会計・ファイナンス担当者のためのビジネス英語勉強法【何から始める?明日からの学習が楽になる最初の一歩】
会計・ファイナンス・IR担当者のみならず、すべてにビジネスパーソンにおススメの、実践的なビジネス教材は、グローバル企業が発行する、英文のアニュアルレポートです。
アニュアルレポート(Annual Report)とは、企業が一年に一度、企業のパフォーマンスをまとめたものと言えます。決算数字などの経営内容はもちろん、過去一年に起きた主な事象、その企業を取り巻く環境などを、社外にわかりやすくまとめて報告するものです。
グローバル企業については様々なニュースが日本語にも翻訳されて報道されますが、企業独自が発信する英文アニュアルレポートという、一次情報にタイムリーにアクセスして、情報を得る事は、ビジネスパーソンにとって大きな competitive advantage (競争優位)にもなります。
この記事では、アニュアルレポートとは具体的などのような内容を含むのか、英文アニュアルレポートが、なぜビジネス英語を学ぶ教材として最適なのか、実際にどのように取り組むべよいのかを解説していきます。
アニュアルレポートとは何か?
そもそも、アニュアルレポート(Annual Report)とはどのようなものでしょうか。
アニュアルレポートは、『年次報告書』と訳されます。
一年間の企業の業績がまとまっているものです。
誰が発行するものか
アニュアルレポートを発行するのは、それぞれの企業です。
法律で定められる、有価証券報告書(Securities report)とは、異なり、各企業が任意で発行するののです
数値的な業績報告だけでなく、経営者の考え方や、企業理念、事業戦略や、顧客の満足度、社員の状況等、様々な話題が盛り込まれています。
情報公開(disclosure)を高める観点から、日本語版・英語版を発行する企業が増えてきました。
いつ発行されるものか
発行のタイミングは年に一回、企業の年度末です。株主や金融機関などの取引先には、冊子が配布されますが、企業のホームページで一般公開されています。
通常、ホームページには過年度の分もアーカイブされていますので、企業の変遷をたどることもできます。
一年間の経営内容・業績実績についてのまとめが、アニュアルレポートです。
誰のために発行されるものか
アニュアルレポートは、過去一年間の経営内容のまとめですから、社員、取引先、そして既存の株主にとって非常に重要です。
また、企業独自の視点で、様々な情報を盛り込んだアニュアルレポートからは、長期投資を考える上での参考になる情報もあります。将来の株主にとっても、とても有益な情報ソースと言えます。
外資系企業に就職や転職を考える人にとっても、アニュアルレポートは企業の状況を理解するための最適な情報源の一つです。
アニュアルレポートの主な構成
アニュアルレポートのフォーマットには法的な定めがなく、企業独自のスタイルで発行されます。
写真などのグラフィックを多く盛り込むデザイン性の高いものから、グラフやチャートなどを駆使して、企業業績にかかわる数値をわかりやすく説明しようとする工夫もみられます
様々なスタイルがある一方で、主な構成 は概ね以下の3つのグループに集約されます。
グループ1)株主への手紙(The Letter to the Shareholders)
グループ2)事業報告 (Business Review )
グループ3)財務情報 (Financial Review)
グループ1)株主への手紙(The Letter to the Shareholders)
かなりのボリュームがあるアニュアルレポートを、全て読みこなすのは至難の業。読破するのは、仕事として取り組む証券アナリストや、プロの投資家くらいではないでしょうか。
一方、ビジネス英語を学ぶ上で、すべての方におススメするのが、通常冒頭にある 企業トップからの株主への手紙です。
”Message from the CEO” と言われることもありますし、別のタイトルになることもありますが、要は、企業トップからのメッセージです。
グローバル企業の場合、世界中に株主が存在します。
CEOからのメッセージも、英語ネイティブではない人でもわかりやすいように、比較的簡単な表現が使われていることが多くあります。
読み手の興味を引くようなストーリー展開になっていたり、読みやすい洗練された文章が多いです。
業績数字を並べてただけでは、読み手の興味をそそりません。
企業トップからのメッセージは、数字の裏にある、企業を取り巻く、様々な出来事を、コンパクトにわかりやすく伝えているのが特徴です。
