仮説を持って取り組む
こんにちは。富士市にて在宅医療の働きに関わらせていただいている薬剤師の栗原です。
最近は、薬剤師の働きの中でも日常的にコンピューターを用いることが当たり前になっており、いろいろな面でオートメーション化の流れが生じてきています。
そこで今日は、薬剤師の働きとオートメーション化の関係について、今現在言えることについて明らかにしていきたいと思っています。
薬剤師の働きは、大きく次の2つに分けて捉えることができます。
①日々お薬を取り扱い、医師が処方した通りのお薬を患者様に、適切にお渡しする
②医師の処方がその患者様にとって何がしか好ましくないものであった場合に、医師に処方変更の提案を行う
まず①についてですが、これだけでも実際のところ、現場で働いている薬剤師の9割方の薬剤師の働きがこれに該当しています。作業としては9割をこれが占めます。ただし、残りの1割、すなわち②に該当する作業は、割合としては高くないものの、薬理学をはじめとした学びを地道にしていく積み重ねの中ではじめて出来る、薬剤師の働きとして不可欠な作業となっています。今回はこの②については省いて考えていきたいと思います。
1)調剤する
医師が書いた処方箋に基づいてお薬を「調剤する」ということにも大きく2段階あります。
1)お薬を適切に取り揃える
2)それを適切に患者様にお渡しする
1)のお薬を「取り揃える」ということは、薬局内の棚から適切にお薬をピッキングするということです。また、もし店舗になければ卸(おろし)さんや他の薬局から取り寄せてそれを患者様にお渡しする、ということでもあります。
この取り揃え作業については、現在でも、完全なオートメーション化は間違いなく可能です。システムの完成度の問題もあるでしょうが、莫大な予算を投与すればできないことではありません。店舗にないお薬についても「自動発注」というシステムはすでにどの薬局でも導入可能です。
また現在は完全なオートメーション化はできていないとしても、それを人間の手が補ってあげればいくらでも自動化の流れは町の薬局でも起こっています。
例えば今はお薬が処方箋通りかどうかを簡単に、iPodを用いて検査するシステムもあります。これは簡単に、どのような薬局でも導入することが可能です(お薬のシートには必ずバーコードが付けられているので)。処方箋の内容をパソコンに取り込ませたときにエラーが生じないことを前提とすれば、人間よりも機械にやらせた方が正確性は高いのは間違いありません(人間は、疲れもするし、体調も崩れることもあります・・)。
2)投薬する
一方で、一度取り揃えたお薬を患者様にお渡しする段階については、今のところオートメーション化はそれほど今のところできていません。すなわち
1)患者様から必要な情報を聞き取る
2)その処方箋の内容で問題ないか検証していく
以上の作業については、少なくとも「今」は人間である薬剤師だからこそできる作業となっています。
この点において機械化を導入する上での倫理的な問題が十分に解決できていないからです。患者様の側が、オートメーション化にとって理想的な存在であれば倫理的な問題も少ないのかもしれませんが、患者様も人間で、間違いも犯すし、そこに悪意が働き不当に不必要なお薬を得ようという魂胆も働きかねないことも当然影響しています。
でも、今現在、できないからといって、それ以上オートメーション化を考えなくて良いわけでもないでしょう。「オートメーション化」とは、人間にしかできないと思われている領域をどんどん機械が行なっていくようになるという運動そのものを指すからです。
では、いわゆる「投薬」において進むオートメーション化の流れはどのようなものが可能性としてありうるでしょうか?
それは、たとえば次のような様相を呈するでしょう。
1)ATMのような機会に医師から受け取った処方箋を入れる
2)機械が必要なお薬をピッキングして、薬袋に入れる
3)画面に、その処方内容にあるお薬に関して、情報収集しなければならない事柄を選択肢として提示し、患者様にイエス OR ノーで答えていただく
4)問題ないければ受け取り口からお薬が落ちてくる・・。
(写真は大正製薬が新宿駅構内に置いた大衆薬(OTC薬)の自動販売機)
これに類する事柄として、献血時の手続きが思い起こされます。献血者はパソコンを操作し、自分の情報を打ち込んで、自分が献血者として適切かどうかの情報を提供します。でも、献血前には必ず医師の面談を受ける必要がありますね。何か大きな問題がその献血者にはないか?何か勘違いはないか?どうしても人間的な総合的判断力、あるいは直感力なども生かして、不適切な献血者の献血をストップさせるような機構が必要なわけです。
もしオートメーション化によって、お薬がATMのような機械から出てくるような時代がやってきたとしても、薬剤師という人間の手によるチェック機構というものは、やはりどこかで必ず必要となっていると言えるのではないかと私は考えます。映画ブレードランナーでは、相手が人間かミュータント(機械)であるかの判断は、経験を積んだ人間が行なっています。最近はchatGPTに書かせた文章かどうかを、Googleの検索システムが判断しているようです。人間がやることなのかそれともAIなのか・・。
何かここでの線引きには、人間が人間性を見失わないために欠かすことの出来ない分水嶺が横たわっているように感じます。
3)疑義照会
また②の、薬剤師による医師への、いわゆる「疑義紹介」に関する事柄については、当然今の時代、処方箋を書く医師の側にも、すでにAI化された照会機構はすでにあるので、薬剤師側からAIを用いて機械が薬剤師の代わりに疑義紹介する意味はそれほどないようにも感じられます。また処方内容に基本的な誤謬(たとえば毎食後のところ2錠という割り切れないお薬が出されていた場合など)が含まれていた時、AIは「それをおかしい」と判断するような「常識的な判断力」はそれほど持ち合わせていないように感じられます。
果たしてAIに「常識」を教えられるかどうか?意外とこれは難しいのかもしれません(いや、逆に簡単すぎてスルーされているのか??)。
ともあれ薬剤師にとってのAI化も、「新幹線をAIに運転させるか?」、とか「処方箋をAIに書かせるか?」といった、他の職種が直面している倫理的な課題と同様であることは間違いありません。
4)人間薬剤師の優れた点
ここまで来ると、逆にオートメーション化の流れからみた人間薬剤師の働きの価値のほうが気になってきます。オートメーション化の流れからみた人間の能力には次のような性質があると言えると思います。
1)完全ではなくしばしばヒューマンエラーを起こすが、常に一定以上の常識内の働きを期待することができる
2)曖昧な部分の認識力があり、その辺をうまく最適化して回答を導き出すことができる
3)基本的なバグによる大規模なシステム障害を起こしにくい
4)患者様という人間に対する認知力を持ち、たとえデータ化されていない情報であっても五感を用いて瞬時にデータ化し判断していくことができる。
5)自分で車を運転して患者様のもとに出向いたり電話を受けたり発注をかけるなど、人間が一人いれば大抵のことは過不足なく処理するオールマイティーな働きを期待でき、それに答えることができる
オートメーション化の流れから逆に薬剤師の価値を見た方が、なんとなく違和感がありませんね・・。
でも以上のような5つのポイントをクリア出来るAIは、いまのところ一兆円出しても作成することは出来ないでしょう。
どうでしたか?AI化の流れから見た人間薬剤師の価値は、それほど見くびるに値するものではないと私は思うのですが、みなさまはどう考えられるでしょうか?「私はこう思う」などご意見がありましたらぜひお聞かせください。よろしくお願いします。