高齢夫婦の相続で見落としがちな「二次相続」の税金爆弾リスク
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ご家族がお亡くなりになり、その方が生前に賃貸アパートやマンションを経営していた場合、残されたご遺族は、単なる「不動産の相続」ではなく、「大家さんという事業の承継」という、極めて重く、そして複雑な問題に直面することになります。
「相続が発生したら、家賃収入はどうなるの?」
「入居者から預かっている敷金は、誰が返すの?」
「突然、給湯器が壊れたと言われたけど、修理するのは誰?」
このような、待ったなしで発生する経営上の問題に、ご遺族は深い悲しみの中で、対処していかなければなりません。
今回は、この専門性の高い「賃貸アパート経営の相続」をテーマに、
- 相続人が引き継ぐ「権利」と、あまりにも重い「義務」
- 相続発生後、絶対に“最初”にやるべきこと
- 家賃収入や敷金の法的な扱いと、正しい管理方法
- 相続税が劇的に安くなる「貸家建付地」と「小規模宅地の特例」
などを、徹底的に分かりやすく解説していきましょう。
【結論】賃貸経営は権利と義務を包括承継。専門家と連携し、早期の方針決定を
故人が営んでいた賃貸アパート経営を相続した場合、相続人は、家賃を受け取る権利(プラスの財産)だけでなく、入居者から預かっている敷金の返還義務、建物の修繕義務、そしてアパートローンなどの借入金といった、大家としての“負の遺産”も、すべて丸ごと引き継ぐことになります。
このような状況に直面したら、まずやるべきことは、以下の3ステップです。
- 現状把握:賃貸借契約書や収支状況、修繕履歴、借入金の契約書など、経営に関する全ての資料を収集し、事業の全体像を正確に把握する。
- 関係者への連絡:速やかに入居者や管理会社に、オーナーが死亡し、相続人が賃貸人としての地位を引き継いだ旨を通知し、今後の家賃の振込先などを連絡する。
- 方針決定:その上で、相続人全員で、この賃貸経営を今後も継続していくのか、あるいは物件を売却して整理するのかという方針を、早急に決定する。
賃貸経営の相続は、通常の不動産相続に加えて、「事業承継」の側面が極めて強く、法務・税務・不動産管理といった、多岐にわたる専門知識が不可欠です。
そのため、ご遺族だけで判断せず、必ず、相続が開始された早い段階で、弁護士、税理士、そして信頼できる不動産管理会社といった専門家チームに相談し、サポートを受けながら進めること。
それが、無用なトラブルを避け、円滑に手続きを完了させるための、絶対条件と言えるでしょう。
1. なぜ複雑? 大家さんを相続するということの本当の意味
賃貸経営の相続が複雑なのは、単に不動産という「モノ」を相続するだけでなく、「賃貸人(大家)」という事業主としての地位そのものを、権利も義務も一体として引き継ぐからです。
■ 引き継ぐ権利(プラスの側面)
- 家賃を受け取る権利:相続開始後、毎月安定したキャッシュフローを生み出す源泉です。
- 土地・建物そのもの:将来的に売却することも可能な、重要な不動産資産です。
■ 引き継ぐ義務・責任(マイナスの側面)
- 敷金の返還義務:入居者が退去する際に、預かっていた敷金を返還する義務。これは、故人が預かっていた“他人のお金”であり、相続人が確実に引き継がなければならない負債です。
- 修繕義務:建物の経年劣化や、給湯器、エアコンといった設備の故障など、入居者が安全で快適に生活するために必要な修繕を、速やかに行う義務。これを怠ると、損害賠償問題に発展する可能性もあります。
- 管理責任:建物の共用部分の清掃や、安全管理、入居者間の騒音トラブルへの対応など、大家として果たすべき、日々の管理業務。
- 借入金の返済義務:アパートローンなどが残っている場合、その返済義務も、当然、相続人が引き継ぎます。
- 確定申告の義務:家賃収入などの不動産所得に関する確定申告を、相続人が行う義務。
これらの権利と義務は、決して切り離すことはできません。
2. 相続発生後、まずやるべきこと:現状把握と関係者への連絡
相続が開始されたら、悲しみに暮れる間もなく、事業主として行動を開始しなければなりません。
■ STEP1:関連資料の“発掘”と現状把握
まず、故人の書斎や事務所などを探し、以下の資料を全て集め、事業の現状を正確に把握します。
- 入居者全員分の「賃貸借契約書」
- 家賃の入金履歴がわかる「預金通帳」、できれば「レントロール(賃貸条件一覧表)」