CEOからのメッセージは、語り口調をとっているものも多く、親近感を感じさせます。
また、どんなにビジネス環境が厳しくとも、企業トップは弱音を吐きません。常にポジティブな表現(パワー単語とも言われる)が使われているのも特徴の一つです。
グループ2)事業報告(Business Review )
この部分は、企業ごとにどのようなスタイルで、どのような内容を記載するか、様々です。
各企業の事業部門ごとのパフォーマンスや事業戦略について語られていたり、特定の製品や主要なサービスについて、市場の動向や子会社の状況など、詳しい情報が紹介されている場合もあります。
グラフィックなどや、表などを用いて簡潔な説明が工夫されているケースも多いです。
冒頭のCEOのメッセージと、三番目のグループの詳しい財務情報の間にあって、企業のビジネスそのものや、主な事業分野の過去一年間のパフォーマンスを、より詳しく理解できる部分です。
大企業の場合、この事業報告だけでもかなりのボリュームがあります。
特に興味のある事業部分にしぼって、読んでみるのも良いでしょう。
グループ3)財務情報(Financial Review)
通常アニュアルレポートで一番ボリュームがあるのが、三番目の財務情報の箇所です。
経営陣の意見と分析(Management Discussion & Analysis - MD&Aと訳される) という、非常に大事な個所を含め、財務情報が詳しく記載されています。
MD&Aでは、各事業戦略の推移や、長期計画に対する進捗、企業を取り巻く、様々な状況を、数字と解説の両方を使っての説明があります。
アニュアルレポートを読む目的の一つは、その企業を取り巻く状況や潜在的なリスクを理解することでもあります。
冒頭のCEOからのレターで、どんなに前向きなストーリーを展開していても、課題のない企業はありません。
MD&Aのセクションでは、企業が抱える試練や、予定通りに進んでいないことなどを含め、よりビジネスライクに、正確な情報がディスクロージャーされています。
アニュアルレポートと似たレポートに、10-K Reportというのがあります。
10-K と呼ばれるこちらのレポートは、米国市場における公開企業に求められる財務諸表等の年次決算報告書です。 アメリカの証券取引委員会( U.S. Securities and Exchange Commission)に求めらえるもので、報告内容なども定められています。
非常にボリュームがありますが、グラフィックやカラーの使用がなく、黒字で書かれたレポートです。
アニュアルレポートは、一般的に10-Kの圧縮版と言われます。
二つのレポート、一方はカラフル、他方は白黒で、フォーマットはかなり異なりますが、同じ年度である限り報告されている財務情報はもちろん同じです。
グループ3)に財務情報含まれる項目と英語表記
グループ3)の財務情報(Financial Review)は、財務関連の様々な情報が含まれています。
各項目と、英語表記をご紹介します。
Management Discussion & Analysis (MD&A) 経営陣の意見と分析
Balance Sheet 貸借対照表
Income Statement 損益計算書
Cash Flow Statement キ ャッシュフロー計算書
Statement of Change in Shareholders’ Equity 株主持分変動計算書
Note to Financial Statements 財務諸表の注記
Auditors’ Report 監査報告書
Corporate Information その他の会社情報
英文アニュアルレポートがなぜビジネス英語学習に役立つのか
ビジネスで使う英語を学びたいビジネスパーソンには、英語だけでなく、ビジネスに役立つ知識を身に着けることが大切です。
アニュアルレポートは、グローバルビジネスの最前線で起きていることや、グローバル企業の経営陣の考え方が、集約されている資料です。英語のアニュアルレポートを読むことで、英語だけでなく、ビジネスに役立つ情報や知識を学ぶことができます。
また、具体的な事例を引用しながら、一年間の企業のパフォーマンスをわかりやすくまとめているアニュアルレポート読むことで、論理的に、そして説得力をもって伝える表現やまとめ方を学ぶことができます。
英語を学びつつ、経営についての知識を学ぶことができるのです。
使われている英語は実は難しくない?
ここまで読んでいただき、英文アニュアルレポートが、ビジネスパーソンにとっての、最適な教材のひとつであることは理解いただけたと思います。
しかしながら、
英文アニュアルレポートって、難しい英語で書かれているのでは?
