フリーランスの「社保節約スキーム」は本当に安全か? 起業支援のプロが語る実態とリスク、賢い代替策

新井一

新井一

テーマ:起業

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

――新井さん、最近「国保逃れ」という言葉で報道されているフリーランス向けの社会保険節約スキームについて、起業支援の現場ではどのような相談が増えていますか?

新井:ええ、実は最近かなり増えていますね。特に、個人事業主やフリーランスの方から「こういう話を聞いたんですけど、どう思いますか?」という相談が目立ちます。国民健康保険料が高くて困っている方にとっては、確かに魅力的に見えるスキームなのですが、私は慎重に考えるべきだとお伝えしています。税理士の先生にも意見を聞いたのですが、明確に否定的な見解でしたね(笑)

「社保節約スキーム」とは何か

仕組みの基本構造

――まず、このスキームの仕組みを教えていただけますか?

新井:要するに、フリーランスが一般社団法人などの役員や職員として加入することで、国民健康保険・国民年金から会社の社会保険(健康保険・厚生年金)へ切り替えるという手法です。社会保険料は標準報酬月額で算定されますから、給与設定を抑えれば保険料も下がる。国保より安くなるというわけです。

――具体的な流れはどうなっているのでしょう?

新井:よくあるパターンとしては、こんな感じです。

  • 法人が雇用形態や役員就任による社保加入を提案してくる
  • 形だけの業務(アンケートや事務作業など)が設定される
  • 給与設定を低めにする
  • 標準報酬月額ベースで保険料が決まるため、負担が軽減される
  • 国保と比較して有利に見える構造

新井:たとえて言えば、「施設の会員種別を変更して割引料金で利用する」ようなイメージでしょうか。ただ、その会員証が正規の手続きで発行されているかが問題の核心です。

違法かどうかの分岐点

「実態」がすべてを決める

――このスキームは違法なのでしょうか?

新井:ここが極めて重要なのですが、合法か違法かは「実態の有無」で判断されるのです。実態があるかないかで、結果はまったく変わります。

――実態がある場合というのは?

新井:実際に雇用関係や業務委託、役員としての職務が存在し、指揮命令系統・業務記録・成果物・報酬額に整合性がとれているケースですね。手続きも適用ルールに則っていれば、即座に違法とは断定できない場合もあります。報道でも専門家が「違法とまでは言えないが、制度の抜け穴を利用した脱法的手法」と評していました。

――では、実態がない場合は?

新井:ここが危険です。実際には働いていないのに就労の体裁を整えている、成果物や記録が乏しい、指揮命令関係が存在しない、社保加入目的だけの形式的な業務。こうしたケースでは前提条件が崩壊します。加入資格の遡及取消、保険料の追徴請求、関係者への調査波及といった実務上の重大な影響が出やすい領域です。行政も事業の実態確認を強化する方針を示しています。

いま「危ない」と言われる理由

政治家関与で可視化、制度側が塞ぎに動きやすい

――なぜ今、このスキームが「危ない」と言われているのでしょうか?

新井:主に3つの理由があります。まず1つ目は、政治家の関与疑惑によって問題が表面化し、制度側が規制に動きやすい状況になったことです。報道によれば、維新の議員複数名が一般社団法人の理事として社保に加入している疑惑が浮上し、党が調査に着手する展開になっています。

――政治問題化すると何が変わるのですか?

新井:これまで見過ごされていたグレーゾーンが、運用見直しや調査強化によって一気に規制対象になる典型的な流れになりかねません。私は25年以上この業界にいますが、こうした「グレーゾーンが突如注目される」場面を何度も経験してきました。

加入者が多い形は調査の標的に

新井:2つ目の理由は、加入者数が多い組織は調査対象になりやすいという点です。理事が大勢いるなど、外見上「本来の制度趣旨から逸脱している」と見なされる形態は、行政もメディアも注視しやすいですね。

個人のリスクが節約額に対して非対称

――3つ目の理由は?

新井:最も強調したいのは、個人が負うリスクが、節約できる金額と比べて著しく大きくなる可能性があるということです。毎月数万円の節約効果に対して、否認や取消、追徴のコストは一度に甚大な額になります。「知らなかった」という弁明は通用しにくい分野です。

このスキームの利点と欠点

利点は明確だが限定的

――改めて、このスキームの利点と欠点を整理していただけますか?

新井:利点は明快です。

  • 月々の支出が減少する(国保負担が重い層ほど効果大)
  • 加入手続きが単純で手軽に見える

新井:一方で、欠点は深刻です。

  • 実態が不十分だと遡及処分のリスクが急上昇
  • 問題が顕在化すると制度変更で梯子を外される
  • 税務調査ではなく社会保険の適用調査対象となり、年金事務所等が関与
  • 紹介料や入会金などがある場合、経済的対価の説明が困難になる

もし勧誘されたら、最低限ここを見る

「実態」の証拠が揃うかを冷静に棚卸し

――もし読者の方が勧誘されたら、どこをチェックすべきでしょうか?

新井:「実態」を証明できる材料が揃っているか、感情を排して検証することが決定的に重要です。具体的には次の5項目を確認してください。

  • 業務内容が社保加入だけを目的とした虚構ではないか?
  • 指揮命令系統、業務内容、頻度、分量が文書で明確化されているか?
  • 納品物や作業記録(メール、チャット、勤怠表など)が残る仕組みか?
  • 報酬額が業務内容と比較して著しく不自然ではないか?
  • 協力金や入会金などが実質的なキックバックと見なされない構造か?

新井:この中で1項目でも説明に窮するなら、関わらない方が賢明です。数字の魅力より説明責任を果たせるかを優先すれば、トラブルは大幅に減らせます。

起業支援のプロからのアドバイス

――最後に、フリーランスや起業を目指す方へメッセージをお願いします。

新井:「短期の節約より長期の安定性」を選んでほしいですね。社会保険料の負担は確かに重いですが、それは将来の年金受給や医療保障との交換条件でもあります。

――起業準備の段階から考えるべきことですね。

新井:まさにその通りです。グレーな手法に安易に飛びつくのではなく、正攻法で設計し、誰にでも説明できる形を構築する。結局それが最もリスクが低く、本業に専念できる道なのです。

――ありがとうございました。

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。

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新井一(起業コンサルタント)

起業18フォーラム

起業18フォーラムを運営。会社員向けに特化した〝再現可能〟な起業ノウハウで、25年間で延べ6万人の起業を支援してきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛けている。会社員のまま起業する方法を伝授するプロ。

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