「異次元の少子化対策」で、人口減少は食い止められるか?
寅子さんへの「社会的圧力」
NHK「虎に翼」の中でのお話です。寅子さんは、弁護士修習を終え、晴れて弁護士となったものの「女性」「独身」ということで、クライアントからなかなか受任することが出来ずにいました。寅子さんは「結婚」により「社会的地位」を確立しようと両親にお見合いの依頼をします。ところが、です。27歳、弁護士というのがネックになりお見合い相手が見つかりません。後添えを探しているという男性にも断られてしまいました。
時代設定は戦前ですので、女性弁護士の婚活への逆風は相当あったものと思われます。27歳という年齢も強い逆風でした。戦後も「クリスマスケーキ」なんて言葉がありました。25日までは売れても26日になると売れなくなるクリスマスケーキに引っ掛けた言葉です。当事者でないものが、他者を年齢によって揶揄するというのは余計なおせっかいで失礼きわまりない話ですが、そういう言い方がありました。「社会」とつきあってゆくのは厄介です。
優三さんへの「社会的圧力」
優三さんは、寅子さんの家の「書生」でした。昼は銀行で働き、夜は夜学で法律を勉強して高等試験合格を目指していました。何度かのチャレンジの後、高等試験合格を諦め、寅子さんの父が社長を務めることとなった会社に勤務することになりました。そこで優三さんは、寅子さんの父が寅子さんの見合相手を探していることとを聞きつけ、寅子さん宅に押しかけ、寅子さんに「僕じゃだめかな」と言います。寅子さんはこういうところは鈍い役柄設定(たぶん優三さんは寅子にずっと好意を持っていたようです)なので、寅子さんは「結婚するなら本当に愛する相手と結婚すべきだといいたいの?」「優三さんも社会的地位が欲しい?」からといい、優三さんは社会的身分がほしいからだといい、寅子さんは結婚を了承します。優三さんは寅子さんのことが好きなので、寅子さんが結婚を承諾してくれる理由=社会的地位を肯定することをためらう必要はありません。
この回の時代設定は戦前、日米開戦直前ですが、今のドラマなので「両性の合意のみに基づき成立」する「愛する人との結婚」という考えも当然にちりばめられています。寅子さんに思いを寄せる花岡さんは、寅子さんを愛しているがゆえに寅子さんと自分との結婚が、寅子さんの弁護士として活躍したいという生き方の障害となることから、別の方との結婚を選択します。寅子さんも花岡さんの思いは知っていてプロポーズを期待していましたがされませんでした。花岡さんは友人に「お前はそれでいいのか」とつめよられ「愛する人との結婚」が取り上げられています。また、寅子さんと優三さんより結婚したいと告げられた直言さんも、「お前たちは前から好き合って」いたのか?といいます。俺の目の届かないところで・・・的なニュアンスもありますが、「戸主」である直言さんをして「愛し合っている者同士の」結婚なのかと確認させます。
社会的圧力は弱くなってきた
寅子さんの時代やその後の昭和の時代から比べると、社会的圧力は少なくなったように思います。
社会的圧力の減少にだけその原因を求めることはできませんが、生涯未婚率は上昇し、直近では男性28.25%、女性17.85%になっています。
セブンイレブン第一号店のフランチャイズオーナーさんは、フランチャイジーに手を挙げたとき24歳、フランチャイザーは結婚を条件にしたそうです。店舗を「家内労働」で回すことを想定していたので、2人で働ける結婚がマストの条件となったのかもしれません。結婚していれば安易に撤退できないから結婚を条件に、という判断があったかどうかはわかりませんが、結婚が条件だったそうです。第一号店オーナーさんは、そこで小学校中学校の同級生に連絡をとりまくり結婚し、晴れて第一号オーナーさんとなったそうです。男女の違いはありますが、寅子さんと同じように自分のしたいことをするために結婚する、ということであったようです。寅子さんも第一号店オーナーさんも、「結婚はいつかするもの」という前提があったうえで「結婚の必要性」を感じたときに結婚を決意されたと肯定的にとらえるべきかと思います。
企業内お見合いシステム
