制度はあるのに、なぜ社員は相談しないのか? 古参社員の介護離職を防いだ支援実例

和氣美枝

和氣美枝

テーマ:仕事と介護の両立支援

ある日突然、創業のころから会社を支えてきた経理の社員が、会社に来られなくなる。
そんな状況に直面した経営者の方から、私のもとへご相談をいただきました。
最近は、このようなケースが増えてきたと実感しています。

仕事と介護の両立支援が本当に必要になるのは、制度を整えたときではなく、
頼りにしていた社員が言葉を失った瞬間なのだと、現場でいつも痛感しています。

私は介護離職防止対策アドバイザーとして、これまで150社以上の企業の介護離職防止対策・両立支援に関わってきました。
ここでは、創業50年の小規模事業者で実際にあった一件をご紹介します。

「制度はあるのに、なぜ社員は相談しないのか」
同じ悩みを抱える経営者・人事の方に、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。

ある日突然、古参社員が出社できなくなった日


ある創業50年の小規模事業者から、ご連絡をいただいたのは数年前のことでした。

「創業の頃から会社を支えてくれている社員の配偶者が、突然倒れたんです」

電話越しに聞こえてきた経営者の声には、戸惑いがありました。

その会社は、地域に根差して長年事業を続けてきた会社でした。
少人数だからこそ、一人ひとりが会社を支えているという実感が強く、「あの人がいないと回らない」という業務も少なくありません。

以前から私の活動を知ってくださっていた経営者の方でしたが、「介護」というテーマは、日々の経営課題の中で優先順位が高いものではなかったのだと思います。

目の前には、人材確保、業務改善、取引先対応、そして何より事業承継と待ったなしの課題が山積みです。

それでも、大切な社員が突然立ち行かなくなったとき、相談先として私を思い出してくださいました。

社員が口にしたのは「会社への申し訳なさ」だった


まずお会いしたのは、辞めることを考えていたご本人です。

ご本人が繰り返していたのは、
「会社に迷惑をかけたくない」という言葉でした。

「これ以上、周囲に負担をかけられない」
「自分が抜けたら仕事が止まってしまう」
「だから辞めるしかないと思っている」

「子どももいないしパートナーのお世話もしなくてはいけない」とおっしゃておられましたが
社員であるご本人様の状態は
介護そのものの大変さよりも、
「自分が抜けたら会社が回らない」という責任感が、ご本人を追い詰めていたのです。

これは、責任感の強い方ほど陥りやすい状態です。

私が大切にしているのは、まずその想いを丁寧に整理することです。

家庭環境の調整についてご家族と話し合うことはもちろんですが、それと同じくらい重視しているのが、「業務の棚卸し」です。

自分が担っている仕事を一つひとつ書き出し、
・何ならできるのか
・何を減らせるのか
・何を他の人に任せられるのか

を整理していく作業です。

「全部の仕事ができないわけではないはず」

この視点を、ご本人と一緒に確認していきました。

時間も気持ちも限界だったところに、少しずつ「すき間」を作っていく。
その作業を通じて、「辞めないで済む道」が見えてきたのです。

制度より先に必要なのは「属人化からの脱却」


この会社は、決して社員への配慮が足りない会社ではありませんでした。
制度も整えていましたし、情報提供も行っていました。風通しが悪い社風でもありません。

それでも、「言い出しにくい」という空気は生まれてしまっていたのです。

なぜか。

答えは、「属人化」にありました。

中小企業では、一人ひとりの役割が大きく、業務が個人に紐づきやすい構造があります。

「あの人がいないと回らない」

この状態は組織の強みでもありますが、その人自身を追い詰める原因にもなります。

「自分が休んだら全部止まる」

そう思い込んでしまうと、相談する前に「辞める」という選択をしてしまうのです。

つまり、介護離職の問題は、
「介護の問題」である前に、
「組織構造の問題」でもあるのです。

今回のケースでは、ご本人は辞めずに働き続けることになりました。

ただし、「突然休む可能性がある」ことを前提に、業務の脱属人化を進めました。

不要なオペレーションはないか。
属人的になっている業務はないか。
引き継げる仕事はないか。

一つひとつ整理しながら、会社全体の業務改革を進めていったのです。

結果として、一人の介護問題をきっかけに、組織そのものが強くなっていきました。

外部相談窓口という選択肢


この経験をきっかけに、その会社では弊社と顧問契約を結ぶことになりました。

外部に相談窓口を設けたからといって、「言い出しにくい」空気が一夜で変わるわけではありません。

それでも、社外に専門家がいることには大きな意味があります。

「会社の人には言いにくい」
「こんな相談をしていいのかわからない」

そんな段階でも、外部だからこそ相談できることがあります。

また、社内だけでは見えなかった課題が、第三者の視点によって明確になることも少なくありません。

現在は、中小企業でも導入しやすい形で、外部相談窓口や両立支援の仕組みづくりをご提供しています。

両立支援は、採用難時代の経営戦略になる


「仕事と介護の両立」は、従業員個人の家庭の問題として捉えられがちです。

あるいは、「お互い様」で支え合うもの、と考えられていることも少なくありません。

しかし、それだけでは不十分です。

本来の仕事と介護の両立支援とは、
「両立しながら、どう成果を出し続けられるか」
を一緒に考えることです。

これは、採用難時代における極めて重要な離職防止策になります。

さらに、「仕事と介護の両立支援環境がある会社」であることは、中途採用市場でも大きな魅力になります。

2035年には、働く人の約6人に1人が育児や介護などのケアに関わると推計されています(出典:パーソル総合研究所「ケア就業者に関する研究」)。

両立支援は、リスクマネジメントではなく成長戦略です。

ご相談について


株式会社ワーク&ケアバランス研究所では、現役介護者の視点と10年以上の支援実績をもとに、
企業ごとにカスタマイズした介護離職防止対策をご提供しています。

・社員が突然介護で出社できなくなり、対応に悩んでいる
・制度はあるのに、社員が利用せず辞めてしまう
・中小企業で、属人化と両立支援を同時に見直したい

このようなことでお困りの場合は、まずはお気軽にご相談ください。

※本コラムは個人情報の観点から、細部を変更しておりますことをご了承ください

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和氣美枝
専門家

和氣美枝(介護離職防止対策アドバイザー)

株式会社ワーク&ケアバランス研究所

企業の介護離職対策・両立支援を一貫支援。現役介護者の視点と制度知見で、離職を防ぎ、制度が機能する組織づくりを支援します。研修だけでなく制度設計・個別ケース対応まで一貫してご相談いただけます。

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