「相続放棄したら、故人の遺品整理はしなくていいの?費用は誰が?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレ-モニー代表の山田泰平です。
「親が遺した実家を相続したけれど、登記簿謄本を取ってみたら、建物が登記されていなかった…」
「昔、祖父が建てた離れや蔵が、登記されていないらしい。どうすればいいんだ?」
ご葬儀の後、遺産整理を進める中で、このような「未登記建物」の存在が発覚し、途方に暮れるご遺族は少なくありません。
法務局の登記簿に記録されていない、いわば“幽霊物件”。
この存在が、後の相続手続きや不動産の活用において、想像以上に深刻で、厄介な問題を引き起こすのです。
今回は、この見過ごされがちな「未登記建物の相続」をテーマに、
- なぜ、未登記の建物が存在するのか
- 「売れない」「貸せない」「ローンが組めない」三重苦の現実
- 相続人が直面する、過料(罰金)のリスク
- 問題を解決するための、唯一の正しい手続き
などを、分かりやすく解説していきましょう。
【結論】未登記建物は法的に存在しないも同然。売却もローンも不可
まず、理解しなければならないのは、建物が「未登記」であるということの本当の重みです。
未登記建物は、法務局の登記簿にその存在が記録されていないため、法的には、その建物の所有権を第三者に対して主張(対抗)することができません。
その結果、
- その建物を売却することができない
- その建物を担保に、金融機関から融資(ローン)を受けることができない
- 所有権を巡って、他の相続人や第三者とトラブルになる可能性がある
という、まさに「売れない・貸せない・ローンが組めない」の三重苦に陥ってしまうのですね。
さらに、2024年4月1日から相続登記が義務化されたことに伴い、この未登記建物の問題は、もはや放置することが許されない、法的なリスクへと変わりました。
もし、あなたの相続財産の中に未登記建物があることが発覚したら、選択肢はただ一つ。面倒でも、必ず、土地家屋調査士と司法書士に依頼し、法的に正しい登記手続きを行うこと。
これが、将来のトラブルを未然に防ぎ、その不動産の価値を正しく次世代へ引き継ぐための、唯一の道なのです。
1. なぜ存在する? “幽霊物件”が生まれる歴史的背景
そもそも、なぜ登記されていない建物が存在するのでしょうか。
- 昔の建築確認が緩やかだった時代:特に、昭和の時代に建てられた古い建物では、建築確認は取っていても、その後の表示登記(建物の物理的な状況を記録する登記)や、所有権保存登記(誰が所有者かを記録する登記)を行っていないケースが散見されます。
- 増改築を繰り返した結果:母屋は登記されていても、後から増築した部分や、敷地内に建てた離れ、物置、蔵などが未登記のまま、というケースは非常に多いでしょう。
- 登記費用の節約目的:意図的に、登記にかかる登録免許税や専門家への報酬を節約するために、登記を行わなかったという悪質なケースも、残念ながら存在します。
いずれの理由であれ、その“ツケ”は、何も知らなかった相続人が支払わされることになるのです。
2. 相続登記の義務化が招く「過料10万円」のリスク
これまで、建物の表示登記は義務ではありましたが、罰則規定が曖昧で、放置されてきました。
しかし、時代は変わりました。
2024年4月1日から施行された「相続登記の義務化」です。
これは、相続によって不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることを義務付けるものです。
この法律と、未登記建物がどう関係するのか。
相続登記を行うためには、その前提として、対象となる建物がきちんと登記されていなければなりません。
つまり、未登記建物を相続した場合、相続人は、まず建物の「建物表題登記」を行い、その後、ご自身の名義への「所有権保存登記」または「相続登記」を行う、という二段階の手続きが必要になるのです。
もし、正当な理由なくこれらの登記を怠れば、不動産登記法に基づき、「10万円以下の過料(罰金)」が科される可能性があると定められています。
もはや、未登記建物を「見て見ぬふり」することは、法的に許されない時代になったのですね。
3. 未登記建物を“正規の財産”に変える、2つのステップ
では、相続した建物が未登記であった場合、具体的に何をすれば良いのでしょうか。
手続きは、2つの専門家が連携して行います。
STEP①:【土地家屋調査士】による「建物表題登記」
まず、不動産の物理的な状況を調査・測量するプロである「土地家屋調査士」に依頼します。
土地家屋調査士が、現地で建物の種類、構造、床面積などを正確に測量し、図面を作成。
法務局に、その建物の存在を公式に登録する「建物表題登記」を申請します。
これで、ようやく建物が法的な“戸籍”を持つことになります。
STEP②:【司法書士】による「所有権保存登記」と「相続登記」
次に、権利関係のプロである「司法書士」にバトンタッチします。
]司法書士が、遺産分割協議書や戸籍謄本などの必要書類を揃え、その建物の最初の所有権登記である「所有権保存登記」を、亡くなった親(被相続人)の名義で行います。
その後、相続を原因として、相続人の名義へと所有権を移転する「相続登記」を申請します。
このSTEP②までが完了して、初めて、あなたはその建物の正当な所有者として、売却などの法律行為を行えるようになるのです。
これらの手続きには、数ヶ月の時間と、数十万円の費用がかかることを覚悟しておくべきでしょう。
【まとめ】“負の遺産”を、価値ある“富の遺産”へ。それが相続人の務め
未登記建物は、放置すれば、所有権を巡るトラブルや、法的な罰則のリスクを伴う、まさに“負の遺産”です。
しかし、正しい手続きを踏むことで、それは、売却も活用もできる、価値ある“富の遺産”へと生まれ変わります。
では、本日のポイントをまとめます。
- 未登記建物は、法的に所有権を第三者に主張できず、売却も、それを担保にしたローンも組むことができない。
- 2024年4月から相続登記が義務化され、未登記建物の放置は「10万円以下の過料」のリスクを伴う、法的な問題となった。
- 未登記問題を解決するには、「土地家屋調査士」による建物表題登記と、「司法書士」による所有権保存・相続登記が不可欠。
- 親が元気なうちに、自宅や実家がきちんと登記されているか、固定資産税の納税通知書や登記簿謄本で確認しておくことが、最大の予防策。
- 面倒な手続きから逃げず、法的にクリーンな状態にして次世代へ引き継ぐことこそが、相続人の誠実な務め。
ご葬儀の場で、「父が建てた、この思い出の家を、これからも大切に守っていきたい」と語られるご家族。その温かい想いを、法的な不備によって汚すことのないように。
そのためには、生前のうちから、ご自身の財産の足元を、一度きちんと確認しておくことの重要性を、私たちは改めて感じずにはいられません。
株式会社大阪セレモニー