私が社会人になって間もないころ、結婚すると簡単に退職できなくなるから結婚したとたん地方に異動になった、という話は聞いたことがります。職場での出会いによる結婚を社内お見合いシステムと説明したのは荒川和久さんです。企業にも結婚する(結婚させる)ことによるメリットがあったようですし、労働者にも会社からの信用が厚くなるというメリットがあったのでしょう。会社ではそれゆえ、上司は結婚を勧めてきて社内お見合いシステムが出来上がったのでしょう。社会的圧力ともいえます。男女雇用機会均等法施行前は、男女の賃金に格差がありましたから、女性にも結婚によって享受できるメリットは多かったといえるでしょう。
社会的圧力が弱くなってきて、それだけが理由とは言えないとはいえ未婚率が上昇しているという現実は、真剣に考えていかなければならない問題のようです。いえ、少子化対策の観点からは適格な処方箋が求められています。
寅子さんの婚活は成功
まだ結婚したわけではありませんが(5/16日時点)、どうもそうなるようです。社会学的に言えば、寅子さんと優三さんは学歴からは同等婚、職業でいえば(職業に貴賤はありませんが)寅子さんは下降婚と言えるかもしれません。しかしながら、寅子さんの弁護士として(その先には当時女性はなれなかった裁判官)の仕事をしていゆく、ということに理解があり、支援を惜しまず、生活を共にするに支障がなければ結婚相手としては良い相手と言えます。寅子さんの家は麻布だそうですし、直言さんは銀行から別の会社の社長となったので相応に余裕のある家庭です。寅子さんは弁護士ですが、クライアントから受任できなければ豊かに暮らしてい行けるとは言えません。クライアントから「女性」を理由に委任をことわられても「女性」を変えることはできません。
「女性だから」ということに対しては、かねてからの寅子さんの主張通り「男だからとか女だからとか」という考えにとらわれない社会の実現をめざししつつ、「結婚」による「社会的地位」の確立により弁護士業にまい進したいという「現実的な動機」から始まった寅子さんの婚活は、寅子さんを愛する優三さんと結ばれるということになりました。
寅子さんは優三さんにこうもいいました
「お見合いだって多かれ少なかれお互いの利害が一致して契約をしあうわけで・・・」社会的圧力がなくなって、愛する人との結婚が称揚されてはいるのですが、現実的には、なかなかお相手に恵まれないという現実もあります。多少なりとも私ども結婚相談所はお相手との出会いのお役に立てるものと考えています。
「その手があったかぁ」
寅子さんと優三さんは、寅子の父直言さんと母はるさんに結婚したいを告げます。直言さんは前々から好き合っていたのか?寅子さんいいえお互いに社会的地位のためです、それに優三さん以上のお相手がいますか?といったところで、はるさんは「その手があったかぁ」とつぶやきます。状況が変われば(かつそのことを理解すれば)、お相手に求める条件は変わってきます。女学校卒業直後であれば、親心としてはお役人やお医者さんといった将来を約束された(と思われる)方に嫁がせたと思っていたのかもしれません。しかしながら後添えを探している方にも断られる今の状況となっては、優三さんは高等試験には合格しなかったものの、はるさんからすれば「大事な娘を託せる信頼できる人」であったことに気付き、はるさんは「その手があったかぁ」とおもわずつぶやいたのでしょう。
近くにいらっしゃる、結婚対象ではないと考えていた方が、少し見方を変えると良いお相手になるということもあるかもしれません。
「逃げ恥」を思い出す
結婚した日の夜、二人ならんで就寝するのですが、寅子さんは新婚初夜を意識して緊張気味、優三さんは寅子さんの社会的身分のための結婚、ということを尊重して「寅ちゃんには指一本ふれないからね」「まぁ僕はずっと好きだったんだけどね、寅ちゃんが」「寅ちゃんに見返りは求めない」と言います。ここに至り寅子さんは、優三さんが社会的地位のため利害が一致したから結婚したのではなく、寅子さんのことが好きだったから結婚したことに戸惑いながらも気付いたようです。結論として寅子さんは寅子さんを愛してくれている人、寅子さんは愛することのできる人と結婚したことになります。
なんだか「逃げ恥」を思い出させます。石田ゆり子さんも出ていますし。
来週は少し悲しい展開になりそうです。