【親が認知症】その遺言書は無効?有効になるケースと絶対もめない対策をプロが解説
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「親が遺してくれた財産は、評価額1億円の、この広大な土地だけ…」
「相続税が数千万円になると言われたが、手元にそんな現金はない…」
ご葬儀の後、相続財産の全容が明らかになった時、遺された財産のほとんどが不動産や非上場株式といった「換金性の低い資産」であったために、「相続税を支払う現金がない」という、悪夢のような事態に直面するご遺族は、決して少なくありません。
今回は、この極めて深刻な「納税資金不足問題」をテーマに、
- なぜ、財産があるのに“破産寸前”に追い込まれるのか
- 10ヶ月というタイムリミットが招く「買い叩き」の悲劇
- 実際に起きた、納税のために実家を手放した家族の実例
- この地獄を回避するための、唯一の生前対策とは
などを、その厳しい現実と共に、詳しく解説していきましょう。
【結論】遺産が不動産ばかりだと納税資金が枯渇。10ヶ月以内に現金化できなければ破滅も
相続税は、原則として「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に、「現金」で、「一括納付」しなければなりません。
しかし、遺産の大部分が不動産であった場合、この原則を守ることは極めて困難となります。
なぜなら、
- 相続した不動産は、すぐに売却できるとは限らない
- 相続税の計算上の「評価額」と、実際に売れる「時価」は全く違う
- 納税期限に追われるあまり、足元を見られて安く買い叩かれてしまう
といった、厳しい現実に直面するからです。
「財産がある」ことと、「税金を払える」ことは、全くの別問題なのです。
この問題を根本的に解決するための唯一の方法は、財産を遺す側(親)が、元気なうちに、納税資金のことまで見据えた「出口戦略」を設計しておくこと。
具体的には、生命保険の活用や、資産の組み換えといった、計画的な生前対策が不可欠と言えるでしょう。
1. 「評価額」と「時価」のギャップという罠
納税資金不足の悲劇は、相続税の計算方法そのものに、その構造的な原因が潜んでいます。
相続税評価額とは:
相続税を計算する際の不動産の価値は、実際の取引価格(時価)ではなく、国が定めた「路線価」や「固定資産税評価額」を基に算出されます。
評価額と時価のギャ-ップ:
一般的に、この相続税評価額は、時価の7~8割程度と言われています。
例えば、相続税評価額が1億円の土地は、市場では1億2,000万円~1億3,000万円程度で売れる可能性がある、ということです。
しかし、ここに大きな罠があります。
税金は、あくまで「評価額1億円」を基に計算されますが、実際に不動産がいつ、いくらで売れるかは、誰にも保証できません。
景気の動向や、買い手が見つかるまでの時間など、不確定要素が多すぎるのです。
2. 10ヶ月のタイムリミットが招く「買い叩き」の悲劇
「10ヶ月以内に、なんとしても現金を作らなければならない!」
この焦りが、相続人をさらに窮地へと追い込みます。
足元を見られる相続人:
不動産市場において、「売り急いでいる物件」は、買い手側から見れば絶好の交渉材料です。
不動産業者や買い手は、相続人が納税期限に追われていることを見抜き、「今、この金額でなら買いますよ」と、市場価格よりも大幅に安い金額を提示してくる(買い叩き)ことが、残念ながら少なくありません。
悪循環の始まり:
「安く買い叩かれる → 納税資金が足りない → さらに別の不動産も売らざるを得なくなる → ますます足元を見られる。」
という、悪循環に陥ってしまうのです。
故人が大切に守ってきた財産が、納税というプレッシャーの中で、その価値を大きく損なってしまう。これほど悲しいことはないでしょう。
3. 【実例】納税のために、思い出の詰まった実家を手放した家族
実際に、このようなケースがありました。
お父様が亡くなり、ご長男が相続した財産は、都内にある広大なご実家の土地と建物のみ。
相続税評価額は約2億円で、計算上の相続税額は、数千万円に上りました。
しかし、ご長男の手元には、納税できるほどの現金はありませんでした。
銀行の納税ローンも検討したが、審査が通らなかった。
税務署に「延納」を相談したが、担保となる他の不動産がなく、要件を満たさなかった。
結局、10ヶ月の期限が迫る中、ご長男は、ご自身が生まれ育った思い出の詰まった実家を、市場価格より2割も安い金額で、不動産業者に売却せざるを得ませんでした。
売却代金で相続税は納められましたが、ご長男の手元にはほとんど何も残らず、「父は、私に財産を遺してくれたのか、それとも、ただ税金を払わせるために家を遺したのか…」と、深い無力感に苛まれていました。
4. この地獄を回避する!生前からできる“出口戦略”
このような悲劇を、未来の子供たちに経験させないために、親として何ができるのでしょうか。
【有効な対策】生命保険の活用:
これが、最もシンプルで確実な方法です。
親が、自分を被保険者、子供を保険金受取人とする生命保険に加入しておきます。
親の死亡後、子供は非課税枠(500万円×法定相続人の数)を活用しつつ、現金ですぐに保険金を受け取れるため、それを納税資金に充てることができます。
【その他の対策】:
- 資産の組み換え:元気なうちに、収益性の低い不動産などを売却し、換金性の高い預貯金や上場株式などに資産を組み換えておきます。
- 生前贈与:子供や孫へ、暦年贈与などを活用して、計画的に現金を移転させておきます。
- 遺言書での売却指示:遺言書で、「相続税の納税のため、〇〇の土地は売却し、その代金を充てること」と明確に指示しておくことで、相続人間の無用な対立を防ぎ、スムーズな売却手続きを後押しすることができます。
【まとめ】財産を遺すとは、“納税資金”までを設計すること
財産を遺す側の責任は、ただ財産を残すことだけでは終わりません。
残された家族が、その財産にかかる税金を、どうやって支払うのか。
その道筋までを示してあげることこそが、真の愛情ではないでしょうか。
では、本日のポイントをまとめます。
- 相続税は「10ヶ月以内に」「現金で」「一括納付」が原則。遺産が不動産ばかりだと、この原則を守ることが極めて困難になる。
- 納税期限に追われると、相続した不動産を市場価格より安く「買い叩かれる」リスクが非常に高い。
- 「延納」や「物納」は、適用要件が極めて厳しく、簡単に利用できる救済措置ではない。
- 最大の生前対策は、「生命保険」を活用して、非課税の納税資金を現金で遺してあげること。
- 財産を遺すとは、財産そのものだけでなく、その“出口戦略”までを設計すること。この視点が、家族の未来を守る。
ご葬儀の場で、「父は、いつも私たちの将来のことばかり心配していました」と、涙ながらに語られるご家族がいらっしゃいます。
その深い愛情を、本当に意味のある形で残すためには、感情だけでなく、税金という現実から目を背けない、冷静で計画的な準備が不可欠なのです。
私たちも、ご遺族がそうした後悔を抱えることのないよう、機会あるごとに、生前対策の重要性をお伝えしていきたいと考えています。
株式会社大阪セレモニー



