認知症の親の契約は無効にできる?死後に発覚した“財産の使い込み”と法的対処法

山田泰平

山田泰平

テーマ:相続関係

皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。

「親が亡くなった後、遺品を整理していたら、身に覚えのない高額なリフォームの契約書が出てきた…」

「生前、認知症だった母の預金が、ここ数年で不自然に数千万円も減っている。誰かが勝手に財産を処分したのではないか…」

ご葬儀の後、このような、故人の判断能力の低下に付け込んだかのような、不審な財産の動きに気づき、愕然とされるご遺族は少なくありません。

ご家族が認知症などで判断能力が不十分な状態だった場合、その間に行われた契約や財産処分が、法的に有効なのかどうか、ご遺族としては、大きな不安と、そして強い憤りが残りますよね。

そこで今回は、この極めて深刻な「認知症の親の財産問題」をテーマに、

  • 判断能力がない状態での契約は、法的にどうなるのか
  • 死後に契約を無効(取り消し)にするための、具体的な手続き
  • “使い込み”の立証は可能か?証拠集めの重要性
  • 将来の悲劇を防ぐ、最も有効な生前対策「成年後見制度」


などを、分かりやすく解説していきましょう。

【結論】判断能力なき契約は「無効」。ただし“立証”が鍵

まず、法律上の大原則があります。

認知症などによって、ご自身の行為の結果を正しく判断できない「意思能力」がない状態で行われた契約や財産処分は、法律上「無効」です。

したがって、ご家族が亡くなられた後に、そのような疑わしい契約が見つかった場合、相続人として契約の無効を主張し、支払ったお金を取り戻せる可能性は十分にあります。

しかし、そのためには、「契約当時に、ご本人に意思能力がなかったこと」を、客観的な証拠をもって証明(立証)しなければならない、という非常に高いハードルが存在します。

このような死後の泥沼の争いを避けるために、最も有効な生前対策が、「成年後見制度」、特にご本人が元気なうちに準備する「任意後見契約」の活用です。

判断能力が低下したご本人に代わって、法的な権限を持つ後見人が財産を保護・管理するため、不利益な契約や、親族による財産の私的流用を防ぐことができるのですね。

1. なぜ無効になる? 契約の有効性を左右する「意思能力」とは

不動産の売買や高額な商品の購入といった法律上の契約(法律行為)が、有効に成立するための、最も根本的な要件。それが、契約当事者の「意思能力」です。

■ 意思能力とは?
自分の行っていることが、どのような意味を持ち、どういう法的な結果を招くのかを、正しく理解・判断できる精神能力のことです。

■ 意思能力がない状態とは?
認知症の進行、知的障害、精神上の障害などにより、この判断能力が著しく低下している、または全くない状態を指します。
幼児や、泥酔者なども、一時的に意思能力がない状態とみなされます。

■ 法律上の扱い
民法第3条の2において、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と、明確に定められています。
たとえ、本人の署名・捺印がある立派な契約書が存在したとしても、その署名をした瞬間に意思能力がなかったと認められれば、その契約は「初めから、なかったこと」になるのです。

2. 死後に発覚!不審な契約を無効にするための、壮絶な“立証”の道のり

もしご葬儀の後、遺品整理中などに不審な契約が見つかったら、どうすればよいのでしょうか。

それは、時間と労力を要する、証拠集めの戦いの始まりです。


STEP①:「契約当時に、意思能力がなかった」証拠を徹底的に集める

これが、すべての鍵を握ります。裁判になった場合、裁判官を納得させられるだけの、客観的な証拠を積み重ねる必要があります。

  • 医療記録:医師の診断書、入院・通院記録(カルテ)、長谷川式スケールなどの認知症テストの結果、要介護認定の際の主治医意見書などを、弁護士を通じて取り寄せます。
  • 介護記録:介護認定の調査票や、介護施設の連絡帳、デイサービスの記録などに記された、契約日当時のご本人の日常の言動の記録も、有力な証拠となります。
  • その他の客観的証拠:ご本人がつけていた日記や手帳、メールのやり取りなど、当時の精神状態を推し量れるもの。
  • 周囲の人の証言:日常的に接していたご家族や、ヘルパー、施設の職員などの証言も、重要な判断材料となります。



STEP②:内容証明郵便で、契約の相手方に「無効」を通知する

証拠がある程度集まったら、弁護士に依頼し、契約の相手方に対し、「契約者には当時意思能力がなく、本契約は無効である。よって、支払済みの金銭を返還するよう請求する」という旨の、内容証明郵便を送付します。


