発達障害者と一緒に働くことで見えてくるもの

安藤和行

安藤和行

テーマ:子育ての悩み 仕事の悩み

当教室のレッスンに、ワークウィズ&サポートというのがあります。
指導者と一緒に登録制のバイト(単発バイト)をするというもので、同じ現場で、同じ仕事をするというレッスンです。
18歳以上の生徒が対象で、結構ニーズがあります。今はまだ高校生でも、卒業したらお願いしたいというお話しがあるほどです。
生徒とバイトをしていると、事例発表では聞かないようなことにたくさん気が付き、学ぶことが多いです。
※今回は登録制のイベント系バイトを中心に書きます。

色々な現場を知ることが将来の仕事に活かせる

日本には様々なバイトがあるのにも関わらず、日本の文化としては同じバイトを長く続けることが良いとされています。
長く続けることによってスキル等が向上するかもしれませんが、果たしてそれだけで良いのでしょうか?得られるものも多いと思いますが、逆に得るべき時に得られないものもあったりします。その得られないものが、後々人生にマイナス要因として響いてくることがあるので、発達障害のある人は色んなバイトや現場を経験をしてほしいと思っています。その考えは、生徒と一緒に登録制バイトを始めてから特に強くなりました。

登録制バイトというシステムは、発達障害者にとってメリットな部分があり、学びの機会も多いと感じます。同じ条件下でも、ADHDの人とASDの人とでは、他人からの評価の得られ方や環境面による影響、学べる事柄が若干違うので、その辺りを説明します。※全ての発達障害者に当てはまるわけではありません。その人の心理的状況や生活環境等により、効果は変わってきます。

ADHD(注意欠如多動性障害)の場合

イベント系のバイトには、イベントの運営、イベント会場の設営、撤去作業等があるのですが、HDD(多動・衝動性)タイプは特に特性の恩恵を実感しやすいバイトです。

イベント系バイトはイスや棚等の什器を運んだり、掃除をしたりと、とにかくせわしなく動き回ります。
多動や衝動性がある人は一般の人よりも動き回るのが苦痛ではないので、よく動けます。よく動くので、他人から見たら働き者として映り、高評価に繋がります。ADHDがある人にとっては特別なことではないが、周りから見たらスペシャルな人間だと思われやすいです。

環境面をみると、口頭による指示がほとんどですが、最小限の指示が多いので、言語理解やワーキングメモリーが低くてもやっていける。不注意等が原因によるミスがあっても、気づかれないことが意外と多いので、心理的ストレスが少ない。色々な現場に行くので、顔や名前を覚えるのが苦手でも問題がない。自分の顔や名前をずっと覚えられにくいので、いつでも初対面の気持ちで接することができる。仕事が早く終わることがあり、お得感を実感しやすい(例:日給そのままで8時間労働が6時間労働で終わる)。
刺激が多くて注意力が散漫になるかと思いきや、身体を動かすので注意力が持続しやすい。注意が散漫になっても、作業(例:物を運ぶ)をしていればさぼっているようには見えない。
ADHDのある人は飽きやすいタイプが多いですが、イベント系のバイトは知らない世界に触れる機会が多いので、バイトをする上でのモチベーションに繋がり、飽きにくくなります。これは大きなメリットです。

新しい刺激を欲するタイプにとって、色々な人と知り合える楽しさもあります。
知っている人と会話をすることも当然好きですが、衝動性や多動性が起因してか、知らない人と会話をすることを躊躇なく出来る人もいます。
現場が毎回違うので人も違い、常に新鮮な状態で会話を出来るので、無駄に気を遣わないで済むのは楽とのこと。

ASD(自閉症スペクトラム障害)の場合

ASDの人は職場での人間関係で非常に悩むというお話しをよく聞きます。悩むけど、せっかくの仕事をすぐに辞めるわけにもいかず、ズルズルと引き摺ってしまい、次第に心を病むというケースは少なくないです。心を病む人は確かにいますが、逆に病みにくいタイプがいるのも見かけます。
実際、登録制バイトをしていて、明らかにASDだなと思われる人と一緒に働く機会がありますが、適応しているように見える人もいます。何故適応しているように見えるのか?それは登録制バイトの良さがあると思います。

