「内縁の妻(夫)ですが、財産は全く相続できないのでしょうか?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「親の成年後見人を務めてきたが、親の死後、相続人として遺産分割協議に参加していいのだろうか?」
「自分が後見人として介護も財産管理も担ってきたのだから、他の兄弟より多く財産を相続する権利はないのか?」
ご家族のために成年後見人という重責を担ってきた方が、被後見人の死後、今度は「相続人」という全く別の立場になる。
この時、多くのご家庭で「利益相反」という、非常にデリケートで、かつ見過ごされがちな法的問題が浮上します。
今回は、この「成年後見人と相続人の立場を兼ねるケース」に焦点を当て、
- なぜ遺産分割協議への参加が「利益相反」になるのか
- 特別代理人なしで進めた遺産分割協議の悲しい末路
- 家庭裁判所への「特別代理人」選任申立ての全手順
- すべてのトラブルを未然に防ぐ、最強の生前対策
などを、分かりやすく丁寧に解説していきましょう。
【結論】後見人兼相続人は、遺産分割協議に直接参加NG。家庭裁判所への「特別代理人」の選任申立てが必須
成年後見人としての立場は、あくまで「被後見人(親)の財産を“守る”」ことにあります。一方で、相続人としての立場は、「自身の相続分(取り分)を“確保する”」ことです。
被後見人が亡くなり、遺産分割協議の場において、この“守る立場”と“確保する立場”は真っ向から対立します。
これを法律用語で「利益相反」と呼びます。
この利益相反の状態を解消しないまま、元後見人であった相続人が遺産分割協議を進めてしまうと、
- その遺産分割協議自体が、法的に「無効」となる可能性がある
- 他の相続人から「不公平だ」と、後々、遺産分割のやり直しや損害賠償を求める調停・訴訟を起こされるリスクがある
といった、深刻な事態を招きかねません。
このような悲劇を避けるための唯一の正しい手続きが、家庭裁判所に対し、「特別代理人」の選任を申し立てることです。
元後見人であった相続人は協議から一旦外れ、家庭裁判所が選んだ中立な立場の特別代理人が、他の相続人と協議を行う。これが、法律に則った唯一の解決策なのです。
1. 【利益相反とは】なぜ「財産を守る立場」と「財産をもらう立場」は両立できないのか
成年後見人の最大の義務は、被後見人の財産を善良な管理者の注意をもって管理し、本人の利益を最優先することです。
決して、自分自身の利益のために行動してはなりません。
しかし、相続の場面ではどうでしょうか。
例えば、後見人であった長男が、他の兄弟(相続人)と遺産分割協議を行うとします。長男が自身の相続分を少しでも多く主張すれば、それは他の相続人の取り分を減らすことになります。
これは、被後見人であった親から見れば「長男“以外”の子供たちの利益を害する」行為と見なされかねません。
つまり、自身の利益を追求する行為が、同時に、後見人として守るべきだった「被後見人全体の利益(この場合は相続人全体の利益)」と真っ向から相反してしまうのです。
この状態を放置したまま手続きを進めることは、法律上、決して認められません。
2. 【トラブル事例】特別代理人なしで行った遺産分割協議の悲しい末路
良かれと思って、あるいは知識がないまま行った行為が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
【典型的な失敗例】
- 「自分がずっと介護してきたのだから当然だ」と、他の相続人の同意のもと、自身の取り分を多くする遺産分割協議書を作成してしまう。
- 他の相続人が未成年者や認知症である場合に、その方の後見人として、自分に有利な内容の遺産分割に同意してしまう。(二重の利益相反となり、極めて悪質と判断されかねません)
- 特別代理人を選任せずに作成した遺産分割協議書で、不動産の名義変更(相続登記)をしようとしたが、法務局で「この協議書では手続きできません」と突き返されてしまう。
これらの行為は、後見人としての任務に著しく違反したとみなされ、後から他の相続人に協議の無効を主張されたり、損害賠償を請求されたりする深刻なリスクを伴います。
3. 【唯一の解決策】家庭裁判所での「特別代理人」選任手続きの全手順
利益相反の問題を合法的にクリアするための手続きが、「特別代理人」の選任申立てです。
■ 手続きの流れ
- 申立て:元後見人であった相続人や、他の利害関係者が、被後見人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、特別代理人の選任を申し立てます。
- 候補者の選定:申立ての際に、特別代理人の候補者(利害関係のない親族や、弁護士・司法書士などの専門家が望ましい)を推薦することができます。心当たりがなければ、裁判所が弁護士などから選任します。
- 選任・審判:裁判所が候補者の適格性を審査し、問題がなければ特別代理人として選任する審判を下します。
- 遺産分割協議:選任された特別代理人が、元後見人であった相続人に代わって、他の相続人と遺産分割協議を行います。
この手続きには通常1~2ヶ月程度の時間がかかります。相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月)も考慮し、相続が開始したら、速やかに手続きに着手する必要があります。
4.【最強の予防策】生前の「公正証書遺言」がすべての問題を解決する
実は、この複雑な「特別代理人」の手続きを、そもそも不要にするための最強の予防策があります。
それは、被後見人(親)が元気なうちに、遺産分割の内容を具体的に定めた「公正証書遺言」を作成しておくことです。
遺言書があれば、遺産は遺言の内容に従って分配されるため、相続人間で「遺産分割協議」を行う必要がなくなります。
協議自体が不要なので、当然、利益相反の問題も生じません。
後見人として貢献してきたご家族に多めに財産を遺す、といった内容も盛り込めるため、最も円満かつ確実な方法と言えるでしょう。
【まとめ】後見人の責務は死後も続く。正しい手続きが家族の未来を守る
成年後見人という重責を誠実に担ってこられたからこそ、その最後の仕上げとして、ご自身の立場を正しく理解し、適切な法的手続きを踏むことが、ご自身とご家族の未来を守ることにつながります。
では、本日の重要なポイントをまとめます。
- 成年後見人が相続人でもある場合、遺産分割協議において「利益相反」が生じるため、直接協議に参加することは法律上できない。
- 利益相反を解消する唯一の正しい方法は、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、協議を代行してもらうこと。
- 特別代理人を選任せずに行った遺産分割協議は、無効となるリスクが極めて高く、絶対に行ってはならない。
- 最大の予防策は、被後見人(親)が元気なうちに、遺産分割の内容を定めた「公正証書遺言」を作成しておくこと。これにより、特別代理人の選任が不要になる。
- 後見人としての誠実な務めを全うするためにも、死後の手続きで少しでも不明な点があれば、速やかに弁護士や司法書士などの専門家に相談すべき。
生前の介護や財産管理という多大な貢献は、決して軽んじられるべきものではありません。
しかし、その貢献が法的に正しく、そして誰からも非難されることなく評価されるためにも、死後の手続きで決して過ちを犯してはならないのです。
私たち葬儀社も、ご葬儀の場でこうした複雑なご事情を伺った際には、相続に詳しい専門家へ速やかにお繋ぎし、ご家族が法的なリスクを回避できるようサポートすることも、重要な役割だと考えています。
株式会社大阪セレモニー



