偉大なる手作りの価値 VS マストなる納期

伊藤さゆみ

伊藤さゆみ

偉大なる手作りの価値 VS マストなる納期

法人記念品は時間軸との闘い

絶対に動かせない期日

「気に入ったから買う、欲しいから買う、どうしても欲しい」という、感情でモノを購入することは一切無い。それが企業のオーダー(購買)です。予算があり、稟議を重ね、決済を仰ぐ。

私たちは「一つ一つ職人手作りのお品物です。納期があるお客様はお早めにご検討ください」。とアナウンスするものの、「はい、では明日決めます」なんていうことは絶対あり得ないのが企業のお客様、企業のオーダーのスタンスです。

そして法人記念品では、納期に間に合うかどうかというのがマストの条件になります。◯月◯日に開催する周年記念イベント、◯月◯日の退職や表彰記念、◯月末日の決算など、企業が記念品を必要とする背景には、絶対に動かせない期日が存在するのです。

絶対に省けない手仕事の時間

一方で、職人の手仕事には効率化できない、絶対に省けない時間があります。決してベルトコンベアーで流れていくような機械的な生産ではありません。限られた期間で製造できる数はある程度決まっているのです。

手間がかかるという製品の代表格が「社員証ケース」。一つの製品が完成するまでには多くの作業工程を必要とします。革の裁断・漉き・貼り・縫製・コバ塗り、ストラップ製造・金具留め、ロゴの原版製造・刻印。とくに「コバ塗り」という作業は、どんなに熟練の職人技でも時間を短縮することはできません。革素材が貼り合わせられた断面をニスのような液体で塗り上げる工程で、乾燥・硬化のための時間は必須。そこに効率という理論は存在しません。

また、社員証ケースは「カードケースとネックストラップ」がセットになっているため、お客様にとってはワンアイテムではあるけれど、作り手側からすると二つの製品ということになります。
どちらかが早く完成してもどちらかが遅れればアウト。人気No.1の社員証ケースは、製作に時間を要するNo.1でもあるのです。

希望納期のNo.1とNo.2

では企業から求められる納期のNo.1はいつでしょうか?
圧倒的に多い納期の希望は3月末です。いわゆる年度末ですね。そして次に多いのが12月、誰もが慌ただしく動く時期、一年が終わろうとする季節です。

希望納期トップの「3月末」の場合、状況によっては4月に納品をずらしてもOKというケースがあります。しかし希望納期No.2の「年内」の場合、翌年1月でもOKというケースは皆無に等しい。年末の社内イベントや社員への提供、お世話になった取引先への贈答など用途は様々ですが共通しているのは「その一年に感謝を込めた記念品」であること。

一年の感謝は、その一年の締めくくりまでに納めるのは当然であり、その年の感謝の気持ちを、翌年に持ち越すことはあり得ないですよね。

ひやひやが重なる

ある年「12月25日着」という納期で、ある企業からID社員証ケースをオーダーいただきました。一年間頑張った社員へ、社長からのプレゼントです。その年12月27日は土曜日。そこから年末のお休みに入るため「12月26日に社員に渡す」、つまり品物は25日必着です。

たまたまお客様の希望カラーであるネイビーの革素材(在庫)が無くなり、他の色でのご提案をいたしましたが、ネイビーは譲歩できないということで急ぎで入荷することにいたしました。
素材の入荷待ちの時間をプラスすると、12月25日までの期日はぎりぎりになってしまう計算になります。しかも、12月は宅配業者さんが一年で最も混み合う時期。荷物の量が格段に増えるので、遅くとも納期(25日)の二日前=つまり23日には出荷を完了しなければなりません。

その上、なんと化粧箱を製造する工場の機械が、突然故障するというハプニング。年末に向かうこの時期には機械の修理も混み合い日数を要します。もう本当にひやひやです。

「ひと手間省く」はあり得ない

革の入荷次第、直ちに製作開始。もっとも時間のかかるコバ塗り作業には職人総出で体制を整えます。納期ぎりぎりでも、手間暇を惜しむことのない丹念なものづくりの姿勢は変わりません。世間のクリスマスモードとは裏腹に必死の地道な努力が続きます。

実は、ひと手間・ひと工程省くこともできるのです。塗りの回数を一回減らせば、時間はかなり短縮できます。その省いた一回が、仕上がった製品の見栄えにどこまで影響するかといえば、素人目ではほぼ分からないレベル。

しかし一流職人に「今回だけはひと手間省いて時短」という概念は在りません。その妥協は職人のプライドが許さない。だからといってお客様に「社員に配る日を一日遅らせていただけませんか」というアナウンスができるはずもない。もうただ願う、祈るしかない境地でした。

時間軸との闘いに挑みながら

必死の伴走でなんとか12月22日に製品と化粧箱の完成を迎えました。当日検品・梱包作業が完了。翌日23日の出荷には間に合いました。ところがやはり年の瀬、宅配便の荷物が遅延発生。
結局、配達完了は翌々日の25日夕方でした。本当に納期ぎりぎりセーフです。

「無事、受け取りました!」というメールをいただいた瞬間、私たちが「よかった〜」と胸を撫で下ろす瞬間です。ひやひやから、ハラハラドキドキに変わり、ゴールを迎えた瞬間は安堵というより感動に近いものがあります。
「短納期にも関わらず素晴らしい出来栄えの社員証ケースをありがとうございました。明日社員に配るのが楽しみです」とお客様からのメッセージ。一年の最高の締めくくりになりました。

職人たちの惜しみない時間から生まれる「偉大なる手作りの価値」。企業の想いや感謝を刻むための「マストなる納期」。この二つの正義がぶつかり合う時間軸との闘いに挑みながら、ふと私は、人の一生という限られた時間を尊く、愛おしく思わずにはいられない気持ちになるのです。


納期 記念品

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伊藤さゆみ
専門家

伊藤さゆみ(法人向け高級記念品の企画・製造・販売)

グラネス株式会社

日本製ならではの品質の高さ、お客さまの立場に立ったきめ細やかなサービスを基本とし、名入れを施した世界に一つの高級記念品・高級ノベルティを制作。上場企業や老舗企業等への納品実績多数。

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