相続放棄の手続きの期限は3ヶ月!?失敗しないための最新知識と注意点
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ご家族がお亡くなりになり、遺産相続の話を進める中で、故人が遺した財産が、現金や価値のある不動産ではなく、買い手のつかない地方の山林や、耕作する人もいない農地ばかりだったという、深刻な問題に直面するご遺族が増えています。
これらは、資産価値が低い、あるいは維持管理費や固定資産税の負担を考えると、実質的にマイナスとなる、いわゆる「負動産(ふどうさん)」と呼ばれるものです。
「こんな山奥の土地、相続しても税金がかかるだけだ…」
「兄弟の誰もが押し付け合って、遺産分割協議が全く進まない!」
このような「誰も欲しがらない財産」の相続は、まさに“貰い手のないババ抜き”のような状況に陥りがちで、放置すれば、管理責任や税金の負担が、子や孫の代まで延々と続いてしまう、極めて厄介な問題なのです。
そこで今回は、この非常に困難な「負動産の相続」をテーマに、
- なぜ「負動産」が、深刻な相続トラブルを引き起こすのか
- 最も現実的な解決策「相続放棄」のメリットと、その重大な注意点
- 新しい選択肢「相続土地国庫帰属制度」とは何か
- “負の連鎖”を断ち切るために、今できること
などを、徹底的に分かりやすく解説していきましょう。
【結論】負動産相続は相続放棄が有効。全員放棄なら管理責任も考慮
相続財産が、価値の低い山林や農地といった「負動産」ばかりである場合、その遺産分割は極めて困難を伴います。
このような状況で、将来にわたる負担から解放されるための、最も現実的で、かつ多くの場合に検討されるべき選択肢が、家庭裁判所での「相続放棄」の手続きです。
特定の相続人が無理に引き取るのではなく、相続人全員が相続放棄をすることで、固定資産税の支払い義務や、土地の管理責任といった、将来にわたる重荷から、法的に解放される可能性があるからですね。
ただし、相続放棄は万能ではありません。
- 預貯金など、他のプラスの財産も全て放棄することになる
- 「相続開始を知った時から3ヶ月以内」という、厳格な期限がある
- 相続人全員が放棄した場合でも、最後に放棄した者に一定の財産管理責任が残る可能性がある
といった、重大な注意点を、正確に理解しておく必要があります。
負動産の相続問題に直面したら、まず財産の正確な価値と、将来にわたる管理負担を冷静に調査し、できるだけ早い段階で、相続問題に強い弁護士や司法書士などの専門家に相談すること。
それが、ご自身の、そして未来の家族の人生を守るための、最も賢明な判断と言えるでしょう。
1. なぜ危険?「負動産」が家族を襲う、4つの重荷
なぜ、価値のないはずの不動産が、これほどまでに深刻な問題を引き起こすのでしょうか。
① 永続する「経済的な負担」
資産価値がほとんどゼロであるにもかかわらず、所有している限り、毎年「固定資産税」が課税され続けます。
まさに、利益を生まない、負債そのものです。
② 法的な「管理責任」と損害賠償リスク
山林であれば、不法投棄の監視や、大雨による土砂災害防止のための最低限の管理責任。農地であれば、耕作放棄による荒廃や、病害虫発生の原因とならないような管理が求められます。
もし、管理を怠ったことが原因で、近隣の家屋に土砂が流れ込むなどの損害を与えた場合、所有者として、多額の損害賠償責任を問われるリスクすらあるのです。
③ 処分の極端な困難さ
「売ればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、利用価値のない地方の土地や山林に、買い手が見つかることは、まずありません。
また、「自治体や近所の人に寄付すれば…」と考えても、管理負担の大きい土地の寄付は、ほとんどの場合、丁重に断られてしまいます。
④ 遺産分割協議の完全な停滞
そして何より、誰もが引き取りたがらないため、相続人間で「押し付け合い」の状態になり、遺産分割協議が完全に暗礁に乗り上げてしまうのです。
これが、家族の間に深刻な亀裂を生む、最大の原因となります。
2. 最も現実的な解決策”相続放棄”
相続人全員が引き取りを望まない場合、最も現実的な選択肢として「相続放棄」を検討します。
■ メリット
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されれば、その人は「初めから相続人ではなかった」ことになります。
