住宅に対する価値観が多様化しています
相続関連のコラムや、セミナー講師を務めさせていただく際に「最近は相続でもめる原因が増えている」と伝えさせていただいています。
その原因の中でも特に私の持論として強く伝えているのは「核家族化の進行による弊害」です。
「核家族」の定義は「夫婦あるいはその一方と未婚の子だけで形成される家族の単位」ということになります。出展によって夫婦のみの世帯や、単身世帯などを含むケースもあるようですが、一般的には「夫婦と未婚の子」がともに住む世帯と考えてよいでしょう。
国勢調査でも核家族世帯を「夫婦のみの世帯」、「夫婦と子供から成る世帯」、「男親と子供から成る世帯」、「女親と子供から成る世帯」に区分しており、それぞれの世帯数を調べることができます。
昭和45年から5年毎に行われている国勢調査において一世帯の人数は減少を続け、昭和45年当時3.45人/世帯でしたが、平成27年には2.38人/世帯まで減少しました。
一方、国勢調査の分析はあまり大きく取り上げられませんが、3世代世帯、すなわち祖父母と子、及びその子(孫)の3世代が同居している世帯数は平成12年以降のデータでも顕著に減少しています。(下図)
ここでは、3世代を
「子の世代」(0歳から20代)
「親の世代」(30代~50代)
「祖父母の世代」(60代~)
と想定し話を進めます。
同居することのデメリット
「親の世代」にとって、夫あるいは妻の両親と同居することは様々な気遣いも必要になると思います。
夫婦ですら、それまで育った生活環境や価値観の違いが気になることもあるのですから、ましてやその親とでは世代の差やさらに大きな価値観の違いなどがあることは容易に想像できます。
夫婦ともに働き、専業主婦が減り、夫婦間の役割が変化している今の社会において、家のこと、さらにはその親のことまで気遣わなければいけないのは負担になることもあるでしょう。
同居することのメリット
一方で、3世代が同居することによるメリットもあると思います。むしろ、メリットの方が大きいのではないかと私は考えます。
政府が平成27年3月に閣議決定した「少子化社会対策大綱」においても、子育てしやすい環境づくりの中で「三世代同居・近居の促進」を掲げています。
(近居というのは30分以内の距離に親世帯と子世代が住んでいる状況のことを言います。)
3世代が同居する、あるいは近くに住むことで、世代間の交流が生まれ、子育てに「祖父母の世代」も関与することによって「親の世代」の夫婦共働き生活を自助的に支えることができる、という考えです。
さらに少子高齢化が進めば、「親の世代」は自分たちが高齢者になった時に支え手となる「子の世代」の負担だけでは賄えなくなります。これを改善するための一つの大きな手段は夫婦ともに収入がある状況を維持することだと思います。
三世代同居を成功させるためのポイント
1.祖父母の世代の理解
三世代同居がうまくいくためには「祖父母の世代」の理解も必要です。
昔と違い、今は少子高齢化が進み、「祖父母の世代」の年金や医療費などの社会保障費を相対的に少なくなってくる現役世代で支えなければ成り立たなくなっています。
今、社会的に働き方改革が進み、仕事の仕方も多様化してきています。男女の差も小さくなってきています。ところが「祖父母の世代」では今でも「夫が働き、妻が家庭を守る」という認識を持っていることも珍しくありません。
世代間のギャップは仕方ないことですが、社会構造の変化により生まれたこのギャップを理解しなければ、同居はうまくいきません。
2.親の世代はつなぎ役
親の世代はつなぎ役を務める必要があります。特に夫の両親と同居する場合には「夫の奥様」への配慮が重要になります。血のつながった両親と同居することについて、実の子としては当然にやらなければいけないことがあるでしょうが、血のつながっていない奥様の立場で考えると最大の味方は夫です。その夫が奥様のことを配慮しなければ奥様の負担ばかりが増えかねません。気遣いもあるでしょうが、親の世代の様々な気遣いが成功のカギを握っているといえます。そこから得られるメリットを享受するために必要なことです。
核家族化が生んだその他の弊害
最近では核家族化が進行したことで身近な親族の「死」に接する機会が減っているといわれます。
「祖父母の世代」と「子の世代」で頻繁に交流があった家庭で、祖父母が亡くなった時。「子の世代」すなわちお孫さんもお孫さんなりに感じることがあると思います。
直接ではなくても、普段は見せることのない両親の涙を見て、「大切なものを失ったんだ」と感じるでしょう。身近な人の死は悲しいことですが、死は必ず訪れます。
こうして身近な、自分のことを気にかけてくれていた親族から精神的にも与えられることは多いでしょうし、失うことから学ぶこと、感じる事も多いと思います。
ところが、核家族化の進行で身近な親族の死に接する機会が少なくなったといわれます。中には、40代50代になっても一度も親族や親しい人の死に接したことがない、火葬場に行ったことがないという人も増えているという話を聞きます。
悲しみを知るからこそ楽しいことがより楽しく感じられる。失うことで大切なものをより大切に感じられるということもあります。
「祖父母の世代」「親の世代」「子の世代」の三世代が一緒に住むことで
・「祖父母の世代」は近くで「親の世代」「子の世代」の成長を見守り、時に子育てに協力し、自分が体調を崩したり、不自由になった時には支えてもらうことができるようになる。
・「親の世代」は近くで親に異変がないか見守り、夫婦共稼ぎでも子育ての協力を得られやすくなる。
・「子の世代」にとっては祖父母が一緒に住むことで「おじちゃんの知恵、おばあちゃんの知恵」を授かり、身近な家族が増え、人との交流、気遣いが上手になる。
などすべての世代にメリットがあると思います。
前段でお話しした通り、もちろん一緒に住むことで気遣いは増えるでしょう。しかしながら、すべての世代が享受できる「身内だからこそ」の様々なメリットはほかに代えがたいものだと思います。
核家族化が当たり前になった世の中の不動産事情
さて、そんな核家族化が進んでしまった世の中ですので、世の中に供給される不動産も核家族向けに作られた物件がほとんどです。
建売りや賃貸の戸建て住宅、マンションなどは多くの人に受け入れられやすいよう、核家族、すなわち親と未婚の子の2世代が同居することを前提に作られています。
2世帯、三世代で同居したいと思うと注文住宅を新築するか、非常に少ない中古物件が売りに出るのを探さなければなりません。
最近、弊社では2世帯、三世代でお住まいになられていたものの「祖父母の世代」の一人あるいは両方がお亡くなりになり、住まなくなってしまった家の売却に関する相談を立て続けに受けました。
こうした家は、今日お伝えしたような「2世帯、三世代で同居したい」とお考えになられるご家庭にとってはメリットがあるはずです。
まとめ
ちょうど今、衆議院選挙の期間中です。
各党の候補が教育の無償化なども含めた社会保障の見直しなどを公約に掲げ、声高に叫んでいます。しかし、政治が自分たちの将来をすべて安心なものにしてくれるとは限りません。
自分たちの将来を安心して過ごせるようにするために、個々人が行う自助対策が重要です。
「家が作る家族の形」もあると思います。
私自身も一つの建物に「2世帯、三世代」で住んでいます。すでに祖父母は80代後半になり高齢ですが、毎日のように孫と顔を合わせる生活を楽しんでいます。
同居していると、相続税上もメリットがあり、政府が進める少子化対策や、祖父母の世代から親の世代へ引き継ぐ資産形成の面でも効果があります。
このコラムの読者の方で「同居を考えてみようか」と思われる方がいらっしゃればお力になります。お気軽にご相談ください。