- 敷金の預かり状況がわかる資料
- 過去の「建物の修繕履歴」、メンテナンス記録
- 「アパートローンの返済予定表」、金銭消費貸借契約書
- 「火災保険」などの保険証券
- 「管理会社との管理委託契約書」(もしあれば)
- 「固定資産税納税通知書」
■ STEP2:入居者・管理会社への“代替わり”連絡
できるだけ速やかに、全入居者と管理会社(もしあれば)に対し、
- 大家が死亡したこと
- 誰が新しい賃貸人(または、当面の連絡窓口)になるのか
- 今後の家賃の振込先口座
を、書面などで明確に通知します。
これを怠ると、凍結された故人の口座に家賃が振り込まれ続け、入居者が家賃滞納と同じ扱いになってしまったり、緊急の修繕依頼に対応できなかったりと、深刻なトラブルの原因となります。
3. 相続人間での方針決定:経営を「続ける」か、「やめる」か
現状を把握したら、次は、相続人全員で、この賃貸経営を今後どうするかという、最も重要な方針を決定します。
■ 経営を「続ける」場合
- 誰が中心となって経営を引き継ぐのか。
- 不動産を誰の名義で相続登記するのか。(共有名義は、将来の売却時などに意見がまとまらないリスクが高いため、できる限り避けるべきです)
などを決めます。
その際、建物の築年数、空室率、近隣の家賃相場、そして、将来予想される大規模修繕(外壁塗装など)の費用なども冷静に評価し、本当に事業として継続するメリットがあるのかを、客観的に判断する必要があります。
■ 事業を「やめる(売却する)」場合
- 入居者がいる状態のまま、次のオーナーに物件を売却する「オーナーチェンジ物件」として売るのか。
- あるいは、全入居者に立ち退きをお願いしてから、更地や空き家として売却するのか。
という方針を決めます。
一般的に、立ち退き交渉は、多大な時間と費用(立ち退き料など)がかかるため、オーナーチェンジでの売却が現実的でしょう。
4. 相続税が安くなる!収益物件ならではの税務特例
賃貸アパートなどの収益物件は、相続税を計算する上で、ご自身で住んでいる家とは異なる、有利な評価方法や特例が適用できる可能性があります。
■ 土地の評価:「貸家建付地(かしやたてつけち)」
賃貸アパートが建っている土地は、更地で評価するよりも、借地権割合などを考慮して、評価額が15%~20%程度、低くなります。
■ 建物の評価
建物の固定資産税評価額から、借家権割合(全国一律30%)を控除して評価します。
■ 小規模宅地等の特例:「貸付事業用宅地等」
これが、最も節税効果の大きい特例です。
一定の要件(面積200㎡まで、など)を満たせば、土地の評価額を最大50%も減額できる可能性があります。
ただし、その適用要件は非常に専門的で、相続税の申告期限までに事業を引き継いでいることなどが求められます。
これらの評価や特例の適用については、必ず、相続税に詳しい税理士に相談してください。
【まとめ】アパート相続は“事業承継”。専門家チームとの連携が成功の鍵
故人が遺した賃貸経営は、単なる不動産相続ではありません。
それは、入居者の生活を支え、地域に貢献してきた「事業」そのものを引き継ぐ、非常に重く、そして尊い責任を伴うものです。
では、本日のポイントをまとめます。
- 賃貸経営の相続は、家賃収入などの権利だけでなく、敷金返還や修繕などの義務も全て引き継ぐ「事業承継」である。
- 相続が発生したら、まず現状を把握し、速やかに入居者等へ連絡し、家賃の振込先変更などを通知することが、トラブル回避の第一歩。
- 相続人全員で、経営を継続するか、売却・整理するかの方針を、専門家の助言も得ながら、早期に決定する必要がある。
- 賃貸物件の相続税評価には、「貸家建付地」や「小規模宅地の特例」など、有利な制度があるが、適用には専門的な判断が不可欠。
- 法務(弁護士)、税務(税理士)、不動産管理(管理会社)など、問題が多岐にわたるため、必ず各分野の専門家に早期に相談し、チームで対応することが成功の鍵。
故人様が大切に築き上げ、多くの人々の暮らしを支えてきた、そのアパートやマンション。
その価値と想いを、どのように引き継ぎ、あるいは、どのように整理していくのか…。
そこには、大きな責任と、慎重な判断が求められます。
私たちも、ご葬儀後のご相談の中で、こうした複雑な事業承継の問題に直面されたご遺族には、各分野の信頼できる専門家と連携し、チームとしてサポートさせていただくことの重要性を、日々痛感しております。
株式会社大阪セレモニー



