自閉スペクトラム症(ASD)の診断、どう考える?自分らしく生きるためのポイント

最近はSNSなどで、専門職に限らず個人の方が、お子さまの発達に関する相談を気軽に受ける姿を目にするようになりました。
元〇〇(〇〇には資格や職種)、発達特性のあるお子さんを育てている当事者ママなど、多様な背景を持つ方々が情報発信をおこない、相談にも応じています。
そのなかで有機的な情報共有ができたり、信頼し合えるコミュニティが生まれたりと、素敵な動きが広がっているのも事実です。
しかし、相談援助職としての立場から見ると、特に「無料相談」や「24時間対応」といったかたちでの相談対応には慎重にならなければならない理由があります。
以下に、その理由を5つに整理しました。
1. 専門職としての信頼性の確保(専門性の対価)
相談援助は専門的知識と技術に基づく職務です。無償で行うことで、「誰でもできるもの」「価値のないもの」と誤解され、専門職全体の信用や社会的地位を損なうリスクがあります。
特に継続的な支援では、「対価を得ない=専門性を軽視している」と見なされることもあり、職業倫理上の問題にもつながります。
2. バウンダリー(関係の境界)が崩れやすくなる
支援者とクライアントとの関係が「対等な契約関係」ではなく、「親切な人と感謝する人」という私的・情緒的な関係になりがちです。
支援者が「いつでも相談していいよ」と無償で対応していると、クライアントに心理的な依存が生まれたり、支援の目的が不明確になったりして、適切な自立支援が難しくなります。
3. 責任の所在が曖昧になる
有償契約であれば、支援内容・回数・目的が明確になりますが、無償で対応すると「どこまで対応するのか」が不明瞭になります。
万が一トラブルが発生した場合、支援者は説明責任やインフォームドコンセント(事前説明と同意)を果たすことが難しくなります。
4. 支援の持続可能性が損なわれる
無償の相談対応を続けると、時間・感情・経済的な負担が支援者に偏ってしまい、長期的に継続することが難しくなります。
さらに、「あの人は無償でやってくれる」といった評判が広がれば支援者の負担はさらに大きくなり、結果的にすべての相談に対応できなくなるリスクもあります。
5. 社会的な専門性が矮小化される
「無償で支援してもらえるなら、それでいい」と思われてしまうと、専門性に対する正当な対価が軽視され、専門職全体の価値が下がります。
このような動きが制度内の支援にも影響し、人材確保や制度の持続性に悪影響を及ぼすことにもつながりかねません。
まとめ:無料相談は「善意」ではなく「倫理」の問題
無料相談は一見、「思いやり」や「親切」のように見えますが、実際には専門職としての責任・公平性・支援の質の維持といった、重大な倫理的課題が含まれています。
だからこそ、相談援助職は次のような姿勢を大切にする必要があります。
• 「好意」や「人柄」ではなく、「職業倫理と専門技術」に基づく支援を行う
• 有償契約という枠組みの中で、支援の質と一貫性を保つ
• クライアントに対する説明責任と合意形成を大切にする
• 自身のセルフケアを守ることも職業倫理の一部である
• 専門性を守ることは、社会全体の支援の質を守ることにつながる
個人的な見解ですが、「24時間対応OK!」「DMでなんでも聞いてください!」という呼びかけは、一見フレンドリーで親切なように見えても、バウンダリーの侵害や職業倫理の崩壊、専門職の信用の低下につながる恐れがあると、私は考えています。
プロとして相談援助を行うには、「やさしさ」だけでは足りません。
専門的責任・明確な枠組み・適正な対価があってこそ、クライアントの人生に本当の意味で寄り添える支援が可能になります。
相談する側も、受ける側も、無料相談を「善意」ではなく「倫理」の視点から捉えていただけたらと思います。
※本記事は、個人として専門的支援を提供している相談援助職や心理職が、無償相談に応じる際のリスクや倫理的課題について述べたものです。
公的機関(行政・福祉センター・教育相談機関など)が提供する相談窓口は、基本的に無料で利用できる大切な社会資源であり、必要な支援を受ける第一歩としてご活用いただけます。