これにより、負動産に関する所有権や、固定資産税の支払い義務、前述の管理責任など、一切の権利義務から、法的に解放されます。
■ 手続きと絶対的な期限
相続の開始を知った時(通常は、故人の死亡を知った時)から3ヶ月以内に、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述書を提出します。
■ 注意点
相続放棄は強力な手段ですが、重大な注意点もあります。
- プラスの財産も、全て放棄する:預貯金や、価値のある別の不動産など、他のプラスの財産も、一切相続できなくなります。負動産だけを選んで放棄することはできません。
- 相続権が、次順位へ移る:第一順位の相続人(子など)が全員放棄すると、次に第二順位(親など)、第三順位(兄弟姉妹)へと、相続権と負動産の負担が、リレーのように移っていきます。最終的に、全ての相続人が放棄しなければ、誰かがその重荷を背負うことになります。
- 管理責任が、残る可能性がある:これが、最大の落とし穴です。相続人全員が放棄した場合でも、民法の規定により、最後に放棄した相続人に、相続財産清算人が選任されて財産の管理を始めるまで、一定の管理責任が残るとされています。このリスクを完全にゼロにするには、弁護士に相談し、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てる、という追加の手続きが必要になる場合があります。
3. 新しい選択肢?「相続土地国庫帰属制度」の実態
2023年4月27日から、相続した不要な土地を、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。
これも、新たな選択肢として知っておくべきでしょう。
■ メリット
法務局の審査をクリアし、承認されれば、土地の所有権を手放し、将来にわたる管理責任や固定資産税の負担から、完全に解放されます。
■ 主な要件と費用
しかし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。
- 土地の要件が厳しい:建物がない“更地”であること、境界が明らかであること、土壌汚染がないことなど、国が管理する上で支障のない、きれいな土地でなければなりません。
- 高額な費用がかかる:審査手数料(1筆あたり14,000円)とは別に、承認された場合、その土地の管理にかかる10年分の費用として「負担金」を、国に納付する必要があります。負担金は、土地の種類や面積によりますが、原則として20万円から(市街地の宅地などは、面積に応じて数百万円になることも)とされています。
このように、要件が厳しく、費用もかかるため、誰でも簡単に利用できる制度ではありません。
しかし、相続放棄もできず、売却も寄付もできない場合の、最後の手段として、検討する価値はあるかもしれません。
【まとめ】“負の連鎖”を、あなたの代で断ち切る勇気
価値の低い山林や農地といった「負動産」の相続は、残されたご家族にとって、金銭的にも精神的にも、あまりにも大きな重荷です。その重荷を、見て見ぬふりをして、次の世代にまで引き継がせてしまうことだけは、避けなければなりません。
では、本日のポイントをまとめます。
- 誰も欲しがらない「負動産」は、所有しているだけで、税金や法的な管理責任という負担がかかり続ける。
- 最も現実的な解決策の一つが「相続放棄」。ただし、他のプラスの財産も放棄することになり、期限は3ヶ月と短い。
- 相続放棄をしても、一定の管理責任が残る可能性があるため、完全にリスクをなくすには、追加の法的手続きが必要な場合がある。
- 新しい「相続土地国庫帰属制度」も選択肢だが、土地の要件が厳しく、高額な負担金も必要。
- どの選択肢を取るにしても、弁護士や司法書士などの専門家に早期に相談し、財産状況とリスクを正確に評価した上で、法的な手続きを適切に行うことが不可欠。
問題を先送りにせず、相続が発生したら速やかに財産の状況を把握し、相続人全員で話し合い、専門家の助けを借りながら、最適な解決策を見つけ出す。
その勇気ある決断こそが、“負の連鎖”をあなたの代で断ち切り、子や孫の未来を守るための、最も誠実な務めではないでしょうか。
私たちも、ご葬儀後のご相談の中で、こうした深刻な問題に直面されたご遺族には、一刻も早く、信頼できる専門家へお繋ぎすることの重要性を、常に感じています。
株式会社大阪セレモニー



