シニア起業の最適タイミングとは? 60~70代135人の起業実態調査から見えた「定年前vs定年後」の真実

新井一

新井一

テーマ:起業

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

60代以上の起業、7割以上が「独立してよかった」と回答

――今回、起業18フォーラムで実施された「60~70代の独立・シニア起業」に関するアンケート調査、非常に興味深い結果が出ていますね。まず、135人の調査結果から見えてきたことを教えていただけますか?

新井:はい。今回の調査で最も注目すべきは、60代以上で独立・起業した方の74.1%が「独立してよかった」と回答している点です。シニア起業というとリスクばかりが語られがちですが、実際には多くの方が満足されているのです。

――7割以上というのは、予想以上に高い数字ですね。

新井:そうなんです。さらに興味深いのは、起業の最適タイミングについて、「定年前が適切」と「定年後が適切」という意見がほぼ半々に分かれたことです。正直、これは私にとっても少し驚きの結果でした。

――と、おっしゃいますと?

新井:私自身は、起業は1日でも早い方が良いと考えているタイプなのです。ですから、定年後が適切だという意見がこれほど多いとは予想していませんでした。ただ、それぞれの回答を読み込んでいくと、皆さんそれぞれに明確な理由があることが分かりました。

60代で起業を決意する2大動機

「やりたいこと」と「収入確保」が両輪

――60代になってから起業を決意する動機について、どのような傾向が見られましたか?

新井:大きく分けて2つの動機が目立ちました。1つ目は「やりたいことがあった・独立したいと思っていた」という自己実現型です。「趣味を活かしたかった」「社会貢献したい」「若い頃からの夢を叶えたい」といった声が多く寄せられました。

――もう1つの動機は?

新井:2つ目は「収入を得るため」[/太字]という経済的な動機です。「年金だけでは足りない」「収入が減ったため」といった切実な理由ですね。ただ、これは決してネガティブな動機ではなく、自分の力で生活を支えようという前向きな姿勢の表れだと思います。

――具体的にはどのような回答がありましたか?

新井:例えば、「調理師免許を持っていたので、自分で店をやってみたかった」という60代前半の女性や、「まだ体が動くうちに、社会貢献をしたいと思った」という男性などです。また、「年金を貰うまでの繋ぎ」「老後の資金不足を補うため」といった現実的な声も多数ありました。

独立してよかったと思う理由トップ3

「自由」「収入」「やりがい」が3本柱

――独立してよかったと思う理由について、詳しく教えてください。

新井:調査結果では、大きく3つの理由が浮かび上がりました。第1位は「自分の裁量で仕事ができる」という自由度の高さです。「何でも自分自身で決められる」「思い通りにできる」「時間を自由に使える」といった回答が多数ありました。

――やはり自由というのは大きな魅力なのですね。

新井:そうです。60代まで会社員として働いてきた方にとって、自分の裁量で仕事ができる喜びは格別なようです。第2位は「収入が得られる」という経済的なメリット。「小遣い稼ぎができる」「生活が安定した」という声が寄せられています。

――第3位は?

新井:「楽しい・やりがいがある」という精神的な充足感です。「生きがいになっている」「毎日の生活に張りができた」「やりがいと打ち込める」といった回答が目立ちました。特に印象的だったのは、「顧客から感謝される」「自分が必要とされている実感が得られる」という声です。

――単なる収入源ではなく、自己実現の場になっているのですね。

新井:まさにその通りです。ある方は「組織では得られない広く浅い人的ネットワークを得ることができた」とおっしゃっていました。シニア起業は、経済的な側面だけでなく、社会との新しい関わり方を見つける機会にもなっているのです。

一方で「軌道に乗らない」という現実も

収入の不安定さが最大の課題

――「よかったと思わない」と回答した方の理由はいかがですか?

新井:「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答した方は全体の25.9%でした。その理由として圧倒的に多かったのが、「事業が軌道に乗らない・収入が低く不安定」という声です。

――具体的にはどのような悩みがあるのでしょう?

新井:「なかなか収益が上がらない」「予想していたより現実は厳しかった」「思った以上に顧客が取れない」といった声が寄せられました。また、「やはりサラリーマンと違って収入が保証されているわけではない」という切実な意見もありました。

――収入面以外の課題はありますか?

新井:精神的な負担を訴える声も少なくありません。「人を使うのは物を扱うより神経を削る」「雇われ人の方が気が楽」といった回答がありました。また、「気力があっても体力がついていかない時がある」という体力面の課題も挙げられています。

起業の最適タイミング「定年前vs定年後」

意見が真っ二つに分かれた理由

――起業の最適タイミングについて、意見が分かれた背景を教えてください。

新井:今回の調査で最も興味深かったのがこの点です。「定年前が適切」と「定年後が適切」がそれぞれ47.4%で、ほぼ同率だったのです。正直、私自身は早い方が絶対に良いと信じていたので、この結果には驚きました。

――新井さんは「早い方が良い」派なのですね。

新井:ええ。私は1日でも早く起業すべきだと考えています。ただ、今回の調査結果を見て考えさせられたのは、人それぞれに納得のいく形があるのだということです。定年後に起業された方も、ご自身の選択に満足されている。それは否定できない事実です。

――「定年前が適切」と考える方の理由は?

