もしもの時に備えて。 遺族を支える「弔慰金」の基礎知識
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
ある日突然、役所や、会ったこともない親戚から、一本の連絡が入る。
「あなたのお父様(お母様)が、お亡くなりになりました」
それは、幼い頃に両親が離婚し、それ以来、何十年も会っていない、顔もよく覚えていない実の親の訃報…。
このような連絡を受けたら、多くの方は、「今さら、親だと言われても…」と、突然突きつけられた現実に、深い戸惑いと、”法的な責任や権利”に対する大きな不安を感じるのではないでしょうか。
長年、精神的にも物理的にも断絶していた親子関係。
そこには、簡単な言葉では言い表せない、複雑な感情や事情があることでしょう。
しかし、法律上の親子関係は、戸籍の上で消えることはありません。
そのため、相続という場面において、予期せぬ形で、その関係と向き合わざるを得なくなるのです。
そこで今回は、この「疎遠だった実親の死亡連絡を受けた場合の対処法」について、
- まず確認すべきこと(故人の状況)
- 葬儀を行う義務、費用を支払う義務はあるのか?
- 相続権はどうなるのか?(プラスの財産もマイナスの財産も)
- 具体的な選択肢(関わり方)とその注意点
などを、分かりやすく解説していきます。
【結論】疎遠な実親の葬儀義務はないが相続権はある。財産調査の上で相続放棄も視野に、弁護士等への早期相談が必須
離婚して何十年も会っていない実の親がお亡くなりになったと連絡を受けた場合、まず結論として、法律上、あなたがその方の葬儀を執り行ったり、その費用を支払ったりする「義務」は、原則としてありません。
葬儀を行うかどうか、どのように行うかは、最終的には関係者が協議して決めることであり、特定の誰かに強制されるものではないのです。
しかし、一方で、法律上の親子関係がある限り、あなたは「法定相続人」としての権利と義務を負います。
つまり、
- 故人にプラスの財産があれば、それを相続する”権利”がある。
- 故人に借金などのマイナスの財産があれば、それも引き継いでしまう”義務”がある。
という、非常に重要な立場にあります。
したがって、このような連絡を受けたら、
①まずは感情的にならず、故人の財産状況(プラスの財産とマイナスの財産)を、できる限り正確に調査すること。
②その上で、相続するのか、それとも家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをとるのかを、相続開始を知った時から3ヶ月以内に決定すること。
これが、ご自身の生活を守るために最も重要な対応となります。
故人との関係性や、他の相続人の状況などが複雑に絡むため、必ず早期の段階で、相続問題に詳しい弁護士や司法書士に相談することを強くお勧めします。
1.「葬儀を行う義務」「費用を支払う義務」はあるのか?
葬儀を行う義務:
法律上、特定の誰かが葬儀を執り行う義務を定めたものはありません。
あなたが「喪主を務めたくない」「葬儀に関わりたくない」と考えるのであれば、それを強制されることはありません。
費用を支払う義務:
これも同様に、法律上の義務はありません。
葬儀費用は、原則として葬儀を主宰した人(喪主など)が負担するか、故人の相続財産から支払われるのが一般的です。
あなたが関わらないと決めた葬儀の費用を、後から請求される法的な根拠は、基本的にはありません。
道義的な問題:
もし故人に全く身寄りがなく、あなたが唯一の親族である場合、自治体などから遺体の引き取りや火葬を依頼されることがあります。
これを拒否した場合、最終的には自治体によって火葬・埋葬されますが(行旅病人及行旅死亡人取扱法)、その費用を後で請求される可能性はあります。
2.「相続権」はどうなる? プラスもマイナスも引き継ぐ可能性
たとえ何十年会っていなくても、戸籍上の親子関係がある限り、あなたは紛れもない「法定相続人」(第一順位)です。
プラスの財産を相続する権利:
故人に預貯金や不動産などのプラスの財産があれば、あなたは法定相続分に応じた財産を受け取る権利を持っています。
マイナスの財産を相続する義務:
同時に、故人に借金や連帯保証などのマイナスの財産があれば、それも法定相続分に応じて引き継ぐ義務を負ってしまいます。
他の相続人との関係:
もし、故人が再婚しており、後妻やその間の子供がいる場合、あなたはその方々と”同じ立場の共同相続人”として、遺産分割協議に参加する権利と義務が生じます。
「関わりたくないから」と何もしないでいると、知らないうちに借金を相続してしまっていた、という最悪の事態も起こり得ます。
3. 連絡を受けたら、まずどう動くべきか?