と、ハードルが高いと感じている人も多いのではないでしょうか。
実は、アニュアルレポートは、世界中の株主に理解してもらうために、比較的簡単な表現で書かれているケースが多くみられます。。
英語ノンネイティブが読むことを前提に、シンプルな表現を使うグローバル企業が多いのです。
中学英語レベルの文法力でも、理解できます。
さらに、自社のライバル企業など、馴染みがある業種の企業を選ぶと、すでに持っている背景知識などが、英文理解を助けます。
消費者の一人として、商品やサービスに対して、親しみをもつ企業を選んでみるのも良いでしょう。
同業他社や、良く知っているグローバル企業の英文アニュアルレポートは、良質なビジネス英語教材です。
まとめ方が逸品
全体としては、膨大なアニュアルレポートですが、それぞれのパートの解説の部分は厳選された情報でまとめられています。
一年間の間には、企業を取り巻く様々なでき事がありますが、すべてを語ることはできません。
業績の総括としてのアニュアルレポートに、何を記載すべきか、重要性や優先順位を考え抜いて、書かれています。
残念ながら、ビジネスシーンで日本人の書く英語のレポートやプレゼンテーションは、字数が多すぎとの批判の声を多く聞きます。
多くを書き過ぎ、言い過ぎると、重要なことが相手に伝わりません。
コンパクトにまとめることが、読み手や聞き手の理解を促すことにつながります。
英文アニュアルレポートを読むと、複雑な事象や多岐にわたる背景を、まとめてどう表現するかを学ぶことができます。
業界用語が学べる
アニュアルレポートが比較的平易な文章で書かれていると言っても、その企業に利害関係や興味のある人に対してのレポートです。
従って、業界特有の用語や表現方法が使われています。
テクニカルタームと言われる、業種に特殊は表現を、英文アニュルレポートから学ぶことも可能です。
英文アニュアルレポートを使ってビジネス英語を学ぶ具体的な方法
膨大な量のアニュアルレポートに取り組む最大の秘訣は、全部読もうとしないことです。
ビジネス英語を学ぶ手段の一つとして、英文アニュアルレポートを読む場合、ストレスをためずに、理解できるところを読んでみようという姿勢でのぞむことをおすすめします。
馴染みのある業界・企業から題材を選ぶ
英文アニュアルレポートに取り組み始める際には、可能な限りハードルを下げることが必須です。
自分が良く知っている企業や、馴染みのある業界から対象企業を選んでください。
自社のライバル企業でも良いでしょう。
海外企業の英文レポートを敷居が高いと感じたら、日本のグローバル企業の英文アニュアルレポートからスタートしてみてはどうでしょうか。 日本語バージョンを参考に、英文を理解することができます。
自分が勤める日本企業が、英文アニュアルレポートを出していれば、先ずはそこからスタートしてみてください。自分の会社とは言っても、情報として、意外に多くの発見があるものです。
取り組む企業を決めたら、背景情報を理解する
英語上級者で、長文を読むことに慣れている人は、このステップなしで、すぐに英文アニュアルレポートを読んでみてください。
そこまでのレベルではない人は、英文アニュアルレポートに取り組む前に、その企業の企業情報や最新ニュースを、日本語でググって理解を深めましょう。
背景知識があるとないでは、英文を読んだ時の理解が、各段に違います。
このようなちょっとした事前の準備が、忙しいビジネスパーソンが効率的に英語にを身に着ける、大きな助けになります。
まずはレポートの全体を見て、大枠をつかむ
前述した通り、一般的なアニュアルレポートの構成は似ていますが、企業によってて、スタイルや用語は異なります。
読み始める前に、先ずは全体をザーッとスクロールしてみて、どんな情報がどのような順番で書かれているのかを理解しましょう。
その中から、どこを読んでみるかを絞ります。
おススメは、前述のCEOからのレターです。
経営トップからのメッセージを読むことで、企業の最重要課題や経営目標などの理解を深めます。
基本的なファイナンスの英語表現を覚える
比較的平易な英語で書かれることが多い英文アニュアルレポートですが、企業業績を報告する上での、ファイナンスや会計特有の用語は頻出します。
一般的に知られている意味とは、会計・ファイナンス用語では、異なる意味になるものがあります。
こういった表現は、無限にあるわけではないので、一つ一つ、出会った時に覚えていくようにしましょう。
下記に、具体的な例をいくつかご紹介します。
Performance
一般的には、『公演・性能・成績』として使われますが、会計・ファイナンス用語としては、『業績・売上・運用実績』 となります。
Charge
一般的には、『充電する・非難する・責任を負わせる』として使われますが、会計・ファイナンス用語としては、『手数料・費用』 となります。
top line (top-line)
一般的には、『主要な・主役の』として使われますが、会計・ファイナンス用語としては、『売上の・総収入』 となります。
bottom line (bottom-line)
一般的には、『結論・肝心な事』として使われますが、会計・ファイナンス用語としては、『最終利益・純利益』 となります。
こういった用語は、カタカナ英語として、ビジネスの現場で使われていることも多くあります。
決して難しものではないので、目にする度に身につけてください。
英文アニュアルレポートでは、どのような英語が学べるのか(具体例)
最後に、実際に英文アニュアルレポートから、どのようなビジネス英語が学べるかをご紹介します。
アニュアルレポートの英語文章特徴①・一文が長め
比較的平易な英語ではあるものの、濃い内容をコンパクトに伝えようとするため、一文が長い文章が多いです。
分詞構文や挿入句といった、長い修飾語句が多様されています。
