相続人に自己破産者が…遺産分割協議が無効になる!?正しい手続きと法的リスク

山田泰平

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テーマ:相続関係

皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。

ご家族がお亡くなりになり、遺産相続の話を進めようという時、もし相続人の中に、自己破産の手続き中、あるいは過去に自己破産をした人がいたとしたら…。

残されたご遺族としては、「兄弟が相続するはずの財産は、どうなってしまうのだろう?」「他の相続人に、何か影響や不利益はあるのだろうか?」と、その相続財産の行方について、大きな不安を感じるのではないでしょうか。

これは、単に遺産を分けるという話だけでなく、破産した相続人の債権者が関わってくる、非常に複雑で、高度な法的配慮が求められる問題です。

対応を誤ると、相続人全員で合意したはずの遺産分割協議そのものが、後から無効にされてしまうという、深刻なリスクすら秘めているのです。

今回は、この「相続人と自己破産」の問題をテーマに、

  • なぜ、自己破産が遺産相続に、これほど大きな影響を与えるのか
  • 遺産分割協議の相手は、兄弟ではなく「破産管財人」という現実
  • 破産した相続人がいる場合の、正しい遺産分割の進め方
  • 絶対にやってはいけない、危険な行為とは
  • 将来のトラブルを防ぐための、生前の備え


などを、徹底的に分かりやすく解説していきましょう。

【結論】破産者の相続財産は破産管財人の管理下。遺産分割は管財人との協議が必須

相続人の中に自己破産した(あるいは手続き中の)人がいる場合、その人が相続するはずの財産は、原則としてその相続人自身のものにはならず、破産手続きの中で債権者への配当に充てられることになります。

そして、最も重要なポイントは、遺産分割協議の進め方が、通常とは全く異なるという点です。

相続開始時に、すでにその相続人が破産手続開始決定を受けている場合、遺産分割協議は、他の相続人と、破産した本人ではなく、裁判所から選任された「破産管財人(はさんかんざいにん)」という弁護士と行わなければなりません。

破産管財人は、破産者の財産を管理・処分する全権限を持っているため、この管財人の同意なくして、有効な遺産分割協議は成立しないのです。

相続人が自己破産に関わっていることが判明した時点で、ご遺族だけで勝手に遺産分割を進めるのは、法的に極めて危険な行為です。

必ず、速やかに相続問題に詳しい弁護士に相談し、今後の進め方について法的なアドバイスとサポートを受けることが、他の相続人の権利を守り、後のトラブルを避けるために、絶対不可欠と言えるでしょう。

1. なぜ影響する? 自己破産と相続財産の法的な関係

まず、なぜ自己破産が、これほどまでに遺産相続に大きな影響を及ぼすのか、その法的な仕組みを理解しておく必要があります。

■ 自己破産とは
裁判所に申立てを行い、借金の支払い義務を免除してもらう(免責)ための法的な手続きです。

■ 破産管財人の役割
自己破産の手続きが始まると、破産者が持つ一定以上の価値のある財産(自由財産を除く)は、裁判所から選任された「破産管財人」という弁護士によって、一元的に管理・処分されます。
そして、それを現金化し、債権者へ公平に配当(弁済)する。これが、破産管財人の最も重要な役割です。

■ 相続財産との関係
相続によって得られる財産(あるいは、財産を相続する“権利”そのもの)も、破産者の新たな財産とみなされます。
そのため、その相続財産も、破産管財人の管理下に置かれ、最終的には債権者への配当の対象となる。これが、法律上のルールなのですね。

2. 重要な分岐点!破産手続きの「タイミング」による扱いの違い

具体的な対応は、故人が亡くなった(相続が開始した)時点での、その相続人の破産手続きの状況によって、大きく変わってきます。


ケース①:相続開始“前”に、既に破産手続開始決定を受けている場合

この場合、破産した相続人の財産を管理・処分する権限は、すべて「破産管財人」に移っています。
したがって、遺産分割協議の相手方は、他の相続人と、この「破産管財人」となります。
破産した相続人本人が、たとえ遺産分割協議書に実印を押したとしても、その合意は法的に無効です。
破産管財人は、破産者の債権者の利益を最大化する立場から、少なくとも法定相続分に相当する財産を確保しようと、法的な根拠に基づいて交渉してくるでしょう。


