歯科医院の倒産が20年で最多|矯正治療を始める前に知っておきたいリスク

田中憲男

田中憲男


マウスピース矯正にしようか、それともワイヤー矯正にすべきか。初診相談でこの二択を前に悩まれている方に、私は毎週のようにお会いしています。

調べれば調べるほど、正反対のことが書いてある。ある医院では「あなたはマウスピースで十分です」と言われ、別の医院では「その歯並びなら難しい」と言われる。どちらを信じればいいのかわからない…。

こういった状況は患者さんの理解力の問題ではなく、ここ数年で、矯正歯科という分野そのものの構造が変わってきたことが原因だと私は考えています。

ワイヤー矯正とマウスピース矯正、専門家が分かれ始めた

私が大学病院にいた頃、矯正治療の選択肢はもっと単純でした。 かつて歯列矯正といえば、歯の表側や裏側に装置を固定して動かす方法が中心でした。私が昭和大学の歯科矯正学教室に在籍していた10年間も、議論の中心は「どう動かすか」であって、「どの装置を使うか」ではありませんでした。

そこにマウスピース型の装置が加わり、この10年ほどで一気に普及しました。透明で目立ちにくく、取り外せる。患者さんにとって魅力的な特徴が揃っていますから、広まったのは自然なことだと思います。

ただ、その結果として起きたのが「専門家の分化」です。ワイヤー矯正を主軸に診療する医師と、マウスピース矯正を主軸に診療する医師とに、はっきり分かれてきました。

ここで知っておいていただきたい制度上の話があります。日本では「矯正歯科」は歯科医師免許があれば掲げられる診療科名です。看板に書かれている診療科名だけでは、その医師がどのように矯正を学び、経験を積んでこられたかまでは分かりません。

つまり、最初にどの医院の扉を叩いたかによって、提示される治療方針が変わることがあります。そのため、患者さんが迷われるのも無理はないと感じています。

治療途中で不安になる方からの相談が増えています

最近、当院の相談枠の使われ方が明らかに変わってきました。ひとつは、すでに他院で治療が始まっている方が、セカンドオピニオンを目的に来られるケースです。「思ったように歯が動いていない気がする」「あと何年かかるのか、聞いても曖昧にされる」。そうした不安を抱えたまま通い続けている方が来られます。

もうひとつは、通っていた医院が閉院したり移転したりして、治療の続きを診てくれる先を探している方です。装置が口の中に入ったまま、行き場がなくなってしまう。精神的な負担は相当なものだと感じます。

正直に申し上げると、途中から引き継ぐ治療は簡単ではありません。前の医院がどういう設計で歯を動かしてきたのか、資料が揃っていなければ、推測から始めることになります。

私は初診でお会いしたとき、治療できることとできないことを分けて、できるだけ具体的にお伝えするようにしています。数年間にわたるお付き合いだからこそ、最初の段階で認識をすり合わせておくことが大切だと考えているからです。

だからこそ、途中で不安になってから相談先を探すのではなく、始める前に確かめておいてほしいことがあります。

歯科医院の倒産が20年で最多という現実

「医院がなくなるなんてことがあるんですか?」と驚かれるのですが、実際の数字を見ると、そう珍しいことではありません。歯科診療所と歯科技工所の倒産は39件で、前年度比56.0%増、2006年度以降の20年間で最多となりました(出典:東京商工リサーチTSRデータインサイト、2025年度実績・2026年4月発表)。

このうち歯科診療所が31件を占めています。背景には施設数の多さがあります。歯科診療所は全国に6万6,378施設あり、コンビニエンスストアの店舗数を上回っています(出典:東京商工リサーチTSRデータインサイト、2024年時点の厚生労働省データ・2026年4月発表)。

矯正を主軸としたグループの大型破綻も報じられました。マウスピース矯正を軸に施設を拡大し、グループ全体の年収入高が100億円規模に達した医療法人が、2023年9月に民事再生法の適用を申請しています。負債は約37億円とされます(出典:帝国データバンク情報統括部、2025年6月発表)。

