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壁画を描く前に必見!最低限の塗装の知識を学ぼう!

奥村昇

奥村昇

テーマ:壁画

その壁画ちょっと待った!


私のところに「壁画を描きたいのですが、どんな塗料を使えばいいか教えてください」という問い合わせがよくあります。
画家や美大生、地方自治体や学校関係者の方など様々です。
一方、絵画の延長のつもりで安易な考えで壁画を描いて、
悲惨な状態になっている事例も時々目にします。

そこで、これから壁画を描く方や依頼される方に、塗装と塗料のことについて最低限知っていただきたいことをまとめてお伝えしたいと思います。

壁画には、塗装の知識と技術が欠かせない!


壁画を描く壁は、紙やキャンバスなどとは違い、元々絵を描くために用意されているものではありません。
壁に絵を描くことは、単なる絵画ではなく塗装
の領域であることを忘れてはいけません。
つまり、通常の絵を描くときとは違い、塗装についての最低の知識と技術が必要になります。
それを怠ると、あっという間にハゲたり色褪せたりというトラブルが発生します。

壁画制作の3大トラブル


壁画制作におけるトラブルは、大きく分けて次の3つです。

  • 下地処理ができていない。

これから描こうとしている壁をよく観察・点検しましょう。
新しい塗装仕立ての壁?それとも汚れた古い壁?ヒビや傷みがある老朽化した壁?
下地の素材は、木、コンクリート、金属?
下地素材のまま?それとも塗装されてる?
基本的には、そのまま直ぐ描ける壁はまずありません。
まずは、表面を平滑に整え、クリーニングをし、塗装ができる状態に初期化(下地調整)する必要があります。

  • 塗料選びを間違っている。

壁の表面の素材とこれから塗る塗料が、相性が合わないと塗料は密着しません。
間違った塗料を使うと、密着不良など剥離のトラブルになります。
木部用、モルタル用、金属用など、用途に合わせて最適な塗料を選ばなければなりません。
また、塗料には短期用(1年以内)、中期用(5〜10年)、長期用(10年以上)など耐久性が異なる種類があるので、目的に合った塗料を選ばなければなりません。
ツヤの有り無しも作品性にとって重要な要素です。
現場環境や作業環境、作業条件によっても選ぶ塗料は大きく変わります。

  • 塗装の基本ができていない。

塗料メーカーが保証している塗装の耐久性は、決められた塗装の基準をクリアしていることが前提条件です。
メーカーが指定している最低基準(使い方)を満たしていない場合は、塗料が本来の性能を発揮できません。
塗装であれば、希釈率が10%以内で、2回塗りが基準です。
絵画では、色を薄く塗る時、絵の具を薄めて使いますが、塗装では基準以上に薄めると極端に耐久性が低下します。
通常なら10年前後は色褪せしないはずの作品が、1〜2年で褪せてしまうのは、絵画技法と塗装技法の違いにあります。

下地処理について


では適切な下地処理とはどういうことでしょうか?
下地処理には次のような目的があります。
・下地の表面を平滑にきれいにする。
・素材から受ける悪影響を遮断する。
・下地と塗料の密着性をよくする。
・上塗り塗料の発色をよくする。

個々についての詳細な説明は長くなるので、ここでは完結に要点だけをお伝えします。

1)下地の表面を平滑にきれいにする〜ケレン、クリーニング作業


これから描こうとする壁は大抵、凹凸や付着物、汚れなど壁画にとって好ましくない状態にあります。

凹凸は、作品の出来栄えに反映するので描き手の判断になります。
表面を平滑にしたいなら、フィラーとかサーフェイサーと呼ばれる下塗り剤を塗布します。

付着物は、絵を描いた後に壁から剥がれたら、その部分は欠損しますし、欠損したら下地との隙間から水が侵入して剥離がどんどん広がっていく原因になります。

汚れも大敵です。
塩分や排気ガス、油汚れは、塗料の密着力を妨げたり、塗料を分解してしまう大きな要因になります。
そのため、ケレンと洗浄・クリーニングという作業を行います。
ケレンとは、スクレーパーとか皮スキと言われる道具で壁についた付着物を削り取る作業を言います。

洗浄・クリーニングは、一般的に高圧洗浄機や洗車ブラシなどを使って水洗いをします。
シャッターなどは表面に油分がついていて、塗料の密着性が低下する原因になるので、塗料用シンナーやエチルアルコールをウエスにつけて拭き取り(脱脂)作業をします。

真新しい壁でも、成型品の壁には離型剤や可塑剤などが表面についていて塗料をはじいたり密着不良の原因になるので、塗料用シンナーやエチルアルコールなどで拭き取ります。

2)素材から受ける悪影響を遮断する


ブロック塀のような多孔質の下地は、裏から水分が浸透して塗料を剥がす原因になります。
それを防ぐためには、ブロック塀の巣穴をモルタル樹脂などで完全に密閉する必要があります。
よくコンクリートシーラーなどの下塗り剤で済ませているケースがありますが、1〜2年経って剥がれの現象が出始めることがよくあります。

また、新しいコンクリート壁からはアルカリ成分が排出され、塗料の密着不良や劣化を招き剥がれの原因になります。
この場合は、コンクリートシーラーとかアルカリシーラーと呼ばれる下塗り剤を塗る必要があります。

また木製の壁の場合は、ヤニが内から染み出してきて、塗装が剥がれたり変色する原因になります。
これを防ぐには、ヤニ止めまたはアク止めシーラーと呼ばれる下塗り剤を塗布する必要があります。

