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肥塚光義プロは北日本新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

家族の想いが詰まった古材の再生

肥塚光義

肥塚光義

テーマ:古材・建材の再生

11月末にリノベーション工事が完了したT様邸は築40年を超えるお宅でした。

40年経つと、やはり水廻りを中心に傷みが目立ったり、現在のライフスタイルと合わなくなっている空間が多くありました。一方で、大変立派な無垢の木材や石材を利用されていて、40年経った風合いを醸し出していました。

そこで、今回のT様邸のリノベーションでは、現在のライフスタイルに合った空間を作ると共に、良いものをできるだけ、そのまま利用したり、再生させました。

施工前後のリビング
写真:施工前(下)と施工後(上)和室をリビングに改装しました。

再生は家の歴史や家族の想いを知ることから始まる

リノベーションの打合せで初めてT様邸を訪れたとき、とても印象に残ったことがありました。それは、失礼ながら建物がアンバランスだったこと。

外壁には金属外壁が貼られていて、サビや傷みもあり普通に感じる古さがありました。一方で打合せで通された座敷や広縁は古さはありますが、時間を経た風格と風合いを感じさせられました。広縁に貼られた無垢のケヤキの床板がとっても艶やかでした。また、使われていた建具も立派なものでした。

お施主様から、家を建てた当時のことをいろいろ教えて頂きました。
・お施主様のご主人様が家を建てられたご両親に山間にあった家を現在の位置に移す提案をしたこと
・当時、家族が植えていた木を伐採し、建築に用いたこと
・親戚の大工さんが建てられたこと
・お施主様のご主人様が木にこだわりを持たれていたこと

この様なお話をお伺いすると、とっても家を大切にされていたことが分かりました。

今回のリノベーションでは、できるだけ良いものを残せる様にと思い、施工を行いました。


そのまま残して利用した土壁


T様邸の施工を開始して室内の解体作業を進めると壁の内側から土壁が現れました。T様が新築された当時は、まだ現在の様な断熱材や石膏ボードなどの壁材はなく、土壁が作られていました。

土壁を作るには、壁の下地になる木舞を竹などでメッシュ状に編んで、その上から藁などを混ぜた土を塗っていきます。更にその上に漆喰を塗っていました。土壁は断熱・遮音・調湿・防火などの機能に優れた自然素材です。しかし、残念ながら土壁を使用している家は今では殆どありません。

その最大の理由は手間とコストです。いくら土壁が優れた自然素材でも、コストが掛かれば採用したいというお施主様は限られてしまいます。今では木舞を編んだり、土壁を塗れる左官職人さんは殆どいなくなってしましました。完全に技術が廃れてしまう前に何とか残せないかと考えております。


さて、そんな貴重なT様邸の土壁を何とか残せないかと考え、プランニングに影響しない箇所の土壁は全て残しました。今回、外壁は全て張替しましたが、土壁の上から、新たにウレタン系の断熱材を施工して、その上から外壁を貼りました。結果的には、土壁とウレタン断熱材との二重の断熱構造になりました。

既存土壁の利用
写真:既存の土壁を壁材として、そのまま残して施工を実施



お引渡後の後日談になりますが、お施主様の息子さんから、以前に比べてかなり室内が暖かくなったと仰って頂きました。一方で、施工上土壁を取り除かざるを得なかった箇所は、少し音が響く様になったとのご意見も頂きました。このことからも土壁の遮音効果が高いと言えます。

息子さんからは、土壁を残してもらって良かったと言って頂きました。


形を変えて再生した階段腰板


T様邸には大変立派な木材が使われている場所があります。そのうちの一つが階段です。

今回のリノベーションでは玄関を入ってすぐの登り口の向きを変え、傾斜も緩やかにしたいとのご希望で、階段を架け替えしました。そこで、階段に使われていた欅の踏み板を再度、新しい階段に利用できないかと考えたのですが、サイズと数量が合わないことから、階段としての再生は諦めることになりました。

その代わり、どこかに使えないかと悩んだ結果、今回改築した玄関の腰壁材として利用することにしました。ケヤキの板の木目はとっても美しく、格式を感じさせる玄関になりました。

階段踏板の再加工
写真:再加工した階段踏板。階段を解体し踏板表面を削って、玄関腰壁に加工



玄関の雰囲気
写真:階段腰板を再加工して玄関の腰壁に利用。
赤みのある木目の美しいケヤキが玄関の風格を高めます。写真の左側はシュークロークになっており、壁一面に棚が設置されています。靴はもちろん、玄関や外回りで利用する道具類も仕舞えます。天井はヒノキの格天井。写真右側には広縁に通じる建具が入っています。(下部写真)


風格のある建具の再利用


今回のT様邸のリノベーションでは、立派な建具の一部をそのまま利用しました。しかし、そのまま利用するには問題点もありました。それは、建具のデザインとリノベーションした空間のデザインがアンバランスにならない様にしなければいけないことです。

今回のリノベーションでは、全体的にナチュラルテイストのデザインですが、玄関近くの広縁との間に古い建具は古民家の風合いが強いものです。そこで、玄関はナチュラルテイストの色合いにしつつ、格天井や和風玄関引き戸などを採用し、和テイストを強くしたデザインにしました。階段踏板を再加工したケヤキの腰壁も調和のとれた雰囲気を造り出しています。

再利用した建具
写真:階段踏板を再生した腰壁と再利用した広縁入口の風格のある建具。



この他にも、既存の地下室を間取変更後でも、そのまま利用できる様に入口変更を行ったり、小屋裏空間を吹抜けや収納で用いたりと、既存の家の空間価値を高める工夫を行いました。

T様邸は何代か前のご家族が植えて育てた木を製材して新築時に用いられていました。今回のリノベーションではその木材を再加工して利用しました。ご家族が大切にされてきた家で利用されてきた木材や建材を再加工して再利用することで、お住まいを次の世代へと伝えるお手伝いができたのではないかと感じています。

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肥塚光義
専門家

肥塚光義(大工)

肥塚建築

木の癖、反りを見極め、1本1本の特性を最大限に活かす「木組みの技」は、宮大工に学び、50年近い経験に裏打ちされた熟練技術。その卓越した技は古民家再生や移築において遺憾なく発揮されています。

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