こういった文章に出会った場合は、主語と述語(動詞)が何であるかを意識して読んでみてください。
全てを理解しようとするのではなく、大意を捉える意識です。
CEOによって、インフォーマルな語り口調を用いるケースと、フォーマル感を出すために、、敢えて主語に”we”, や”I” を使わず、受動態を使う場合もあります。
その場合も、主語と述語を抑える意識で読みすすめましょう。
アニュアルレポートの英語文章特徴②・接続詞や副詞が使われる
英文アニュアルレポートでは、論理の流れを明解にするため、接続詞、副詞(接続詞的)が多様されます。
下記のような主要な語彙のニュアンスを覚えおくと、次にくる展開を想像できるようになります。
although 「それにもかかわらず」
nevertheless 「それにもかかわらず」
unless 「もし~しなければ」
while 「~の一方で」
as a result of ~ 「~の結果として」
アニュアルレポートの英語文章特徴③・前向き表現が多い
株主などに向けて発行されるアニュアルレポートは、企業の未来を明るく照らすように、前向きな表現が使われます。
ビジネス環境がどんなに厳しくても、様々な課題を乗り越えていくというニュアンスを持つ、力強い表現が使われます。
こういった、『パワー単語』と言われる表現を覚えておくと、ビジネスシーンでの会話やメールに役立ちます。
英語を使ってビジネスをする場合、『前向き』な姿勢を言葉にすることは非常に大事です。
また、同じ意味を持つ単語はたくさんありますが、よりプロフェッショナルに響く表現を使うと、あなたの英語がワンランクアップします。
実はこういった表現は、決して難しいものではありません。
意識せずに使っていることもあるかもしれませんし、自分は使えていないけれど、知識としては持っている単語かもしれません。
英文アニュアルレポート、特にCOEのレターを読むことで、これらの単語を学び、自分が使える英語として身に着けていくことができます。
英文アニュアルレポートに使われるパワー単語10個
I would like to share our past year's performance.
昨年の実績を共有したいと思います。
tell を使うのではなくshare がよりプロフェッショナル
We face many challenges.
多くの難題に直面しています。
have を使うのではなくfaceがより前向き
problems を使うのではなくchallenges前向き
We successfullyaunched new services.
新しいサービスの立ち上げに成功しました。
begin を使うのではなくlaunchがより前向き
We took the initiative to overcome this issue.
私たちはこの問題を解決するために率先して取り組みました。
effort を使うのではなくinitiativeがより前向き
Our existing products drove top-line growth of 10%.
当社の既存製品がトップラインの10%成長を牽引しました。
increase を使うのではなくdriveがより前向き
We achieved the budget target last year.
私たちは昨年の予算目標を達成しました。
meet を使うのではなくachieveがより前向き
Our priority is maximizing the returns for shareholders.
私たちの優先事項は、株主の利益を最大化することです。
increase を使うのではなくmximizeがより力強い
We took every step tominimizeour costs.
コストを最小限に抑えるためにあらゆる手段を講じました。
reduce を使うのではなくminimizeがより力強い
We leverage our expertise to expand our share in this market.
私たちは専門知識を活用して、この市場でのシェアを拡大しています。
use を使うのではなくleverageがより力強い
We haveorganized the steering committee to pursue this strategy.
この戦略を推進するために運営委員会を組織しました。
hold を使うのではなくorganize がよりプロフェッショナル
上記のように、アニュアルレポートには、ビジネスシーンでの会話、プレゼンテーション、メールに使える、パワー単語・プロフェッショナルな表現が満載です。
まとめ
株主だけでなく、世界中のstakeholders (利害関係者)に向けて書かれる、グローバル企業の英文アニュアルレポートは、ビジネス英語を学ぶ学習者に、絶好の生きた教材です。この記事では、アニュアルレポートとは、いったいどういうものなのか、そして英語学習に使うために、どのような取り組み方が効率的なのかを詳しく解説しました。そして、そこで学ぶことができる英語表現の具体例を紹介しました。
インターネットのおかげで、海外企業のアニュアルレポートが簡単に手に入るようになりました。 是非、興味のある企業のレポートを手にとってください。
すべてを理解しようとするのではなく、読んでみた数ページから、その企業や経営についての新しい知識や、明日使えそうな英語表現を一つでも身に着けることを目標にしてみましょう。
小さなステップの積み重ねで、ビジネス英語は着実に向上します。
Biz英語塾では、各生徒の方が興味を持つ英文アニュアルレポートを題材に、カスタマイズした個別指導を提供しています。
一般的にわかりやすい英文アニュアルレポートを学ぶ、オンラインセミナーも提供しています。
ご興味をもっていただいた方は、是非ご連絡ご連絡ください。