新井:圧倒的に多かったのが「若い方が体力や気力がある」[/太字]という理由です。「気持ち、体力に余裕があったから」「体力と気力があるうちに独立したかった」といった声が多数ありました。60代でも、やはり年齢を重ねるごとに体力の衰えを実感されているようです。

――他にはどのような理由がありますか?

新井:「若い方が準備期間を長くとれる」「リスクをとれる」という声も目立ちました。ある方は「若ければ、それだけ事業投資の償却期間が長く取れるので、思い切った投資ができる」とおっしゃっていました。また、「やるなら早くできればそれだけ幅が広がる」「もっと多くの成果を出せていたと思う」という意見も印象的でした。これは私も強く共感するところです。

「定年後」派の経済的合理性

――一方で「定年後が適切」と考える方の理由は?

新井:こちらは主に経済的な理由が中心です。「会社員の方が収入が安定する」「退職金を満額受け取りたかった」という声が多数ありました。「定年まで働くことで安定した生活が送れる」「経済的に失敗しても大丈夫な年齢」といった回答も目立ちました。

――収入の安定性を重視されているのですね。

新井:そうです。特に家族がいる方にとって、安定収入の確保は重要な要素です。また、「時間ができるから」という理由も多く挙げられました。「自分の時間がじゅうぶんある」「時間の余裕がある」といった声です。

――定年まで勤め上げたいという気持ちもあるのでしょうか?

新井:それも大きな要素です。「とりあえず前職を全うしたかった」「会社の仕事はやりきりたかった」「一応区切りをつけたかった」という回答が複数ありました。特に公務員だった方は、「きっちりと定年まで働きたかった」という思いが強いようです。

――新井さんご自身は、この結果をどう受け止められましたか?

新井:正直に言えば、もちろん私は早い方が良いと今でも思っています。ただ、人には「自分の選択は間違っていなかった」と思いたい部分もありますし、それは尊重したい。定年後に起業された方々も、それぞれの事情や価値観の中で最適な選択をされているのです。それぞれの納得のいく形であればいいのだと、今回の調査を通じて改めて感じました。

起業を成功させるための重要なポイント

50代には必要な経験・人脈・スキルが揃う

――とはいえ、新井さんが「早い方が良い」と考える理由を教えてください。

新井:理想は35~50代前半です。今回の調査でも、「若い時に独立しておけば、仕事の幅を広げることができ、もっと成果を出せた」と感じている方が複数いらっしゃいました。また、「50代には必要な経験・人脈・スキルが身についている」という意見もありました。これがまさにポイントなのです。

――体力も経験もある50代も、ちょうど良いタイミングに入るということですね。

新井:そうです。やりたいことがあったり、大きく稼ぎたいなら、体力・気力がある若いうちが絶対に有利です。一方で、年金だけでは足りない分を補ったり、お小遣い程度の収入をイメージしている場合は、会社員を全うし、時間ができてからでもよいかもしれません。

会社員のまま準備を進める重要性

――では、理想的な起業の進め方とは?

新井:私が常にお勧めしているのは、「会社員のまま起業する」方法です。収入の安定を保ちながら、起業の準備を進めていくのです。実際、今回の調査でも「助走が必要」「ある程度の準備期間が必要」という声が複数ありました。

――準備期間の重要性が浮き彫りになったのですね。

新井:そうです。突然会社を辞めて起業するのではなく、計画的に準備を進めることが成功の鍵です。特に50代なら、会社員として働きながら、自分のビジネスモデルを検証し、顧客を獲得していくことができます。これなら「定年前派」の体力・気力のメリットと、「定年後派」の収入安定のメリット、両方を活かせます。

――最後に、これから起業を考えている60代以上の方へメッセージをお願いします。

新井:今回の調査で分かったのは、シニア起業は決して遅すぎることはないということです。74%以上の方が「独立してよかった」と感じています。ただし、成功するためには、自分が何を求めているのか、経済的にどれくらいのリスクを取れるのかを、冷静に見極めることが大切です。早い方が良いと私は信じていますが、それぞれの人生には、それぞれのタイミングがある。大事なのは、自分が納得できる選択をすることだと思います。

――ありがとうございました。

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。

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専門家

新井一(起業コンサルタント)

起業18フォーラム

起業18フォーラムを運営。会社員向けに特化した〝再現可能〟な起業ノウハウで、25年間で延べ6万人の起業を支援してきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛けている。会社員のまま起業する方法を伝授するプロ。

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