相続財産に借金と“保証”が…相続放棄の判断を誤った家族の苦悩
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「孫を養子にすれば、相続税が安くなるらしい」
「長年、介護で世話になった長男の嫁を、実の娘として迎え入れたい」
事業承継や相続税対策、あるいは純粋な情愛から、「養子縁組」を検討される方は少なくありません。
しかし、この養子縁組という、たった一枚の届出が、既存の相続人である実子たちの相続分を根本から覆し、穏やかだった家族関係に深刻な亀裂を生む、恐ろしい引き金になり得ることをご存知でしょうか。
今回は、この極めてデリケートな「養子縁組と相続」の問題をテーマに、
- 養子が「法定相続人」になることの、本当の重み
- 相続税対策で養子縁組をするメリットと、税務署に否認されるリスク
- 実子の相続分が、具体的にどう変わるのか
- “争族”を避けるために、親が絶対にやるべきこと
などを、分かりやすく解説していきましょう。
【結論】養子縁組は、相続割合を激変させる劇薬。節税メリットだけで安易に行えば必ず揉める。家族への丁寧な説明と「遺言書」が必須
養子縁組を行うと、その養子は、法律上「実子」と全く同じ権利と義務を持つ法定相続人となります。
これは、相続人の数が一人増えることを意味し、結果として、もともといた実子たち一人ひとりの相続分(取り分)が、確実に減少するということです。
節税になるから、という安易な理由だけで、この重大な決断を他の相続人に何の相談もなく行ってしまえば、
- 「なぜ、私たちの取り分を勝手に減らすんだ!」
- 「聞いていない!そんな養子縁組は無効だ!」
といった、実子たちからの激しい反発を招くのは、火を見るより明らかでしょう。
養子縁組は、家族の形と財産の流れを永久に変えてしまう、極めて強力な法的行為です。
もし、真に養子縁組を望むのであれば、その目的と影響を、すべての相続人にオープンに説明し、理解を得るプロセスが不可欠であり、その想いを「遺言書」で補完しておくことが、親として果たすべき最低限の責任ではないでしょうか。
1. 【相続割合の変動】養子一人が増えると、実子の取り分はこう変わる
養子縁組が、相続にどれほど直接的な影響を与えるか、具体例で見てみましょう。
【例】財産6,000万円、相続人が妻と子供2人(長男・長女)の家庭
養子縁組前:
法定相続分は、妻が1/2(3,000万円)、子供は二人で1/2なので、長男・長女はそれぞれ1/4(1,500万円)ずつ。
長男の嫁を養子にした後:
法定相続人は、妻、長男、長女、そして養子(長男の嫁)の4人になります。
妻の相続分は1/2(3,000万円)で変わりませんが、子供たちの取り分は3人で1/2となります。
その結果、長男・長女・養子(長男の嫁)の相続分は、それぞれ1/6(1,000万円)ずつに減少します。
このケースでは、長女の相続分が、1,500万円から1,000万円へと、実に500万円も減ってしまうのです。
これが、感情的な対立を生む、何よりの火種となるのですね。
2. 節税目的の養子縁組|メリットと税務署の厳しい目
養子縁組には、確かに相続税を節税できるというメリットが存在します。
メリット:
法定相続人の数が増えるため、
- 相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
- 生命保険金・死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
これらの控除額が増加し、課税対象となる遺産額を圧縮できます。
税務署からの否認リスク:
しかし、明らかに相続税の負担を不当に減少させるためだけに行われたと税務署に判断された場合、その養子は法定相続人の数に含めることを否認される可能性があります。
また、相続税法上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで、という制限があることも知っておくべきでしょう。
3. 【要注意】孫を養子にする「孫養子」の2割加算リスク
本来なら子供が相続し、その次に孫へと渡る財産を、一代飛ばして孫に直接承継させる「孫養子」。
一見、効率的に見えますが、大きなデメリットがあります。
それは、相続税の「2割加算」というペナルティです。
被相続人の配偶者と一親等の血族(子・親)以外が財産を相続する場合、その人が納めるべき相続税額が2割増しになるというルールです。
孫は、実子ではありますが「一親等の血族」ではないため、養子として財産を相続すると、この2割加算の対象となってしまうのです。
基礎控除が増えるメリットと、税額が2割増しになるデメリット、どちらが大きいかを、税理士などと慎重に検討する必要があります。
4. トラブル回避の絶対条件は「オープンな対話」と「遺言書」
これまで見てきたように、養子縁組は、家族に大きな影響を与える重大な決断です。
その影響を最小限に抑え、円満な着地点を見出すためには、どうすればよいのでしょうか。
- オープンな対話:なぜ、養子縁組をする必要があるのか。その目的(事業承継、介護への感謝など)と、それによって他の子供たちの相続分がどう変わるのかを、包み隠さず、すべての実子に説明する。これが全ての始まりです。
- 遺言書の作成:養子縁組をした上で、さらに「公正証書遺言」を作成し、財産の分け方を明確に指定します。その際、「付言事項」として、なぜこのような決断をしたのか、他の子供たちへの感謝や想いを書き記すことが、感情的なしこりを和らげる上で絶大な効果を発揮します。
【まとめ】養子縁組は家族の未来を変える決断。慎重の上にも慎重を
安易な養子縁組は、節税という小さな利益のために、家族の絆という、お金では買えない最も大切なものを壊しかねない、危険な賭けであることを、心に刻むべきでしょう。
では、本日のポイントをまとめます。
- 養子縁組をすると、養子は実子と全く同じ法定相続人となり、既存の相続人の相続分は確実に減少する。
- 節税メリットはあるが、税務署から「租税回避行為」とみなされ、否認されるリスクがあることを忘れてはならない。
- 孫を養子にする場合は、相続税が2割加算されるという大きなデメリットがある。
- トラブルを避ける最大の対策は、養子縁組の目的を家族全員にオープンに説明し、理解を得ること。
- 遺言書とセットで準備することで、法的な安定と、感情的な配慮の両方を実現できる。
ご葬儀の後、戸籍謄本を取り寄せて初めて、ご遺族が養子の存在を知るという修羅場に、私たちは立ち会うことがあります。
それは、故人が良かれと思って行った行為が、まさに残された家族の絆を断ち切る瞬間なのです。
財産だけでなく、「家族の和」という最も大切なものを遺すためにも、生前の透明性の高いコミュニケーションこそが、何よりの終活ではないでしょうか。
株式会社大阪セレモニー