挨拶や指示行動を出来ていれば評価が下がることがない。仕事内で興味・関心やこだわりがその時の仕事内容に上手く合致すれば、高評価に繋がりやすい。
ただし、指示された事に対しての解釈の食い違いが起これば、注意を受けることもあります。

現場では必要以上にコミュニケーションをとる必要がないので、コミュニケーションが苦手な人にとっては気が楽。要領が悪くて注意を受けることはあるが、次の現場では関係なく、注意をした人がいない事も多いので、気持ちの切り替えがしやすい。
ASDのある人の中には顔を覚えにくいタイプがいますが、名前や顔をずっと覚えなくても問題ありません。煩わしい人間関係に悩まされにくいので、ASDのある人にとっては、かなり大きな利点だと思います。

ASDのある生徒と一緒にバイトをする時は、学んでほしい事柄を事前に伝えています。

「少し努力してもすぐに出来ないことは、見切りをつけて手伝ってもらう」
ASDのある人の中には、出来ないのに出来ると返事をし、ずっと努力し続ける人がいます。努力することは素晴らしいですが、仕事場ではすぐに結果を要求されるので、どこかで見切りをつけて誰かにお願いするスキルが求められます。努力しなければいけないという考えを深くまで刷り込まれた人や完璧主義思考の人ほど、特に学んでほしいと思っています。

「自分にとって気に入る人気に入らない人の違いを知る」
ASDのある人は0か100で物事の好き嫌いを判断しがちです。気に入る人にはとことん好きになり、気に入らない人にはとことん嫌いになります。様々な情報を加味しながらの判断ではなく、一つ又は二つ程度で判断することがあるので、結果的に損することが多いです。そのため、私は人を観察するポイントを伝え、出来る範囲で意識してもらうようにしています。

「バイト中に溜まったストレス発散方法を知る」
ストレス耐性を強めることを求める人もいますが、発達障害者の場合は健常の人と比べて負の事に対する感受性が強いので、健常の人よりも早く決壊してしまいます。そのため、自分に合った発散方法を構築することが必要です。
発散方法と聞くと、多くの人は身体を動かしたり、寝るということを言いますが、それも良いが時間がかかります。先ほども言いましたが、発達障害者は負の事に対する感受性が強いので、時間が経つごとにストレスが膨張していきます。ストレスは時間との勝負だと私は考えています。発散方法は人によって違うので、教えることはできません。しかし、ストレスを発散できたと実感してもらうことはできます。バイト後に、生徒とご飯を食べながらその日に感じたことや、愚痴等を聞くようにしています。同じ現場にいたので「ツーと言えばカーの会話」が成立しやすく、生徒は溜め込んだストレスをすぐに吐き立たせてスッキリします。「誰かに話す」という方法を自分の発散方法の一つになったら、一緒にバイトをした意味があったと言えるでしょう。

「他人と円滑に関われる距離間を知る」
距離間というのは、物理的な意味と心の距離間のことを指します。ASDの人は、他人との適切な距離間が分からないことがあります。そのためにトラブルになることがあるのですが、イベント系の現場では、距離間を縮めるのも広げるのも自分の行動しだい。無理なく、自分に合った距離間を知るのにうってつけです。
ただ、それを生徒に意識させるとキャパオーバーになる可能性があるので、生徒には言いません。そのかわり、食事をしながら話しを聞いたり、会話の様子を見たりして、私が分析するようにしています。

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安藤和行
専門家

安藤和行(ひだち教室長)

子育て・自立サポート ひだち教室

一歩踏み込んだサポートと勇気づけを得意とする。一人一人の特性に合わせた具体的な解決策を打ち出し、提案・実践する。社会・野外体験活動や、独自の技術を持つ人達との出会いを通じて生きる力を育む。

安藤和行プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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