トルコ地震から10日
「異次元の少子化対策」は空振り
岸田政権が掲げた「異次元の少子化対策」は、多くの国民の期待を集めたが、その実態はこれまでの子育て支援策の延長にとどまっているように見える。
保育料の無償化や児童手当の拡充など、すでに子どもを持つ世帯に対する給付が中心で、「出生数の維持・増加」という本来の目的にはほとんど寄与していない。
事実、2024年の出生数は68万人を割り込み、過去最少を記録した。日本社会は今、戦後最大の人口危機に直面している。
私たちが直視すべきなのは、子どもを産むかどうか以前に、そもそも「結婚する人」が減り続けているという現実である。
日本では子どもの大多数が婚姻関係の中で生まれているため、婚姻数の減少はそのまま出生数の減少に直結する。
婚姻数の推移
婚姻数の減少は、少子化の最大の構造的要因である。
下の図は、厚生労働省の人口動態統計をもとにこども家庭庁が作成した「婚姻件数及び婚姻率の年次推移」である。
1972年には年間109万9984組と過去最多の婚姻数を記録したが、それ以降は減少傾向にあり、2023年には47万4717組と、ピーク時の約半分以下にまで落ち込んでいる。
人口千人当たりの婚姻率(婚姻率)も1970年代は9〜10程度で推移していたのに対し、2023年には3.9まで低下しており、戦後最低水準となっている。
この傾向を食い止めない限り、どんなに育児支援を充実させても出生数の増加は望めない。
婚姻数減少の原因と不動産の高騰
婚姻数が減っている背景には、若年層の経済的な不安、非正規雇用の増加、長時間労働、そして何より生活コストの上昇がある。
私は不動産を扱う立場からも、「住宅取得の難しさ」の深刻さに注目したい。
近年の不動産価格の高騰により、首都圏や地方都市でも一般の若年夫婦が住宅を購入することが困難になっている。
この状況を受け、共働きの夫婦がペアローンを組んで住宅を購入するケースが増えている。
しかし、夫婦のどちらか、特に妻が妊娠・出産に伴って収入を減らすことになれば、住宅ローンの返済計画は一気に苦しくなる。
将来の家計リスクを避けるために「子どもは持たない」という選択をする夫婦が出てくるのも、無理からぬことだろう。つまり、不動産価格の高騰が、間接的に少子化を加速させている可能性があるのである。
この問題に対して政府は、子育て支援だけでなく、「住まい」の問題にも正面から向き合うべきだと考える。
不動産の高騰を抑えるための提言
私は、住宅価格の高騰に歯止めをかけるための有効な手段として、日本銀行による段階的な利上げの実行が必要だと考えている。
現在、超低金利政策が長年続いた結果、住宅ローン金利が極めて低水準に保たれ、不動産需要が過熱している。
その結果、実需を超えた住宅取得競争が生まれ、価格が押し上げられてきた。
利上げによって住宅ローン金利が上昇すれば、家計が組める住宅取得予算が下がり、過剰な需要は冷え込む。
結果として不動産市場が調整され、価格が下がる可能性がある。
これは実需層、特に若年層にとっては歓迎すべき展開である。
さらに、利上げには不動産投資、特に外国資本による買い占めを抑える効果もある。
東京や大阪などの大都市では、外国人投資家による高額物件の購入が地価上昇に拍車をかけており、これは明らかに一般の日本人の住宅取得を困難にしている。
政府は不動産投資の自由を保障する一方で、自国民の居住権確保を優先すべきではないだろうか。
加えて、利上げによって円高方向への為替変動が起これば、エネルギーや食料などの輸入価格が抑えられ、インフレ抑制にもつながる。
もちろん、円高は輸出企業にとっては逆風となり得るが、現時点で最優先すべきは、実質賃金が下がり続け、生活に苦しむ国内消費者の生活安定である。
外国資本による不動産購入の抑制策
外国資本による不動産購入を抑制するための手段としてはこんなものがありえる。
1.一定規模以上の土地・建物の取得に事前審査制を導入
たとえば国防やインフラ関連施設周辺では、すでに安全保障上の理由で届け出制度が設けられているが、これを都市部の住環境保全目的でも広げるべき。
2.投資目的による取得に課税強化や保有制限
住宅供給の逼迫を防ぐために、居住用以外の用途(例:民泊・賃貸)での取得には取得税・保有税の強化を検討すべき。
3.空き家・未利用地の取得制限
購入後に長期間未使用のまま保持されるケースもあり、地域の景観・治安悪化を招く恐れがある。利用実績の義務化や保有期間制限などの制度化が望まれる。
4.地方自治体による規制権限の付与
地域ごとに事情が異なるため、自治体が条例で一定の取得制限や優遇措置を設定できるよう法整備を進める。
政府に「本気の少子化対策」を期待する
少子化は社会保障の維持や経済成長の前提となる「人口構造の健全性」を揺るがす最大の国家的課題である。出生数を増やすためには、結婚しやすく、家を持ちやすく、子どもを産みやすい社会をつくるしかない。
そのためには、育児支援だけでなく、住宅政策、金融政策、税制、労働環境など多方面にわたる根本的な改革が求められる。政府には、目先の人気取りではなく、日本の未来を見据えた「本気の少子化対策」を期待したい。



