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河村修一

「ファイナンシャルプランナー」×「行政書士」

河村修一(かわむらしゅういち) / 行政書士

カワムラ行政書士事務所

コラム

親が介護になるときく「世帯分離とは?」

2020年7月12日 公開 / 2021年11月29日更新

コラムカテゴリ:くらし

おはようございます。行政書士 ファイナンシャルプランナーの河村修一です。
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「世帯分離」を聞かれたことがあるでしょうか。もしかしたら、親御さんが介護状態になった場合等にお聞きになる場合が多いかもしれません。
その前に「世帯」とは何でしょうか。「世帯とは、ひとつの屋根の下に住み、かつ、生計を共にすること」です。つまり、「世帯の定義=同居+生計を共にする」になります。例えば、①「同居していない」のであれば、そもそも別世帯であり、②「同居している」が生計を共にしていなければ、別世帯になります。

世帯分離とは




「世帯分離」とは既存世帯の世帯員が住所を移動せずに新たな世帯を設けた場合のことです。結果、同じ住所に世帯が複数あり、それぞれに世帯主がいる状態になります。上記②の「同居はしている」が「生計を共にしていない(生計は別)」ときが該当します。例えば、お子さんが結婚後も親御さんと同居はしているが「生計は別」である場合や離婚したお子さんが実家に戻ってきたが「生計は別」である場合等です。また、手続きにおいて世帯分離届という名称のものはなく、「異動届出書」等を役所に提出します。

親子や夫婦でも世帯分離可能?

親子の場合は、上記のように「生計が別」であれば世帯分離はできます。一方、夫婦の場合はどうでしょうか。例えば、共働き夫婦の世帯分離事例が記載されていました(参照:地方自治問題解決事例集1行政編 地方自治問題研究会編著)。以下概略になります。A市からB市へ引越してきた共働きの夫婦(生計は別)が、A市では同じところに住みながら、お互いが世帯主で別世帯となっていました(世帯分離)。この度、B市へ引っ越してきたところ、役所にA市と同様に世帯分離として届け出たところ、原則、同一住所地の夫婦の場合は世帯分離は不可だ(民法752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない)ということでしたが、例外的に「生計が別」という実態があれば夫婦でも世帯分離が可能であることを示しました。ただし、役所が実態を確認、審査するため、必要に応じ源泉徴収票、課税証明書等の疎明資料の提出を求められることがあります。

親が介護になると何故「世帯分離」の話をよくきく?

親が介護になると、今後「介護費用」がいくらくらいかかるか気になります。介護費用は、毎月かかる費用に加え、介護保険施設に入所したときは施設代等がかかります。介護保険制度では介護保険サービスを受けた場合、利用者(65歳以上)は所得によりサービス費用の1割~3割を自己負担します。自己負担が1割~3割といっても大きな負担になる場合もあります。そこで、介護費用を軽減する制度として高額介護サービス費(参照厚労省HPより)があります。例えば、離婚したお子さん(住民税課税)が実家に戻ってきて、介護サービスを受けている母親Aさん(住民税非課税で年金収入は80万円以下:1割負担)と①同一世帯(2人世帯)だった場合、高額介護サービス費1ヶ月の自己負担上限額は4万4千4百円になります。一方、②お子さんと母親Aさんが世帯分離(1人世帯)した場合は、高額介護サービス費1ヶ月の自己負担上限額は1万5千円になります。このように世帯分離した結果、自己負担額の上限額が軽減されます。

その後、母親Aさんが介護が重くなった場合、終の棲家である「特別養護老人ホーム」に入所するとしましょう。施設代は、サービス費用(1割~3割)に食費・居住費を加え、さらに日常生活費を加算します。特別養護老人ホームに入所するときは、「世帯分離」ではなく、住民票を施設に移す「転居届」をだすことが多いかもしれません。結果、「転居届」により別世帯となります。よって、母親Aさんの所得(Aさんの預貯金等も1千万円以下)だけで判断するため「食費・居住費」が軽減されます。また、リハビリを中心として在宅復帰を目指す「介護老人保健施設」に入所した場合をみましょう。先ほどの例と同様に①お子さんと同一世帯のときは施設代のうち「食費・居住費」は基準費用額になります。仮に、ユニット型個室に入所した場合は、「食費・居住費」は、1ヶ月(31日)約10万4千円になります。一方、②世帯分離をしていた場合には、特別養護老人ホームのときと同様にAさん1人世帯となるため「食費・居住費」は、1ヶ月(31日)約3万8千円になります。世帯分離をした結果、差額がなんと▲約6万6千円にもなります。このように世帯全員の所得等で判断されるため、世帯分離をした結果、介護費用が軽減される場合があります。このため、親御さんが介護になったときに「世帯分離」の話をきくのではないでしょうか。
※介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院)を利用した場合、「食費・居住費」の自己負担額が軽減される「補足給付」があります。そのためには、次の①所得要件と②資産要件のすべてに該当する必要があります。①所得要件は住民税非課税世帯の方(課税世帯や別の配偶者が課税されている場合は対象外)。②資産要件は「預貯金等」が単身で1千万円以下、夫婦で2千万円以下の方(単身とは、配偶者がいない場合。配偶者がいる場合は、夫婦の合計預貯金額等で審査。預貯金等が1千万円超(夫婦の場合は2千万円超)の場合は対象外)。※資産要件は2021年8月から見直されています。

まとめ


世帯分離とは「ひとつの屋根の下に住み、かつ、生計は共にしていない」ことが必要です。つまり、同じ住所に世帯が複数あり、それぞれに世帯主がいる状態になります。世帯分離した結果、上記の様に介護費用の軽減になる場合があります。ただし、家族に2人以上要介護者がいる場合には「高額介護サービス費」は世帯でカウントするためマイナスに働くこともあります。このように一例ですが「世帯分離」をした結果、マイナスになる場合もありますので注意しましょう。

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