3)下地と塗料の密着性をよくする


下地の種類によって塗料との相性がよくないものがあります。
相性が悪いと塗料をはじいてしまったり密着不良が起きます。
それを防ぐためにプライマーとかシーラーと呼ばれる下塗り剤があります。
この下塗り剤は、下地や塗りたい塗料の種類によって異なりますので、よく確認して選んでください。

4)塗料の発色をよくする


下地が白色であれば塗料の発色は鮮やかになります。
ところが下地が有彩色であったり、無彩色でも濃色の場合は、上から塗る塗料の色が濁ってキレイに発色してくれません。
その場合は、プライマーやシーラーなどの下塗り剤(黒、グレー、白、透明がある)の色を白にするといいでしょう。
または、白色の裏塗り塗料で白く塗りつぶします。


塗料選びについて


塗料には希釈剤の種類によって大きく3タイプに分類されます。
・水性塗料
・油性塗料(弱溶剤型塗料)
・溶剤塗料(強溶剤型塗料)
またそれぞれに1液型と2液型があります。

1)水性塗料の特徴と使用上の注意点


水性塗料とは、水で薄めて使う塗料です。
よく、「水性塗料は雨に濡れても大丈夫ですか?」という質問を受けますが、
一旦乾いた水性塗料は耐水性になり、水に濡れても問題ありません。
どうも、水彩絵具と混同されているようです。
水分が気化して乾くタイプですので、気温や湿度によって乾燥時間は大きく異なります。
夏場だと、1〜2分で乾きますが、冬場は1時間以上乾かないこともあります。
夏場は、乾きが早すぎて刷毛ムラが出やすく仕上がりが汚くなるので注意してください。
乾かないうちに雨が降ってきたら流されてしまいます。
空模様が怪しい時は、ヘアドライヤー等でまめに乾かしましょう。

乾燥状態は指で触って確認します。
指で触ってついてこない状態を指触乾燥と言います。
この状態で、この上から塗り重ねがOKの状態です。
ただ、この状態で完全に乾燥しているわけではありません。
表面だけが乾いていても内部はまだ湿っている場合があるので要注意です。
冬場などは、作業終了後に夜間温度が一気に下がり、結露したり凍結して翌日になって
塗料が流れ落ちていることがあります。

水性塗料は、一旦乾燥したらどんなに水に濡れても平気ですが、
完全乾燥する前の段階でトラブルの危険性があるので要注意です。
それと、気温が0度以下になる環境では使えません。

2)油性塗料の特徴と使用上の注意点


油性塗料とは、ペイントうすめ液(塗料用シンナー)で薄めて使う塗料です。
昔(2000年以前)は、塗装業界では油性塗料が主流で、水性塗料はほとんど出回っておりませんでした。
塗装品質や耐久性の面でも、油性塗料の方が水性塗料より優れていて安心して使える塗料でした。
近年では、環境面や作業者の健康面からも水性塗料が主流になりつつあります。
ただ、金属面に使える水性塗料ほとんどないので、金属面に対しては油性塗料の方がよく使われています。

ただ、油性塗料の一番の難点は、シンナーの臭いと作業者への健康上の悪影響でしょう。
屋内では数日間臭いがこもってしまうことがあるので、特に飲食店などでは敬遠されます。
また、シンナーは引火性が高いので、火事に対する不安もあります。

3)溶剤塗料について


溶剤塗料も、油性塗料より強いシンナー(ラッカーシンナーまたは同等の専用シンナー)を使うという以外は油性塗料と同様です。
溶剤塗料を使用する場合は、溶剤用の防毒マスクの着用は絶対です。
作業者お体質によっては、気分が悪くなる人やラッカーに触れてか皮膚がぶれたり炎症を起こす人もいますので特に注意してください。

4)1液型と2液型の塗料とは


以上は、希釈液の違いによる分類でしたが、もう一つ「1液」と「2液」という分類があります。
1液型の塗料は、そのまま希釈剤(水やシンナー類)で薄めて使える塗料で、今述べてきた一般的な水性塗料や油性塗料、溶剤塗料をいいます。
いわゆる自然乾燥することで硬化するタイプです。
それに対し2液型の塗料は、「主剤」と「硬化剤」という2種類の液体を混ぜて使うもので、2液が反応することによって強制的に硬化させるタイプです。

2液型の方が、1液型より耐久性も塗装品質も高く、あらゆる下地素材に対応できます。
油性か溶剤系がほとんどですが、水性の2液型も最近登場し始めました。

ただ、2液型の塗料は本来プロ向きで塗装経験の浅い人にはお勧めできません。
2液型の場合は、主剤と硬化剤を秤で計って指定の重量比で混ぜる必要があります。
しかも厄介なのは、一旦混ぜた塗料は、反応が始まって一定の時間(可使時間)で固まってしまいます。
つまり、可使時間内に塗れる面積に合わせた分量を細かく計算しながら塗料を作っていかなければなりません。
1色ならまだしも、10色以上の絵となったらかなり大変です。
もちろん、この塗料を使う容器や筆なども小まめに洗浄しないと、固まってしまって使い物にならなくなりますので細心の注意が必要です。
それでも、特殊な下地素材であったり、高い塗装品質(スペック)を求あめられる公共工事などの場合はこのタイプの塗料も使うことがあります。

塗装技術のトラブル

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奥村昇
専門家

奥村昇(アートディレクター)

有限会社ビッグアート

アート制作が目的ではなく、アートのパワーを活用した戦略的なデザイン(しかけ)で人や社会に大きな変化をもたらし、新しい価値や新しい流れを生み出します。人がワクワク元気になるまちを目指して!

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