後見人が喪主を務める?士業が抱える「死後の責任」問題と解決策
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「被後見人が亡くなったが、葬儀は誰が手配すべきか?」
「後見人が喪主を務める法的根拠はあるのか?」
「葬儀費用を故人の財産から支出すると、後から問題にならないか?」
弁護士や司法書士といった専門職後見人の先生方から、こうした被後見人の「死亡後の手続き(死後事務)」に関する切実なご相談が、近年、私たち葬儀社にも急増しています。
身寄りのない方の後見を務める中で、避けては通れない死後事務の問題。今回は、士業の先生方が直面するこの課題について、
- 後見人の権限が「死亡と同時に終了」する法的根拠
- なぜ後見人が「喪主」という重責を担わざるを得ないのか
- 葬儀費用を巡る相続トラブルと、横領を疑われるリスク
- 後見業務の法的リスクを回避する唯一の備え「死後事務委任契約」
などを、数多くの事例を見てきた葬儀の現場からの視点も交え、徹底解説していきます。
【結論】後見人の権限は死亡で終了し、喪主の義務もなし。自身を守るには、生前の「死後事務委任契約」が絶対必須
民法上、成年後見人の法的権限は、ご本人の死亡と同時にすべて失効します。
したがって、葬儀や納骨といった「死後事務」を行う法的義務は一切なく、もちろん「喪主」を務める義務もありません。
しかし現実には、他に頼れるご親族がいないケースがほとんどで、後見人の先生方が道義的責任から、事実上の喪主として葬儀の手配をせざるを得ないのが実情です。
この際に最大の問題となるのが、「権限がないのに、どう手続きを進めるのか」「葬儀費用をどこから、どう支出するのか」という点です。
これらの法的リスクと精神的負担を根本から解決する唯一の方法が、後見契約とは“別に”、ご本人の生前のうちに「死後事務委任契約」を締結しておくことです。
これにより、死後の代理権と費用を法的に確保でき、後見人の先生ご自身の身を確実に守ることにつながります。
1. 「死亡の瞬間、権限はゼロに」成年後見制度の絶対原則
まず、法律上の大原則を再確認しましょう。
成年後見制度は民法の「委任」の規定を準用しており、民法653条により、委任契約は委任者(本人)の死亡によって自動的に終了します。
つまり、ご本人が亡くなられた瞬間、後見人としての法的権限はすべて消滅し、故人の財産を管理・処分することは一切できなくなるのです。
本来、葬儀や埋葬、役所への届け出といった死後事務は、後見人の職務範囲外であり、それらはすべて「相続人」が執行すべきものとされています。
後見人の仕事は、相続人に財産を引き継ぐまで、現状を維持して管理することに限定されます。
2. 法的義務はないのに…なぜ後見人が葬儀を手配するのか?
ではなぜ、法的義務のない多くの後見人の先生が、葬儀の手配まで行っているのでしょうか。それは、他に誰も頼る人がいないからです。
身寄りがなかったり、親族と疎遠だったりする場合、後見人が何もしなければ、ご遺体は引き取り手のないまま放置されてしまいます。
■ 後見人が直面する“現実”
- ご遺体の引き取り:警察や病院からの連絡を受け、ご遺体を引き取り、安置場所(葬儀社など)を手配する。
- 葬儀の手配:葬儀社と打ち合わせを行い、火葬(直葬)を中心とした社会通念上、相当な範囲の葬儀を執り行う。
- 喪主の役割:法的な定義はありませんが、葬儀の主催者という意味で、後見人が「喪主」として名義上の役割を担う。
これらはすべて、後見人の先生方の高い倫理観と善意による対応であり、法的には極めて不安定な立場で行われている、ということを強く認識しておく必要があります。
3. 立替払いは危険!後見人を脅かす「葬儀費用」の支出問題
権限がない中で死後事務を進める上で、最も大きな法的リスクが「費用」の問題です。
■ 原則、故人の財産からは支出不可
死亡と同時に権限がなくなるため、故人の預金口座は凍結され、後見人は葬儀費用を引き出すことはできません。
後見人が費用を立て替えたとしても、後から現れた相続人に「葬儀費用が高すぎる」「そもそも頼んでいない」と支払いを拒否されたり、最悪の場合、財産の不正利用を疑われたりするリスクすらあります。
■ 例外的な判例もあるが…
近年の判例では、遺体の保存や火葬など、社会通念上相当な範囲の費用については、相続財産からの支出が容認される傾向にあります。
しかし、どこまでが「相当な範囲」なのか(例えば、祭壇を飾る、宗教者を呼ぶ等)は極めて曖昧で、ケースバイケースの判断に委ねられており、法的に極めて不安定な立場であることに変わりはありません。
これは、士業の先生方にとって、あまりにも大きなリスクです。
4. 士業の先生自身を守る唯一の法的防衛策「死後事務委任契約」
これらの問題を一挙に解決し、後見人の先生ご自身を法的に守るための制度が「死後事務委任契約」です。
■ 死後事務委任契約とは?
ご本人が元気なうちに(判断能力があるうちに)、死後の諸手続き(葬儀・納骨・遺品整理・行政手続き等)を、信頼できる個人や法人に依頼しておく契約です。後見人の先生が、個人または所属法人としてこの契約の受任者となることができます。
■ 契約の絶大なメリット
①死後の代理権の確保:死亡後も「受任者」として法的な代理権が継続するため、堂々と各種手続きを進められます。
②本人の意思の具体化:葬儀の形式や規模、納骨先、遺品整理の方法など、本人の希望を具体的に契約内容に盛り込めます。
③費用の事前確保と透明化:葬儀費用や整理費用を「預託金」として事前に信託銀行等に預けておくことで、費用の心配なく、かつ相続人からも疑義なく、安心して死後事務を遂行できます。
後見人に就任する際、あるいは就任後に、ご本人の判断能力が十分なうちに、この死後事務委任契約を併せて締結しておくことが、士業としてのリスク管理の観点から極めて重要です。
[大見出し]【まとめ】後見業務と死後事務は別個の業務。プロとして自身を守る備えを[/大-見出し]
成年後見業務が、被後見人の死亡と同時に、未解決の課題を抱えたまま崖から突き落とされるように突然終了してしまうという現実。
このリスクから身を守る唯一の命綱が、死後事務委任契約です。
では、本日の重要なポイントをまとめます。
- 成年後見人の権限は、本人の死亡によって完全に終了し、喪主や葬儀手配の法的義務は一切ない。
- しかし現実には、後見人が死後の手配をせざるを得ず、その際の権限や特に「葬儀費用」の支出には大きな法的リスクが伴う。
- このリスクを回避し、後見人自身を守るための最も確実な方法は、生前に「死後事務委任契約」を締結しておくこと。
- 死後事務委任契約により、「死後の代理権」と「手続き費用」の両方を合法的に確保でき、安心して職務を全うできる。
- 士業として後見業務を受任する際は、ご自身の身を守るためのリスクヘッジとして、死後事務委任契約の知識を持ち、活用を検討することが不可欠。
私たち葬儀社も、後見人の先生方からのご葬儀に関するご相談を数多くお受けしております。
生前のうちに、被後見人ご本人の希望に沿った葬儀の見積もりを作成し、それを死後事務委任契約書に添付しておくといった事前準備も、スムーズな死後事務の実現と費用の透明化に大変有効です。
お困りの際は、ぜひ我々専門家にご相談ください。
株式会社大阪セレモニー



