相続財産に“借地権”が…売るに売れない不動産の権利と、地主との交渉トラブル
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ご家族がお亡くなりになり、遺品整理や財産調査を進める中で、故人が誰かにお金を貸していたことを示す「借用書」や、不審な「振込履歴」が見つかることがあります。
この、故人が持っていた「お金を返してもらう権利」、すなわち「貸金債権(かしきんさいけん)」も、預貯金や不動産と同様に、法的な“プラスの相続財産”です。
しかし、この貸金債権の相続は、
「相手が返済を渋っているが、どうすれば?」
「借用書もない、口約束だけの貸し借りらしい…」
「もし回収できなかったら、相続税だけは払うことになるのか?」
と、その“回収の実現性”や“遺産としての評価”を巡り、通常の財産とは比較にならないほど、厄介な問題を含んでいることが多いのです。
今回は、この判断が難しい「貸金債権の相続」をテーマに、
- 貸金債権が、なぜ相続財産になるのか
- 相続発覚後、絶対に“最初”にやるべきこと
- 遺産分割協議での、3つの分け方
- 回収が困難な場合の、法的な対抗手段
- 回収できないのに税金だけかかる?相続税評価の罠
などを、分かりやすく解説していきましょう。
【結論】故人の貸金債権も相続財産。証拠を確保し、相続人全員で方針協議を
故人が誰かにお金を貸していた場合、その“お金を返してもらう権利(貸金債権)”は、相続財産として、原則として法定相続人が引き継ぐことになります。
したがって、遺産分割協議において、その貸金債権を誰が相続するのか、あるいはどのように扱うのかを、相続人全員で決定しなければなりません。
このような貸金債権があることが判明した場合、まずやるべきことは、
- 証拠の確保:借用書や契約書、念書、振込履歴など、貸し借りの事実を証明する証拠を、何よりもまず確保する。
- 方針の協議:その上で、相続人全員で、その貸金債権をどのように扱うか(回収を目指すか、実質的に放棄するかなど)の方針を協議する。
- 債務者への連絡:回収を目指す場合は、相続人代表または弁護士を通じて、債務者(お金を借りた人)に連絡を取り、返済を求める。
という手順になります。
しかし、債務者が返済に応じない、あるいは返済能力がないなど、回収が困難なケースは非常に多いのが実情です。
また、貸金債権の相続税評価も、専門的な判断が必要となります。
そのため、特に回収が難航しそうな場合や、金額が大きい場合は、安易に当事者間で交渉せず、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、法的な回収手続きや、交渉を依頼することが、問題をこじらせないための最善の策と言えるでしょう。
1. なぜ「お金を返してもらう権利」も相続されるのか?
相続とは、不動産や預貯金といった目に見えるプラスの財産だけでなく、故人の財産に関する“一切の権利義務”を引き継ぐものです。
お金を返してもらう権利、すなわち貸金債権も、故人が持っていた重要な「権利」の一つであり、当然に相続財産に含まれます。
これは、相続人が、故人に代わって、債務者に対して「契約に従って、お金を返してください」と、法的に請求できる立場になる、ということを意味するのです。
2. 相続発覚後、まずやるべきこと:証拠の確保と債務者への通知
貸金債権の存在が明らかになったら、初動が肝心です。
■ 証拠の確保(最重要)
貸金債権の存在と、その内容(金額、返済期限、利息など)を、客観的に証明できる証拠がなければ、法的な請求は極めて困難になります。
- 最重要証拠:「金銭消費貸借契約書」「借用書」「念書」
- 有力な証拠:故人の口座から相手の口座への「振込履歴」、メールや手紙、LINEなどでの返済に関するやり取り
これらの証拠を、遺品の中から徹底的に探し出し、一つにまとめて安全に保管しましょう。
■ 債務者への通知
相続が開始したこと、そして自分たちが相続人として債権を引き継いだことを、債務者に通知する必要があります。
ただし、いきなり個人で感情的に連絡すると、「言った、言わない」のトラブルになったり、相手に言い逃れの口実を与えたりする可能性があります。