規模を追うこと自体が悪いとは思いませんが、ただ矯正治療は数か月から数年、同じ医院に通い続ける治療です。その医院が続くかどうかは患者さんにとって他人事ではないのだと、この数字は教えてくれます。

もちろん、多くの医院は地域に根差して長年にわたり患者さんに向き合い続けています。数字はあくまで医院選びの視点のひとつとして、参考にしていただければと思います。

医院選びで見てほしい「選択肢の数」

ここからは、私が初診相談で毎回お伝えしている判断軸の話です。これから歯列矯正を検討される方に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。その医院が、ワイヤー矯正とマウスピース矯正の両方を治療メニューとして持っているかどうかです。

理由は単純でして、片方しか扱っていない医院では、どんな歯並びであっても、その方法に当てはめた計画が提示されることになります。道具がひとつしかなければ、その道具で解ける問題として説明するほかないからです。

一方で、両方を扱っていれば、骨格や歯の状態を診たうえで、どちらが向いているか、あるいは組み合わせるべきかという順序で考えられます。

私が外科的矯正治療を含む症例で判断に迷ったとき、最後はこの「引き出しの数」に助けられてきました。そこで、初診相談では次のような点を聞いてみてください。

・提示された方法以外の選択肢についても説明してもらえるか
・計画どおりに進まなかったときにどう対応するのか
・総額と、追加費用が発生する条件が示されるか
・担当医の矯正分野での経歴はどうか
・転院が必要になった場合、資料を引き継いでもらえるか


こうした問いに具体的に答えてもらえるかどうかは、ひとつの判断材料になると思います。

当院でも両方の装置を用いた治療経過をコラムで公開していますので、参考にしてみてください(https://mbp-japan.com/tokyo/6777/column/)。

これから起こりうることと、いま備えられること

少し先の話になりますが、このままの流れが続いた場合、私が心配していることが三つあります。

治療結果に納得できない方が増えれば、矯正歯科という分野そのものへの信頼が損なわれかねません。計画どおりに進まないことで、精神的に追い込まれてしまう方も出てきます。そして医院の経営問題によって、治療の継続そのものが難しくなる方も出るでしょう。

誤解しないでいただきたいのは、これは治療方法の優劣の話ではないということです。ワイヤー矯正にもマウスピース矯正にも、それぞれ向いている症例と、そうでない症例があります。

問題なのは、方法が先に決まっていて、そこに患者さんを当てはめる順序になってしまうことです。順序が逆であれば、どちらの装置であっても納得のいく治療になり得ると私は考えています。

すでに治療中で不安を感じている方も、いま一度、現状を客観的に確認する機会を持つことには意味があります。判断に迷ったときこそ、別の目で診てもらってください。

長い時間をかける治療だからこそ

歯列矯正は、一度始めると簡単には引き返せない、長い時間をかけた取り組みです。装置の種類や費用を比べる前に、「この医院は自分に合った方法を選択肢の中から提案してくれるだろうか」という視点を持っていただければと思います。

東京都墨田区・錦糸町のプロ矯正歯科では、ワイヤー矯正とマウスピース矯正の双方を踏まえてご相談をお受けしています。これまで外科的矯正治療を含む幅広い症例に対応してまいりました。まずはお気軽にご相談ください

※歯列矯正治療は自由診療(保険適用外)であり、費用は全額自己負担となります。当院における費用の目安は小児矯正総額40万円〜80万円程度、成人矯正総額80万~1120万(装置代・調整料等を含む)、治療期間の目安は2年〜3年程度、通院は1か月に1回程度です。実際の費用・期間は歯並びの状態や治療方針により症例ごとに大きく異なります。装置装着後の痛みや違和感、歯根吸収、歯肉退縮、治療後の後戻りなどのリスク・副作用が生じる場合があります。正確な費用・治療期間は診察のうえ個別にご説明しますので、医院までお問い合わせください。
プロ矯正歯科(https://www.6777.jp/

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田中憲男
専門家

田中憲男(歯科医)

プロ矯正歯科

大学病院10年間、錦糸町にて開業して13年間、歯列矯正治療を中心におこなってきました。中でも外科的矯正治療の施術数は300症例以上の経験があります。

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