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北陸特有の古民家造り「枠の内」の再生

肥塚光義

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テーマ:古民家・町家再生

北陸特有の古民家造り「枠の内(わくのうち)」造り


古民家と一言で言っても全国各地で特徴が異なり、様々な造りの古民家が存在します。
特に富山県や石川県の農村部に多い代表的な古民家造りが「枠の内(わくのうち)」造りと呼ばれています。

全国的に見ても家の面積が大きい富山県の古民家では「広間」を中心に各部屋が作られている間取になっており、この「広間」は4本以上の柱と平物(指鴨居)・貫・大引・梁によって井楼型に構造体を組上げていく工法が用いられています。「枠の内」とは、こうした構造の造りのことをいい、高い吹抜けで、部材もその家で最も高級なものが使われています。井桁状に組むことで、水平方向の剛性が強いのも特徴です。

北陸特有の古民家構造である「枠の内」を持つ古民家は文化資産としての価値が高く、大学を始めとする研究機関の調査研究の論文も多く出されています。また、所有者の方が次世代に残したいというニーズも年々高まっており、肥塚建築への相談も増えてきております。

完成した枠の内
写真 : 再生した「枠の内」造りのリビング(魚津市 I様邸)
古民家の旧家屋を手作業で解体し、古材を取り出して再加工後、新築として再生したケース



「枠の内」の再生の方法


「枠の内」を再生する方法は大きく2通りあります。
1つ目は古民家の構造体をそのままにしてリノベーション(リフォーム)する方法です。2つ目は古民家を一度解体し、解体した古材を使って新築する方法です。それぞれメリット、デメリットがあります。


リノベーション(リフォーム)の場合

構造体を解体しないため、組み直す手間が削減でき建築費用を抑制できます。また、通常のリフォームと同様ですので、職人の高度な技術力が無くても施工できる場合もあります。一方で、昔の基礎は束石の上に柱や束を建てていますので、現在のベタ基礎と比べると強度面で劣ります。また、何百年経過している古民家の中には、柱や束などの構造体にシロアリ被害や腐食している範囲が広い場合もあり、補修や補強の範囲で修復できないケースもあります。もちろん、状態の良い古民家も多くあります。



解体した古民家の古材を用いて新築で再生

古民家を一度解体して状態の良い古材のみを使用しますので、構造強度面での心配はありません。しかも古材は新材に比べ、しっかり乾燥しているので再度組上げた後の「ねじれ」が少ない良材と言えます。古民家を解体して建替えする場合であれば、木材は古民家から得ることができるので、新材の代わりに古材を使用する部分の木材費の削減や廃棄する廃材処分費を削減することができます。また、基礎も最新のものになりますので、耐震強度もアップします。一方で、解体して「枠の内」を組み直す場合、再加工する必要があり、熟練した職人の技術(後述)が必要になります。


「新築での再生」か「リノベーションでの再生」が良いのかは、古民家の状態やご依頼される方の考え方によって変わってきます。


「枠の内」の再生の流れ


以下に、新築での「枠の内」の再生の流れをご紹介します。(魚津市 I様邸)


1.解体前の「枠の内」づくりの古民家
魚津市のI様邸は立派な「枠の内」のある典型的な北陸の古民家でした。約70年程前に移築されたそうで、建築されてから100年近くの年月が経っています。状態良く残っている古材も多い一方で、腐食している構造体もありました。
解体前の古民家
写真 : 解体前の古民家の外観



2.構造体の解体前の番付作業と古材の養生
古民家を解体するにあたって、先ずは番付と呼ばれる作業を行います。番付では、構造体の一本一本に数字付けして、それらの場所を図面上に記載していきます。解体後にどの古材が、どの場所に使われていたか把握するための重要な作業です。その後、古材に傷を付けない様に、しっかりと養生します。養生後に屋根から順番に手作業で解体していきます。
古材の番付
写真 : 番付(番号を記したテープを貼っています)後、養生された古材


3.古材の加工の様子
古民家を解体して得た古材は作業場に運び、一本一本再加工します。古材は建築後に長い年月を掛けて木材がねじれながら乾燥しているため、継ぎ手(木材と木材の繫ぎ目)がズレてしまい、そのまま組上げることはできません。そのため再度、墨付けをして繋ぎ手を加工し直す必要があります。この工程には手刻み加工を長年行ってきた熟練した職人の技術が不可欠です。肥塚建築では古民家再生に関わらず全ての新築で手刻加工を行っていますが、最近の住宅建築では機械によるプレカットが主流ですので、この様な加工技術を持った職人が年々減りつつあります。
古材の加工
写真 : 古材の墨付の様子(曲がった木材の重心を割り出し、繋ぎ手の加工位置を決定しています)



4.加工した古材の組立(建前)
作業場で加工した古材に漆などの自然塗料を再塗装して養生後、建前時に古材を組上げます。古材を用いていますが、通常の新築と同じ工程になりますので、基礎も新しくべた基礎を作り、その上に組み立てています。
古材の建前
写真 : 古材の組立(建前)作業の様子



5.仕上げ工程
組上げた古材の間に壁の下地を作り、漆喰を塗ります。また、建具もそのままでは入らない場合が多いため、再度加工してサイズ調整します。表面の汚れを落とし、漆などの自然塗料で塗装して元の場所にはめ込みます。
写真 : トップの写真が完成後の写真です。

魚津市 I様邸の完成写真


「枠の内」造りは北陸特有の古民家構造です。文化的資産価値の高い富山の古民家が少しでも次世代に受け継がれたら良いなと思います。

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肥塚光義
専門家

肥塚光義(大工)

肥塚建築

木の癖、反りを見極め、1本1本の特性を最大限に活かす「木組みの技」は、宮大工に学び、50年近い経験に裏打ちされた熟練技術。その卓越した技は古民家再生や移築において遺憾なく発揮されています。

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