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屋敷林の役割と利用

肥塚光義

肥塚光義

テーマ:屋敷林

先日、屋敷林として植えられていた杉の巨木と欅(ケヤキ)を建築資材として利用できないかと相談を受け、滑川市の伐採現場を訪れました。




写真:伐採現場の屋敷林(杉の巨木)と柿の木

ケヤキの大木
写真:ケヤキの大木


屋敷林といえば、砺波の散居村が全国的にも有名ですが、屋敷林に囲まれた家や水田との景観はとても美しく感じさせてくれます。屋敷林のことを砺波では「垣入(かいにょ)」と呼びますが、地域によって呼び名も変わります。昔は「高(土地)を売っても垣入は売るな」という言葉があったそうですが、それほど屋敷林は重要な存在だった様です。

屋敷林のある風景
写真:屋敷林のある風景と薬師岳・鍬崎山(滑川市から見た風景)


屋敷林の役割とは

さて、屋敷林は美しい景観を作るためだけに存在するワケではありません。様々な目的で植えられています。主な目的は以下の様なものです。

・防風
・遮光および温度調節
・落ち葉・枝などによる燃料・肥料としての利用
・建築資材としての利用

【防風】
特に冬の北西の季節風を和らげるのが目的です。

【遮光・温度調整】
エアコンの無い時代、夏の暑さを緩和するために屋敷林は大きな役割を担っていました。木陰を作ることで、直射日光が室内に入ることを抑制し、快適さを保っています。

【燃料・堆肥】
燃料が炭や薪だった時代では、落ち葉や枯れ枝は炊事などで使用する貴重な燃料でした。現代では電気や灯油、ガスなどにエネルギー源が変わってしまい、燃料の供給源としての屋敷林の機能は失われてしまいました。同様に落ち葉を利用した堆肥も他の肥料によって役割を失いました。

【建築資材】
屋敷林の大きな役割の一つが建築資材です。そのため、屋敷林には杉や檜などの針葉樹が多く見られます。他にもケヤキなどの硬い材質の広葉樹も植えられています。高価な木材を自分たちで確保するという狙いもあった様です。


屋敷林を建築資材として使うには

杉や檜などの木材単価はバブル期付近を境に下落して、現在では以前に比べかなり安価になってきています。プレカット(木材加工の自動化)や人工乾燥による製材の効率化も木材が安く入手できる様になった一因かもしれません。そのため、屋敷林の木を建築資材として利用する価格的メリットが薄れてきました。更に、木材を伐採して使用するためには、自然乾燥させる場合で2〜3年掛かかることもあります。(人工乾燥であれば、短期間で利用可能になります)

作業場
写真:工房に並ぶ加工前の木材。地元の山や屋敷林から切出した木材は別の倉庫で自然乾燥させています。(肥塚建築工房)


もちろん屋敷林を利用するメリットもあります。
日本の森林には高度経済成長期に伐採され、その後植林されたものも多いため、まだまだ細い木材でも製材されて建築資材として利用されています。ところが、屋敷林の中には明治や大正、更には江戸時代に植えられたものもあり、立派な巨木が多く見られます。関東など雪の少ない地域では3.5寸角の柱が主流ですが、雪国の富山では最低でも4寸の柱を使いたいところです。更に梁に至っては丸太で利用する場合も多いため、この様な建築資材が屋敷林から入手できるのは良いことだと思います。また、ケヤキなどの流通量の少ない樹種の入手も貴重だと感じます。

梁に使われた丸太
写真:梁に使われた太い丸太。大黒柱には10年以上自然乾燥させた1尺(10寸)角ケヤキ柱を用いました。(黒部市H様邸)


屋敷林の利用は良材を得るという点以外にも、最近では薪ストーブや囲炉裏などの人気もあり、枯れ枝や落ち葉を燃料として利用する需要も期待できます。バイオマス資源を有効に利用することで化石燃料由来のCO2排出量を抑えることができ、環境にとってもとても優しいといえます。

何よりも祖先の方々が大切にして自分たちの子孫のために残した屋敷林という資産を大切に利用するということは、とても尊いことではないかと感じます。

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肥塚光義
専門家

肥塚光義(大工)

肥塚建築

木の癖、反りを見極め、1本1本の特性を最大限に活かす「木組みの技」は、宮大工に学び、50年近い経験に裏打ちされた熟練技術。その卓越した技は古民家再生や移築において遺憾なく発揮されています。

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