物流のプロが、なぜ「対話」を仕事にしたのか。モノとコトの狭間に見えた真実
先般、本屋大賞2026を受賞した朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』を読んだことはありますか。既に手に取られた方も多いかと思いますが、私にとっては、令和という今の空気を描き出した「時代のど真ん中」を射抜く一冊でした。
出版社は日本経済新聞出版。そう、あの日経です。 経済の総本山とも言える日経が、この作品を通じて「今の世相」を提示したことには、大きな意味があると感じています。規模だけでなく影響力としての「ファンダム経済」を示しています。
「動かない俯瞰」という錯覚
この物語の通奏低音となっているのは、「視野」というテーマです。 私は長年、物流の現場や経営の席で、多角的な視点を持つ重要性を説いてきました。しかし、本書を読んで改めて突きつけられたのは、現代社会に蔓延する「静止による拡張錯覚」という歪みです。
今の社会では、現場から離れ、高い場所から数字やデータを眺める「動かない俯瞰」こそが賢さであるとされ、泥臭く動き続ける「現場」がその下に見られる傾向があります。
しかし、視野を広げるとは本来、具体から離れて静的(スタティック)になることではないはずです。むしろ、多様な他者と交わり、立体的で動的なナガレを感じることのはず。構造を捉えたつもりになって身動きが取れなくなるのは、視野が広がったのではなく、ただ「現場」という生きたリアリティを失っただけなのです。
私たちはすでに「中」にいる
タイトルの『イン・ザ・メガチャーチ(巨大な教会の中で)』という言葉は、読後にその真価を発揮します。 “IN THE” ―― つまり、私たちはすでにこの巨大な装置の中にいます。
SNSのタイムライン、企業の利益至上主義、あるいは「成功か失敗か」といった画一的な評価軸。それらすべてが、私たちを信じ込ませ、思考を固定化させる「教義」のように機能しています。
効率や利益という名のルールを信じるあまり、現場で生まれる繊細な知恵や、一人ひとりのリアルな営みを、無意識のうちに切り捨ててはいないでしょうか。
視座を広げる「共読」のススメ
私は、37年にわたり物流という「動く現場」を見続けてきた経験から、組織が陥っている「滞り」を解消するための視座を広げるサポートをしています。
一つおすすめしたいのが、社内や組織やグループ内での「読書会(共読会)」です。 例えばこの『イン・ザ・メガチャーチ』を題材に、それぞれの個人が思う「自分を縛っている教会的なもの」が何かを対話する。そうすることで、普段の業務では見えてこない互いの視点を知り、組織全体の視座を立体的に広げることができます。
さて、あなたは今、どのようなシステムの中にいるでしょうか。 まずはそれを、少しだけ外側から問い直してみることから始めてみませんか。



