死後事務委任契約とは?葬儀・遺品整理で後悔しない活用法と注意点
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「親が認知症になる前に、財産管理を任せてもらえれば安心だ」
「遺言書より柔軟に、次の世代、さらにその次の世代まで財産の承継先を決められるらしい」
認知症対策と円滑な資産承継を両立できる画期的な制度として、今、大きな注目を集めている「家族信託」。
しかし、その自由度の高さと、まだ新しい制度であるがゆえに、知識不足の専門家による設計ミスや、ご家族の安易な判断によって、かえって深刻なトラブルに陥るケースが後を絶ちません。
今回は、この「家族信託」をテーマに、安易な導入で後悔しないために絶対に知っておくべき、
- 「損益通算できない」という税務上の致命的な罠
- 「身上監護」はできないという、制度上の限界
- 受託者(子)が先に亡くなるリスクへの備えの欠如
- 他の相続人への配慮不足が招く「遺留分」トラブル
- 経験不足の専門家選びという、最大の失敗要因
といった5つの致命的な落とし穴について、詳しく解説していきましょう。
【結論】家族信託は万能薬ではない。専門家と“オーダーメイドの設計”をすることが絶対条件
家族信託は、ご家族の状況に合わせて財産の管理と承継をオーダーメイドで設計できる、非常に強力なツールです。
しかし、その効果を最大限に発揮させるためには、制度の「限界」と「リスク」を正確に理解しておく必要があります。
特に、
- 信託した不動産から生じた赤字は、他の所得と相殺(損益通算)できないという税務上の大きなデメリット
- 財産管理はできても、介護契約や施設入所契約は代理できないという「身上監護」の限界
といった点を理解しないまま契約を結んでしまうと、「こんなはずではなかった」と、後で取り返しのつかない事態を招きます。
家族信託は、単なる認知症対策の一手法ではなく、家族の未来を何十年にもわたって左右する、極めて専門的で後戻りの難しい「契約」です。
インターネットの情報や付け焼き刃の知識で安易に手を出さず、必ず、家族信託の実務経験が豊富な司法書士や弁護士といった専門家に相談し、ご自身の家族に合った、盤石な設計をすることが成功の絶対条件と言えるでしょう。
1.【税務の罠】アパート経営が赤字でも税金は安くならない「損益通算の禁止」
これは、収益不動産(賃貸アパートなど)をお持ちの方が、最も注意すべき落とし穴です。
■ 通常の所得税計算
アパート経営で赤字(大規模修繕などがかさんだ場合)が出た場合、その赤字を給与所得など他の黒字の所得と相殺(損益通算)することで、全体の所得税額を安くすることができます。
■ 家族信託の罠
信託したアパートから生じた赤字は、税法上「なかったもの」とみなされ、他の所得との損益通算が一切できません。
つまり、給与所得からは通常通り所得税が満額引かれ、信託不動産の赤字は切り捨てられるため、結果的に手元に残るお金が大幅に減ってしまうという、深刻な事態に陥る可能性があるのです。
2.【制度の限界】財産管理はできても介護・医療の契約はできない「身上監護の壁」
家族信託は、あくまで「財産の管理・処分」を託す制度です。親御様の身上に関する契約、いわゆる「身上監護」を行う法的権限は、受託者(子)には与えられません。
【受託者(子)が代理できないことの具体例】
- 介護サービス事業者との利用契約
- 老人ホームへの入所契約
- 入院手続きや、手術の同意
これらの行為には、別途「任意後見契約」を結んでおく必要があります。
「家族信託さえ結んでおけば、親のことはすべて大丈夫」というのは、極めて危険な誤解です。財産管理の「家族信託」と、身上監護の「任意後見契約」は、車の両輪としてセットで検討すべきです。
3.【設計ミス】もし受託者(子)が先に亡くなったら?「二次受託者の不在」
家族信託は、時に30年、40年と続く長期の契約です。
その間に、財産を託された受託者であるお子様が、親より先に亡くなるという可能性も十分に考えられます。
この時、信託契約書に「次の受託者(第二受託者)」をあらかじめ定めておかなければ、
- 信託契約はその時点で強制的に終了してしまう
- 裁判所に新たな管理者を選んでもらうなど、非常に煩雑な手続きが必要になる
といった事態に陥りかねません。
第二受託者だけでなく、受益者(親)が亡くなった後の財産の帰属先まで、将来起こりうるあらゆる事態を想定した、多角的な契約設計が不可欠です。
4.【感情の罠】他の相続人への配慮不足が招く「遺留分トラブル」
「長年、親の面倒を見てきた長男にすべての財産管理を任せ、私の死後は、長男にすべての財産を継がせる」
このような内容の信託契約は、他の兄弟姉妹の「遺留分」(法律で保障された最低限の相続権)を侵害する可能性が極めて高くなります。
遺留分を侵害された相続人は、後からその侵害額を金銭で請求する権利(遺留分侵害額請求)を持っており、これが深刻な「争族」の火種となります。
信託契約の内容を決める際には、他の相続人の遺留分にも配慮した、公平な財産承継のプランを考えることが、家族の和を守る上で非常に重要です。
5.【最大のリスク】知識・経験不足の専門家への依頼
家族信託は、まだ比較的新しい制度のため、すべての専門家が精通しているわけではありません。
税務や二次相続、遺留分といった複雑な要素を考慮せずに、インターネットの雛形を流用したような安易な契約書を作成されてしまうと、後で取り返しのつかないことになります。
専門家を選ぶ際は、単に「家族信託を扱えます」というだけでなく、「これまでに何件の信託組成実績があるか」「税理士など他の専門家との連携体制はあるか」といった、実務経験の豊富さを必ず確認すべきです。
【まとめ】家族信託は諸刃の剣。正しい知識と“本物の専門家”の見極めが不可欠
家族信託は、正しく使えば、家族の未来を明るく照らす強力な光となります。
しかし、一歩間違えれば、家族の絆を断ち切る鋭い刃にもなり得るのです。
では、本日の重要なポイントをまとめます。
- 家族信託には、損益通算ができないといった「税務上のデメリット」があることを、まず理解する。
- 身上監護は信託の対象外。「任意後見契約」との併用が、万全の認知症対策となる。
- 受託者が先に亡くなるリスクや、他の相続人の遺留分など、長期的な視点と公平な視点での契約設計が不可欠。
- 最大の失敗要因は、経験不足の専門家への依頼。ホームページなどで実績の豊富さを必ず確認すること。
- 安易な導入は絶対に避けるべき。複数の専門家の意見を聞き、家族全員が納得した上で進めることが成功の鍵。
ご葬儀の現場では、生前の準備不足が原因で、ご遺族が途方に暮れる場面に何度も遭遇します。
万能に見える家族信託も、その一つになり得るということを、私たちは危惧しています。
正しい知識を持つことが、ご自身の家族を、そしてその未来を守るための第一歩となるのではないでしょうか。
株式会社大阪セレモニー



