書籍出版のお知らせ~共有名義不動産のトラブル解決法~7/3発売
夫婦が共有名義で家を購入し、その後離婚をした場合、共有名義の不動産は任意売却されることが多くなります。なぜそうなるのか、その経緯について説明します。
夫婦が共有名義で住宅を買うメリットとは
夫婦が共有名義で住宅を購入すると節税効果が高いメリットがあります。
1つの家を買うために夫婦2人がお金を出し合うと、出資した額の割合に応じて家の持分が決まります。夫婦2人が、自分の持分をそれぞれ登記すれば、家は夫婦2人の共有名義の不動産になります。
このように共有名義で家を購入した時、夫婦の両方が共働きなどで、継続的に収入が得られるのであれば、住宅ローンの中でも夫婦がそれぞれお金を借りて「債務者」となるペアローンを組むことができます。
手元に多額の現金を持っていない、若い共働き夫婦の多くはこのような方法で家を購入しています。
ペアローンで住宅ローンを組めば、夫婦2人とも「住宅ローン控除」を受けることができます。これは、年末の住宅ローン残高の1%が所得税と住民税から10年間控除される制度です。2人がペアローンを組んでいれば、2人分の控除を受けられるので減税額が多くなります。
このほかに、もし共有者のどちらかが死亡しても、相手の持分に対してのみ相続税が発生するだけなので、負担が軽くなります。
離婚に伴う共有名義不動産の取り扱い
節税効果の高かった共有名義の夫婦の家は、離婚をするとどうなるのでしょうか。
離婚をする時は、財産分与が行われます。共有名義の家にどちらかが住み続けるなら、この家を単独名義に変更する必要があります。
共有名義から単独名義に変えるには、家を所有する方が相手の持分を買い取るか、家を手放す人が持分を放棄するかのいずれかの方法があります。
相手の持分の権利を買い取るにはかなりのお金が必要になります。持分放棄を選んでも贈与税が発生します。どちらにおいても資金が必要になります。
住宅ローンの取り扱いは?
離婚で家の持分の共有名義を解消する時、夫婦がそれぞれ契約しているペアローンも完済していなければ将来トラブルが発生するリスクがあります。
離婚した夫婦の家をめぐるトラブルでは、家の持分やペアローンの契約をそのまま放置して、どちらかが家を出て行き、やがて家を出た方が行方不明となりローンを滞納してしまうといったケースです。
住宅ローンは「契約者本人がその家に住み続ける」という契約内容になっているので、離婚がばれた場合、契約違反として銀行から一括返済を請求されることがあります。
この時、家に住み続けていた方は、多額のお金が手元にないことが多いため、家を売却してローンを一括返済しようと思っても、所在不明の共有者の承諾が得られず売却もできないといったケースがありました。
住宅ローンが完済しないうちに離婚をするときは、ペアローンの場合、家を出ていく方が自分のローンを全額返済するか、家を受け継ぐ方が相手のローン残高を引き継いで返済していくかのどちらかです。
もし単独名義の住宅ローンなら、家に住み続ける方がローンを支払い続けます。
夫名義の住宅ローンで残債があり、夫が家を出るなら、家に残る妻へ住宅ローンの名義変更を行い、妻が残債を払い続けることになります。
相手のローンを引き継ぐ場合は、ローン契約の名義の変更を行わねばなりません。ところが、引き継ぐ人の年収が少ないと、銀行は名義変更を断ることが多くなります。もし名義変更ができない場合は、ローンの借り換えをしなければなりません。
そしてローンが完済できていない家をどちらか一人に譲る場合、現在の家の時価から住宅ローン残高を引いた残額を、家を買ったときの出資割合に基づき分けるのですが、このときに住宅ローン残高が家の時価を上回れば、オーバーローンとなり夫婦2人で負債を請け負わねばなりません。
離婚をすればローンの残った共有名義の家に住み続けるのは困難
以上のような経緯で、夫婦2人の共有名義で住宅ローンを組んで家を購入した場合、家を残して離婚をするには、その所有権やローンの名義変更に多大な労力と時間、そしてお金が必要になります。
若い夫婦が共有名義でそれぞれ住宅ローンを組んで家を購入した場合、離婚をしてどちらかが家に住み続けたいと思っても、1人では残った住宅ローンの返済能力がないことが多く、「家を手放さざるを得ない」という結果になってしまうことがほとんどです。
住宅ローンが残ったままの家を処分するには、「競売」か「任意売却」のどちらかの方法をとります。
資金力がない夫婦には、不動産会社にお金を借りた銀行(債権者)との間に入ってもらい、できるだけローン残高を下回らないように売却をすすめる「任意売却」をとる方がメリットが多くなります。
任意売却とは
住宅ローンを組んで家を購入する時、銀行は、債務者が返済不能になったときの救済措置として該当不動産の抵当権を設定します。
これは、債務者がお金を返せなくなったら、代わりにその不動産(土地・建物)を担保にすることです。
離婚をして家を単独名義にしても、将来住宅ローンが返済できなくなるのであれば、債務者はローンを滞納して家を追い出される前に、家を売却し且つ抵当権を解除しなければなりません。
手を打つ前に不動産が競売にかけられると、市場価格より低い価格で落札されることが多く、住宅ローンが完済できないことがあります。その場合、残債の強行返済を受け、債務者の給料が差し押さえられるなどの事態になることがあります。
また落札されるまでの期間に対して、遅延損害金も負担しなければなりません。
一方任意売却は、通常の不動産取引の中で販売が行われます。
売却された理由を周囲に知られることもなく、そして相場に基づいた価格に近い売買が可能になります。
もし売却代金で住宅ローンが完済できなくても、債権者との話し合いで債務者に負担がかからない返済をさせてもらえる可能性もあります。
このほかに不動産の明け渡しについても、債務者の都合でその時期を決められて、債権者が合意すれば売却代金の一部を債務者の引っ越し代金にあてる交渉ができるメリットがあります。
離婚による共有持分の解消方法については、下記記事でもわかりやすく解説しています。
共有持分 離婚とは