STEP③:交渉、そして、最終手段としての訴訟へ

相手方がすんなりと返金に応じれば良いですが、多くの場合、「契約時は、しっかりされていましたよ」と、支払いを拒否するでしょう。
そうなれば、弁護士を代理人として交渉を進め、それでも解決しない場合は、裁判所に調停を申し立てたり、「不当利得返還請求訴訟」などを提起したりすることになります。
「意思能力の欠如」の立証は、医学的な知見も絡む、極めて高度で専門的な作業です。ご遺族だけで進めることは、まず不可能であり、必ず、早い段階で相続問題に強い弁護士に相談してください。

3. 将来の悲劇を防ぐ、最も有効な生前対策「成年後見制度」

このような、死後の不毛で、悲しい争いを避けるために、最も有効なのが、生前のうちからの「成年後見制度」の活用です。

■ 成年後見制度とは
認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な方々を、法律的に保護し、支援するための制度です。財産管理や様々な契約を、本人に代わって、家庭裁判所が選任した「後見人」が行います。

制度には、大きく分けて2つの種類があります。


① 法定後見制度

すでに判断能力が低下してしまった場合に、家族などが家庭裁判所に申し立て、後見人・保佐人・補助人を選任してもらう制度です。事が起きてからの、事後対応のセーフティネットと言えます。


② 任意後見制度

まだご本人が元気で、判断能力がしっかりしているうちに、将来判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめご自身で後見人(任意後見人)を選び、その人に任せたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。
ご自身の意思を、将来にわたって確実に反映できるという、非常に大きなメリットがあります。

4. どこに相談すればいい? 頼れる専門家と公的窓口

いざという時、どこに相談すれば良いかを知っておくだけでも、心の負担は軽くなります。

  • 弁護士:契約の無効主張、相手方との交渉、訴訟など、法的なトラブル全般のスペシャリストです。
  • 司法書士:成年後見制度の申立て手続きや、任意後見契約書の作成などをサポートしてくれます。
  • 消費生活センター(国民生活センター):悪質な訪問販売や詐欺的な契約など、消費者トラブルに関する、最初の相談窓口として非常に有効です。
  • 地域包括支援センター:高齢者の暮らしに関する、公的な総合相談窓口です。成年後見制度の利用に関する相談もできます。

私たち葬儀社も、ご葬儀後の手続きサポートの一環として、これらの信頼できる専門家をご紹介することが可能です。

【まとめ】財産トラブルは“生前の備え”がすべて。元気なうちに家族で話そう

大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、さらに、過去の財産トラブルの後始末に追われるのは、精神的に計り知れないご負担となります。

では、本日のポイントをまとめます。

  • 認知症などで「意思能力」がない状態での契約は、法律上「無効」であり、取り消せる可能性がある。
  • しかし、そのためには「契約当時に意思能力がなかったこと」を、医療記録などの客観的証-拠で、後から立証するという、極めて困難な作業が必要。
  • 不審な契約が見つかったら、ご遺族だけで抱え込まず、速やかに相続問題に強い弁護士に相談する。
  • 将来の財産トラブルを未然に防ぐ、最も有効な手段は、生前の「成年後見制度」の活用。特に、元気なうちに準備する「任意後見契約」が重要。
  • 「うちの親はまだ大丈夫」という楽観視は禁物。元気なうちに、将来の財産管理について、家族でオープンに話し合う時間を持つことが、何よりの親孝行。


ご葬儀の場で、「父は晩年、認知症を患いましたが、生前に任意後見の手続きを済ませてくれていたので、財産の心配をすることなく、穏やかに介護に専念できました」と、晴れやかな表情で語られるご家族がいらっしゃいます。

それは、故人となられた親御様が、ご自身の判断能力が確かなうちに、残される家族の未来を想い、最後の責任を果たしてくださった、何よりの証拠なのですね。

その愛情深い備えこそが、残される家族にとって、最高の遺産となるのではないでしょうか。

株式会社大阪セレモニー

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山田泰平
専門家

山田泰平(葬儀)

株式会社大阪セレモニー

当社は家族葬を専門に、これまで1000件以上の葬儀をお手伝いさせて頂きました。少人数だからこそ実現できるきめ細やかなサービスと、ご遺族様の想いに寄り添った丁寧な対応を心がけています。

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