情報の収集と確認:
連絡してきた相手(役所、親族、大家さんなど)から、故人の氏名、死亡日時、場所、現在の状況などを、できるだけ詳しく聞きます。
ご自身の戸籍謄本を取り寄せ、故人との親子関係を法的に確認します。
財産調査の開始:
これが最も重要です。
故人にどのような財産(プラスもマイナスも)があるのかを調査します。
他の相続人がいる場合は、その人たちに財産目録の開示を求めます。
協力が得られない場合は、弁護士に相談し、金融機関への照会や信用情報機関への開示請求などを検討してください。
弁護士への相談:
この段階で、できるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。
今後の進め方、あなたの法的な権利と義務、そしてリスクについて、専門的なアドバイスを受けることができます。
4. 具体的な選択肢(関わり方)とその注意点
財産調査の結果などを踏まえ、あなたは以下の選択肢の中から、ご自身の関わり方を決めることになります。
選択肢①:相続放棄をする
故人に多額の借金がある場合や、相続財産がほとんどなく、相続手続きに関わるのが負担な場合に、最も現実的な選択です。
手続き:相続開始を知った時から”3ヶ月以内”に、家庭裁判所に申述します。
注意点:相続放棄をすると、プラスの財産も一切相続できなくなります。後から価値のある財産が見つかっても、権利を主張することはできません。
選択肢②:相続人として、遺産分割協議に参加する
故人にプラスの財産があり、ご自身の法定相続分を受け取りたいと考える場合。
進め方:他の相続人(後妻やその子など)と、弁護士を介して遺産分割協議を行います。当事者同士での直接の交渉は、感情的な対立を生みやすいため、避けた方が賢明です。
選択肢③:葬儀に関わる
「相続は放棄するけれど、最後の務めとして火葬だけは立ち会いたい」
「故人に感謝の気持ちがあるので、ささやかな葬儀を出してあげたい」
といった気持ちがあれば、葬儀に関わることも可能です。
その場合、誰が費用を負担するのかを明確にしておく必要があります。
あなたが費用を負担して葬儀を行ったとしても、それが相続放棄を妨げることは通常ありません(ただし、社会通念上相当な範囲に限る)。
5. トラブルを避けるためのポイント
感情と法律を切り離す:
長年の恨みや、会ったこともない相手への複雑な感情はあるかもしれませんが、相続手続きは、法的なルールに則って進める必要があります。
感情的な主張は一旦横に置き、弁護士などの第三者を介して、冷静に対応しましょう。
期限を厳守する:
特に相続放棄の「3ヶ月」という期限は絶対です。
この期限を意識して、速やかに財産調査と意思決定を行いましょう。
安易な接触を避ける:
他の相続人や、故人の債権者などから連絡があっても、法的な知識がないまま安易に約束(「借金を払います」など)をしないこと。
全て「弁護士に相談してから回答します」と伝えるのが安全です。
6. 葬儀社として見聞きする実情
私たち葬儀社も、このようなケースに遭遇することがあります。
例えば、後妻様から「前妻さんのお子さんには連絡しないで、内々で葬儀を済ませたい」とご相談を受けることもあれば、逆に、後から前妻のお子様が「なぜ父の死を知らせてくれなかったのか」と、トラブルになるケースも見聞きします。
このような状況では、後々のトラブルを避けるためにも、法的な相続人全員に、少なくとも死亡の事実と葬儀の日程(あるいは葬儀を終えたこと)を通知しておくことが、結果的に円満な解決に繋がることが多い、と私たちは感じています。
【まとめ】疎遠な親の死は法的権利・義務の始まり。専門家と連携し、冷静な判断を
何十年も会っていなかった親の死という知らせは、心の整理がつかないまま、突然、法的な権利と義務の世界に引き込まれる、非常に過酷な体験だと思います。
そこには、法律だけでは割り切れない、様々な感情が渦巻くことでしょう。
しかし、だからこそ、ご自身の未来を守るために、冷静で客観的な判断が必要となるのです。
では、本日のポイントをまとめます。
- たとえ疎遠でも、法律上の親子関係があれば、あなたは”法定相続人”。
- 葬儀を行う法的な義務はないが、”相続する権利と義務”は存在する。
- まずやるべきは、弁護士に相談しつつ、故人の財産(プラスもマイナスも)を調査すること。
- 財産調査の結果、借金が多いなどの場合は、”3ヶ月以内に相続放棄”を検討する。
- プラスの財産がある場合は、他の相続人と”弁護士を介して遺産分割協議”を行う。
- 感情的な問題と法的な問題を切り離し、安易な約束や行動は慎む。
このような困難な状況に直面したら、決して一人で悩んだり、問題を放置したりしないでください。
すぐに相続問題に詳しい弁護士に相談し、ご自身の置かれた状況を正確に把握し、取りうる選択肢とそのリスクについて、専門的なアドバイスを受けることが、何よりも重要です。
株式会社大阪セレモニー



