるそうです。
ちなみに、英語でうつ(Depression)と同様の症状を意味する言葉として、古くからメランコリー
(Melancholy)という言葉が使われていますが、この言葉には「思慮深い」という意味もあります。
したがって、うつというのは昔は必ずしも否定的ばかりにとらえられずに、何か奥深い気品のある
状態としてもとらえられていた、と考えられます。
このように、いわゆる精神疾患も、見方によっては意味のある肯定的なものと受け取られるという
現象があります。
実は、この考え方を突き詰めたものとして、「精神疾患というのは虚構である」という考え方を
する米国の精神医学者サース(Szasz、T.)もいます。
まあ、これは極端な考え方といえますが、文化に代表される価値観やもの見方・考え方が精神
疾患をどうとらえるかまでに影響している、ということは考慮に値すると思います。
特に日常の生活において、心の問題を多面的に広い視野でとらえることに利用できるのでは
ないでしょうか。
皆さんはどうお考えでしょうか。
なお、更に詳しい内容はエフエムいみずのインターネットラジオで聴くことができます。
インターネットで聴くには、次にアクセスしてください。
http://www.voiceblog.jp/fmimizu/ バックナンバー第36回
皆さんからの番組へのEメールをお待ちしています (直接、エフエムいみず へどうぞ)。
http://www.fmimizu.jp/
なお、この番組の最後に流れる曲、「心」(釈 敏幸作詞・作曲・唄)については、以下のYouTube
で全曲が聴けます。釈 敏幸さんは、統合失調症を抱えながら音楽活動を続けていらっしゃいます。
http://www.youtube.com/watch?v=c4PXxh3raLU
うつ心理相談センター所長
心理学博士(PhD University of Denver USA)
村田 晃