ケース②:相続開始“後”、遺産分割協議が完了する“前”に、破産した場合

この場合も、相続する“権利”そのものが、破産者の財産(破産財団)に組み込まれるため、ケース①と同様に、**遺産分割協議の相手方は「破産管財人」**となります。


ケース③:遺産分割協議が完了し、相続財産を受け取った“後”に、破産した場合

この場合は、遺産分割協議そのものは有効に成立しています。
しかし、その相続人が受け取った相続財産は、他の財産と同様に、破産者の財産として扱われ、換価・配当の対象となります。

3. 破産者がいる場合の遺産分割協議|正しい進め方と、絶対NGな行為

では、破産管財人とは、どのように協議を進めていけば良いのでしょうか。

■ 協議の進め方

  1. 弁護士への依頼:まず、他の相続人側の代理人として、相続問題に強い弁護士に依頼するのが賢明です。専門家同士で、法的な論点を整理しながら、冷静に交渉を進めることができます。
  2. 財産目録の作成と開示:協議の前提として、正確な財産目録を作成し、破産管財人に開示する必要があります。
  3. 分割方法の交渉:破産管財人は、通常、法定相続分に従った分割を求めてきます。特に、遺産が不動産など分けにくい財産である場合は、「売却して現金で分ける(換価分割)」ことを提案されるケースが多いでしょう。もし、他の相続人が「実家に住み続けたい」などの希望を持っている場合は、「代償分割(実家を相続する代わりに、破産者の法定相続分相当額を現金で支払う)」などの交渉を行うことになります。



■ 絶対にやってはいけないNG行為

  1. 破産管財人を無視した協議:破産管財人に知らせずに、他の相続人間だけで勝手に遺産分割協議を進め、その内容を登記したり、預金を解約したりする。これは、後で破産管財人から、その行為を取り消される(否認権の行使)可能性が極めて高いです。
  2. 破産者を不憫に思った“財産隠し”:「借金の返済の足しになるように」と、破産した相続人に、他の兄弟より多く財産を渡すような内容で、裏で合意する。これは、他の債権者への配当を減らす「詐害行為」とみなされ、これもまた、破産管財人から否認される対象となります。


【まとめ】相続人の自己破産は“家族全員”の問題。専門家との連携が不可欠

ご兄弟など、身近な相続人の自己破産という事実は、ご遺族にとって精神的にも大きなショックかもしれません。

しかし、感傷的になっている間にも、法的な手続きは進んでいきます。

では、本日のポイントをまとめます。

  • 相続人の中に自己破産した(あるいは手続き中の)人がいる場合、その人の相続分は原則として“破産管財人”の管理下に置かれる。
  • 遺産分割協議は、破産した本人ではなく、裁判所が選任した「破産管財人」という弁護士と行わなければ、法的に無効となる。
  • 破産管財人は、法定相続分に相当する財産の確保を目指すため、「換価分割(売却して現金化)」を求められることが多い。
  • 破産した相続人を除外したり、その人に有利になるよう隠れて財産を渡したりする行為は、後で無効とされるリスクが非常に高い、絶対的なNG行為。
  • このような複雑な状況では、必ず早期に弁護士に相談し、代理人として交渉や手続きを進めてもらうことが、他の相続人の権利を守る唯一の道。


相続人の一人の経済問題が、相続全体を複雑にし、他の家族にも大きな影響を及ぼす。

この現実を、私たちは冷静に受け止めなければなりません。

ご葬儀の後、ご遺族がこのような法的な迷宮に迷い込むことのないよう、私たちも、生前のうちから、ご自身の財産の承継について、家族でオープンに話し合っておくことの重要性を、強くお伝えしていきたいと考えております。

株式会社大阪セレモニー

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山田泰平
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山田泰平(葬儀)

株式会社大阪セレモニー

当社は家族葬を専門に、これまで1000件以上の葬儀をお手伝いさせて頂きました。少人数だからこそ実現できるきめ細やかなサービスと、ご遺族様の想いに寄り添った丁寧な対応を心がけています。

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