できれば、弁護士に相談し、代理人として「内容証明郵便」で正式に通知を送るのが、後の法的手続きを円滑に進めるためにも、最も確実で有効な方法です。
3. 遺産分割における貸金債権の、3つの分け方
遺産分割協議の中で、この回収できるか不確実な貸金債権を、どう分けるかを決めます。
① 現物分割
特定の相続人が、その貸金債権そのものを相続する方法です。その相続人が、責任を持って債務者からの回収を行うことになります。
しかし、回収できるかどうかが不確実なため、その債権の評価額で揉める可能性があります。
例えば、額面1,000万円の債権でも、回収可能性が低ければ、その価値は1,000万円とは言えません。
② 代償分割
特定の相続人が貸金債権を相続する代わりに、他の相続人に対して、その債権の(回収可能性を考慮した)評価額に見合う代償金(現金)を支払う方法です。
しかし、評価額の算定が難しく、あまり現実的ではないでしょう。
③ 換価分割
これが、最も公平で、トラブルが少ない方法と言えます。
相続人全員で協力して債権を回収し、回収できた現金を、法定相続分などの割合で分配する方法です。
遺産分割協議書には、「被相続人が〇〇に対して有する貸金債権については、相続人全員で協力して回収に努め、回収した金員は、各相続人が〇分の〇の割合で分配する」といった条項を盛り込みます。
4. 回収が困難な場合の、法的な対抗手段
債務者が任意での返済に応じない場合、法的な手段を検討することになります。
- 内容証明郵便による請求:弁護士名で、返済を求める正式な請求書を送付します。これにより、時効の進行を一時的に止める効果も得られます。
- 支払督促:裁判所を通じて、債務者に支払いを督促する簡易な手続きです。
- 民事調停:裁判所で、調停委員を介して話し合いによる解決を目指します。
- 訴訟(貸金返還請求訴訟):最終手段として、地方裁判所に訴訟を提起し、判決を求めます。勝訴判決を得られれば、相手の財産を差し押さえるなどの強制執行が可能になります。
これらの法的手続きは、すべて弁護士に依頼して進めるのが一般的です。
5. 回収できないのに税金だけ?相続税評価の罠
貸金債権もプラスの財産として、相続税の課税対象となります。
■ 評価の原則と例外
その際の評価額は、原則として、元本の額が基本となります。
しかし、債務者が破産している、行方不明であるなど、客観的に見て、回収が不可能であることが明らかな場合は、その債権の評価額をゼロとして申告することが認められる場合があります。
■ 注意点
「回収が難しい“だろう”」といった、主観的な判断だけでは、税務署は認めてくれません。
回収可能性が低いことを証明するためには、相手の財産状況に関する調査報告書など、客観的な証拠が必要となります。
回収できない可能性が高いのに、額面通りに申告してしまうと、存在しない財産に対して、無駄な相続税を支払うことになりかねません。
この評価については、必ず、相続に強い税理士に相談してください。
【まとめ】故人の貸金債権は“証拠”が命。回収は専門家と冷静に
故人が誰かにお金を貸していた、という事実は、ご遺族にとって非常に悩ましい問題となり得ます。
回収できれば大きなプラスの財産になりますが、その過程は決して簡単ではありません。
では、本日のポイントをまとめます。
- 故人の貸金債権も相続財産。遺産分割協議で扱いを決める必要がある。
- 何よりもまず、借用書や振込履歴といった、貸し借りの事実を証明する「証拠」を確保することが最優先。
- 回収を目指す場合は、相続人全員が協力する「換価分割」が最も公平。弁護士を介して進めるのが望ましい。
- 回収が困難な場合は、相続税評価でその価値を減額できる可能性があるため、必ず税理士に相談する。
- 口約束の貸し借りは、証拠がなければ回収が極めて困難。安易に深追いせず、専門家と相談の上、損切りする判断も必要。
故人が遺した「権利」を、絵に描いた餅で終わらせるのか、あるいは実現可能な財産として回収できるのか。
それは、相続人の皆様の初動と、適切な専門家との連携にかかっていると言っても過言ではないでしょう。
私たちも、ご葬儀後のご相談の中で、こうした法的な問題に直面されたご遺族には、一刻も早く、信頼できる弁護士や税理士の先生方へお繋ぎすることの重要性を、常に感じています。
株式会社大阪セレモニー



