書籍出版のお知らせ~共有名義不動産のトラブル解決法~7/3発売
不動産を遺産相続する時、民法の規定では、相続権を持つ親族に対してその持分が割り当てられています。一見、遺産の独り占めを回避できる良いルールのように思えますが、共有名義の不動産の管理や運用については多くの規定があり、実際は相続した共有名義の不動産はうまく活用されずに、トラブルになることが多くなっています。
その理由を説明し、問題解決策を紹介します。
不動産の遺産相続は共有名義で行うのが原則
民法の規定では、不動産を所有する人が死亡すれば、その持分は相続人がいれば相続の対象となります。
相続人が遺言で規定されていない場合、民法における遺産相続人は、血縁の濃い順から、配偶者、子ども、(被相続人の)親と兄弟姉妹となっています。
共有名義不動産の管理について
例1~例3で紹介したように、法廷相続人にあたる親族が複数いれば、血縁関係や人数に応じて、それぞれの持分が決まっていきます。
もし遺言が残されていないとき、これらの法定相続人がそれぞれの持分で遺産を相続します。
このようにして、1つの不動産を複数の人で所有すれば「共有名義」の不動産となります。そして、不動産を相続した親族は共有者となります。
各共有者が所有する持分割合は、法務局へ登記手続きを行わねばなりません。
この他に、1つの物件を2人以上でお金を出し合い購入した時も、その不動産は共有名義の不動産となります。
遺産相続により、不動産を共有者の間で持分割合ごとに登記した後、共有者は相続した不動産を使用する権利を持ちます。
ただし、リフォームをする、建物を改築する、賃貸経営を始めるといった不動産の大幅な変更を行うには、共有者全員の合意が必要になります。そして、それらの変更に伴う費用は、持分割合に応じて共有者がお金を負担しなければなりません。
このほかに費用を分担するものには、マンションの場合は管理費や修繕積立金などがあります。
賃貸住宅などのように収益物件を相続した場合は、共有者全員が収益を持分割合に応じて受け取る権利があります。
共有名義不動産でよくある共有者間の利害の対立
共有名義で相続した不動産は、このように共有者間で協議をしながら維持・管理・運営を行っていきます。
しかし、共有者はそれぞれに事情が異なり問題を抱えていることがあります。それぞれの立場を主張し始めると、共有名義の不動産管理は上手くいかなくなっていきます。
例えば、建物が雨漏りした場合、そこだけを直すだけではなく全面改築を提案する人と、部分補修でよいと主張する人が互いに譲り合うことがなければ、どちらも実施することはできなくなります。
これは、「共有者全員の合意がなければ、共有名義の不動産の変更を行うことができない」という規定があるためです。
相続した不動産の規模や価値が大きければ大きいほど、その取扱いをめぐり共有者間で意見の対立が起きることは珍しいことではありません。
共有名義不動産を長く持ち続けることでトラブルがより複雑になる
このように共有名義不動産では、トラブル発生リスクが高く、せっかく価値ある遺産を受け継いでも活かすことができず「毎年の税金を支払うだけになってしまう」といった問題があります。
問題を解決しようとせず、何もしないで長年放置していると、共有者の誰かが死亡した時は、その相続人が再びその不動産の持分を分割相続することになります。年月を経るうちに、数人だった共有者が10人を超えて、互いの顔も知らない者同士が1つの不動産を共有することになります。
共有者が増えれば、いざ不動産を売却しようと思った時に、所在不明で連絡が取れない共有者も出てくるかもしれません。
共有者全員の合意を得られず、売却ができない事態に陥ります。共有名義不動産は、年月が経つほど問題が複雑になり手が付けられなくなってしまうのです。
不動産の遺産相続は共有名義にしないのが鉄則
民法で規定されているとはいえ、不動産を共有名義で相続すれば、後々この不動産が親族全員にとって問題の多い「厄介者」になってしまうことは明らかです。
不動産を遺産相続することになれば、「とりあえず共有名義にして、後でゆっくり考えてどうするかを決める」というのは大変危険です。
そうするのではなく、互いに利害がぶつからないよう、最初から他の遺産も含めて協議の上、共有名義を避けて分割し相続していくのがベターです。
残された不動産に共有者の誰かが住むなら、その人が単独で相続する代わりに、その他の預貯金といった遺産を、残りの共有者で分け合うなど、共有名義で遺産を相続することはできるだけ避けるべきといえます。
遺産相続の相談や手続きは弁護士や税理士などの専門家が、これまでの問題解決事例をふまえて、適切なアドバイスをしてくれます。
問題を次世代に残さないためにも、プロの力を借りて問題を自分の代で解決することが大切といえます。
共有名義不動産を相続したあとの流れについては、下記記事でもわかりやすく解説しています。
共有持分と遺産分割について
共有持分を相続した場合の相続登記の申請方法