Quality of Life
アメリカ・インディアンの学校を訪問して
本年7月30日(日)から8月5日(土)までの一週間、NY州立大学フレドニア校で
夏季恒例の特別集中英語講座が開催されました。
この講座は、英語が母国語でない人々の英語コミュニケーション・スキルをジャンプアップする「きっかけづくり」を目的としたものです。
今まではどちらかといえば、教室での授業を中心としたややアカデミックなプログラムでした。
しかし、今年から私が企画者のひとりとして加わり、現地特有の文化やライフスタイル
などを切り口にしたり、パネル・ディスカッション形式で話し合ったり、例年とは少し異なった味付けの講座となりました。
わかりやすく言えば、テキスト中心の練習・発表・テストの繰り返しから、様々な分野の
スペシャリストに会ったり、異色の地を訪問したり、新しい生活習慣にチャレンジしたりといった、いわゆる「体験型の学習」を組み入れたプログラムになりました。
その概要をお伝えします。
1)ネイティブ・アメリカン(=インディアン)の歴史と現在学び、直面する問題点を
知り、ディスカッションする。学校訪問
2)起業する人に対する大学や地域住民のサポート体制や仕組みの見学
大学が学生や地元民の起業を希望し、それをどのように支援しているか。
3)フライフィッシイングのルアー(釣りの疑似餌)のワークショップ。
ルアー作りの体験実習
4)大学が運営している地元のシアターを訪問。学生たちが行っている演劇ツアーの
プレゼンテーションを受け、Q&A
5)West NY地域の歴史、現状の解説を受け、直面する問題点を学んだ後Q&A
教室に座って勉強をする授業ではなく、現地に出かけて行って、それぞれの分野のスペシャリストたちから話を聞き見聞を広めていくやり方は、コトバを乗り越え、全身で
コミュニケーションする実体験。
日本での自分の日常生活と比較しながら質問し議論を深めていく機会となりました。
また、釣りのルアー作りは、全員想像外のことで、スポーツとしての釣り、自然との交わり方を知る貴重な体験となりました。
参加者の皆様は、ある程度英語コミュニケーションの基礎能力があり、これを更に
スキルアップしようという意欲的な人ばかり。
プログラム後半には担当講師との細かいやり取りが増え、文字通り新鮮で充実した
1週間になりました。
講師自身も日本の文化、ライフスタイルを学び、大きな刺激を受けたと大喜び。
「Win-Win」の講座が実現できたようです。
以上駆け足で1週間のサマリーを記しましたが、もうひとつ皆さまとシェアさせて
いただきたい話題があります。それはネイティブ・アメリカンの現在についてです。
ご存知のようにネイティブ・アメリカン(アメリカ原住民=一般的にはインディアンと称される)は、米国史の中で、自分たちの土地を追われ、アメリカ社会の一部に組み込まれた
民族です。
その子孫の多くは、貧しい生活を送り、学校教育も低レベルで、社会に出ても良い仕事に
就くことができずに一生を終わります。
酒、たばこに溺れ、ジャンクフードばかりの食生活を送り、結果的に肥満体になって健康を害し、健康寿命が短い人々です。
この事実を「過去形」で語らないのは、現在も「・・・ing」だからです。
州政府はインディアンの子供たちに良い教育を与えようと、学費を無償化し、
補助金を与え、彼らの生活向上に努めています。しかし、未だ現状改善・問題解決に至っていません。
加えて、彼らに対する差別意識も根強く残っていて、非インディアン(ヨーロッパ系のアメリカ人の子孫)との間にある溝はなかなか埋まっていないようです。
建国以来アメリカ合衆国はインディアンに英語教育を強制してきました。
国がひとつにまとまるという意味で、これは簡潔な選択とも言えます。
しかし、インディアンの若者たちがアメリカ人として生活し、同化していくうちに、民族の言語や文化を失っていきました。
やがて、これがインディアン・コミュニティの中で問題化するのです。
自分たちのアイデンティティを見失った子供たちは、心のよりどころをなくし、自信を喪失し、出口のない苦しみに陥るのです。
そこでコミュニティが中心になり、インディアンオンリーの小中学校を立ち上げます。
自分たちの伝統文化を掘り起こしで、これを継承する教育に力を注ぐことにしたのです。
今回私たちが課外授業として訪問したのはそのうちの1校でした。
この学校では通常の学校教育で必要な教科(英語、数学、理科、社会)の他に母国語(インディアンの言語)、音楽(伝統的な楽器の演奏)、美術(伝統工芸の制作)、家庭科(伝統的なイベントの際に着用する衣装やアクセサリーの制作)理科(インディアンにとって大切な植物・薬草の栽培)体育(通常の体育授業の他に伝統的な踊りの練習)を積極的に教えています。
子供たちは、わが母校を愛し、楽しく授業を受けていました。ここでのびのびと学び、
ここで遊ぶうちに、自然に自分たちのアイデンティティを再確認して、
インディアンの子孫であることに誇りをもちはじめるそうです。
訪問者の私たちもアメリカ・インディアンの奥の深い文化や伝統に感銘を受けました。
先祖代々受け継いてきた遺伝子のおかげでしょうか、彼らが制作した絵画、陶芸品、アクセサリー、伝統衣装などのクオリティの高さに驚き、感動しました。
案内役の先生も教室の生徒も、明るくフレンドリーで、心地よい一日を過ごすことができました。
私がこの問題を皆さまとシェアしたいと思ったのは、現在の日本人が考えるべき問題が
このストーリーの中にたくさん含まれていると感じたからです。
私の仕事は「ELFえいごの寺子屋」という英語教室で子供たちに英語を教えることです。
ELFとは、English as a Lingua Francaの略語。簡約すれば「世界共通語としての英語」の意味です。「英語」を「えいご」とひらがな表記したのは、英国の言語であるという意味を少しでも弱め、世界共通語と感じてもらいため。
教室をあえて「寺子屋」としたのは、ここに来る子供たちは、日本大好きであって欲しいという願いを込めると同時に、受験色を消し去りたいため。
この命名は、自分自身への誓いを忘れないためにつけたものです。
私は「日本を愛してやまない子供たちがえいごを道具として使いこなし、世界に羽ばたき、活躍する」のを見たいと願っています。
「えいごは道具にすぎないよ。楽しくやろうよ」。そうです、この気持ち。
本で知った知識の受け売りです。
第二次大戦に敗れ、わが国がGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の支配下にあった時、日本の国語を英語にする案が真面目に検討されたそうです。しかし、その時日本の識字率の高さを知り、仰天したGHQがしっぽを巻いてこのプランを引っ込めたと書いてありました。
一説によると江戸時代から識字率世界一だそうです。
ちょっといい話でしょう。
日本の文化伝統を背負ってえいごで世界中の人々とコミュニケーションしましょう。
インディアンの学校訪問の話から、話はかなりそれましたね。ごめんなさい。