私が感動したM&A記念品。〜その刻印は永遠に〜

伊藤さゆみ

伊藤さゆみ

私が感動したM&A記念品。〜その刻印は永遠に〜

30周年記念品のご相談

ある日のこと、創立30周年記念品のご相談をお受けいたしました。ご希望アイテムは本革製ブックカバーです。刻印は社名ロゴと30th Anniversary。
納期、ご予算、個数が決まり、カラーはネイビーでの製作が決定。ご担当からは、社長が記念品に大変こだわりを持っていらっしゃるということをお伺いしました。

「30th Anniversary」はお洒落なフォントをご提案。社名ロゴとのバランスや位置など刻印デザインを何度も調整し、社長の想いに寄り添いながら制作を進めていきました。記念品に添えるアニバーサリーカードにもこだわります。カードには、創立30周年を迎えることができたこと、これも皆様のおかげであるというお礼のメッセージを記載しました。

納品先は異なる場所へ?

完成した本革製ブックカバーは30周年記念のお祝いにふさわしい、品の良さと上質感を醸し出していました。社長にも、社員の皆様にもきっと喜んでいただけると自信を持ちながら、梱包出荷の準備に入ります。

まもなく納品という、その直前です。「納品先の変更をお願いできますでしょうか」と担当者からのご連絡。ご注文時のオーダーシートに記載いただいた宛先とは、別の場所への送付ご希望とのこと。指定先は、記念品に刻印した社名とは全く異なる会社と住所でした。

明かされた真実

ご担当者から理由の説明がありました。お届け先は自社を譲渡する企業の社名と住所でした。
この30周年記念品は、同時にM&Aによる会社譲渡の記念品だったのです。本革製ブックカバーに刻んだ刻印は、消えゆく社名と30th Anniverasary。この記念品は、30年共に歩んだ社員たちへ、創業社長が贈る「最後の感謝と記憶のかたち」でした。

感動いたしました。社長が社員に30年間の感謝を託す。あらためて記念品とは単なるモノではなく、言葉にできない想いや歴史を記憶として残す器であるということを、認識させていただいた瞬間でした。

ある事業承継の物語から

数年前、同じく30余年で会社の譲渡を決断した、ある社長の物語を読んだことがあります。
事実を元に書かれたストーリーです。その社長は苦悩しながらも、紆余曲折を経てM&Aを決断。最後に自社との別れを迎える場面が印象的でした。

譲受先との調印式を控えた前日の夜、彼はホテルの一室にいます。
「思えば長いようで短い時間だった。いよいよ明日、30余年を過ごした会社が自分の手を離れていくのだ。明日の最終調印式に必要なものをもう一度確認した。会社の代表印、個人の実印、印鑑証明、そして自分の辞任届けだ。辞任届けには、明日の日付で、一身上の都合により代表取締役を辞任いたします、とある。今日が代表取締役最後の日か、と思うと何やら感慨深かった。結局その晩はあまり眠れないまま、最終調印式の朝を迎えたのだった。」

調印式の場で溢れた涙

◯月◯日、大安。2つの会社のM&Aの最終調印式当日。アドバイザーの挨拶の後、契約書が目の前に置かれ、ゆっくりと押印。契約書の甲欄にくっきりと実印が浮かび上がりました。
「ただいま〇〇社様、〇〇社様の最終契約が滞りなく成立したことを確認いたしました。本当におめでとうございます」とアドバイザーが宣言します。両社の社長が立ち上がって互いに握手をしようとした、その時でした。

「不意に目から一筋の涙が頬を伝わった。あわてて涙を手で拭い去ろうとしたが涙は次から次へとあふれて出てくる。少なくとも63年の人生の中で、親の葬儀以外で人前で涙を見せたことなどなかった。悲しいのではない、悔しいのでもない、また嬉しいというのとも違う。何事かが終わったような、ほっとしたような、それでいて何かを成し遂げたような、そんな気持ちに襲われたのだ。万感の思いとでも言うのだろうか。今まで感じたことのない胸が詰まるような思いが胸中を駆け巡った。」

その刻印は永遠に

M&Aは時に無機質なビジネスとして語られます。しかしM&Aというドライに語られがちな言葉の裏には、一人の人間が人生をかけて築いた長い時間と、言葉では言い尽くせない会社への深い愛があります。

「M&A記念品」。未来に向けてのさらなる発展、繁栄。どちらかといえば譲受側がその記念を祝う華やかなイメージがありました。しかし、実は控えめで静かで、譲渡側の言葉にできない想いや歴史を記憶として残す奥深いものでもあることを学ばせていただきました。

30周年というおめでたい祝祭から、最後の別れと引き継ぎ。消えゆく社名を刻んだ記念品は、新しいスタートを切る社員たちの手元で、これからも静かに永くその誇りを語り続けるでしょう。


名入れ記念品 ブックカバー

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

伊藤さゆみ
専門家

伊藤さゆみ(法人向け高級記念品の企画・製造・販売)

グラネス株式会社

日本製ならではの品質の高さ、お客さまの立場に立ったきめ細やかなサービスを基本とし、名入れを施した世界に一つの高級記念品・高級ノベルティを制作。上場企業や老舗企業等への納品実績多数。

プロのおすすめするコラム

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

感謝の物語と心を贈る、法人記念品制作の専門家

伊藤さゆみプロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