相続財産に“貸したお金”が!回収困難な貸付金の相続と、税金の注意点
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
故人様に多額の借金があったり、あるいは誰も欲しがらない価値の低い不動産(負動産)だけが残されたりした場合、「相続放棄」は、残された家族がその負担から逃れるための、非常に有効な法的手段です。
相続人全員が家庭裁判所で手続きを行い、無事に相続放棄が認められると、借金の支払い義務も、不動産の固定資産税の支払い義務も、原則としてなくなります。
しかし、ここで一つ、大きな疑問が生じます。
「相続人が誰もいなくなった後、故人が住んでいた実家(家と土地)は、一体どうなるの?」
「空き家になったまま、放置しておいても大丈夫なのかな?」
「もし、その家が原因で何か問題が起きたら、誰が責任を負うの?」
と、相続放棄後の”残された不動産の管理責任”について、多くの方が「もう自分の問題ではない」と考えがちですが、実はそこに意外な落とし穴が潜んでいるのです。
放置していた空き家が倒壊して隣家に損害を与えてしまった、といった場合、相続放棄をしたはずのあなたが、損害賠償を請求される可能性もゼロではありません。
そこで今回は、この非常に重要でありながら見落とされがちな「相続放棄後の不動産の管理責任」について解説していきます。
【結論】相続放棄後も最後の相続人には一定の管理責任が残る可能性あり!
相続人全員が相続放棄をした場合でも、故人が遺した不動産(家や土地)の管理責任が、完全に消滅するわけではありません。
2023年4月1日に施行された改正民法により、その責任のあり方は変更されましたが、依然として注意が必要です。
改正後の民法では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定められています。(民法940条)
簡単に言うと、最後に相続放棄をした相続人で、かつその時にその不動産を事実上管理・占有していた人は、次の管理者(相続財産清算人)に引き継ぐまで、最低限の管理を続けなければならない可能性がある、ということです。
したがって、「相続放棄したから、あとは知らない」と完全に放置してしまうと、その空き家が原因で第三者に損害を与えた場合などに、損害賠償責任を問われるリスクが残ります。
この管理責任から完全に解放されるためには、家庭裁判所に「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」の選任を申し立て、その清算人に財産の管理を引き継ぐ必要があります。
ただし、この申立てには高額な予納金が必要となるため、相続放棄を検討する段階で、この放棄後の管理問題についても、弁護士などの専門家とよく相談しておくことが極めて重要です。
1. なぜ相続放棄をしても管理責任が残るのか?
社会的な利益の保護:
もし、相続放棄によって、危険な空き家などが誰にも管理されないまま放置されると、地域の安全や景観が損なわれ、社会全体にとって不利益となります。
財産価値の維持:
故人の財産は、最終的には国庫に帰属する可能性があります。
その価値を不当に損なわないように、次の管理者が決まるまでは、誰かが最低限の管理をする必要がある、という考え方です。
【2023年民法改正のポイント】
改正前:
最後に相続人となった者が、次の相続人が管理を始めるまで、自己の財産と同一の注意をもって管理する義務があるとされていました。
改正後:
義務を負うのが「その放棄の時に相続財産を現に占有していた者」に限定され、責任の範囲が明確化・軽減されました。しかし、責任が完全になくなったわけではありません。
2. 管理責任を負う可能性があるのは誰?「現に占有」とは
改正後の民法で管理責任を負う可能性があるのは、「相続放棄の時に、相続財産を現に占有していた者」です。
具体例:
- 故人と同居していた相続人
- 故人とは別居だったが、実家の鍵を持っていて、定期的に管理(換気、掃除など)をしていた相続人
- 最後に相続放棄をした人が、これらに該当する場合、管理責任を負う可能性が高まります。
「占有」の解釈:
どこまでが「現に占有」にあたるかは、個別の状況によって判断されるため、明確な線引きは難しいです。
ご自身が管理責任を負う可能性があるかどうか、不安な場合は、必ず弁護士に相談してください。
3. 残された不動産は、最終的にどうなるのか?「相続財産清算人」の役割
相続人全員が相続放棄をし、他に財産を管理する人がいない場合、その不動産は最終的にどうなるのでしょうか。
利害関係人または検察官による申立て:
故人の債権者(お金を貸していた人など)や、特定遺贈を受けた人、あるいは前述の管理責任を負う相続人などが、家庭裁判所に「相続財産清算人の選任」を申し立てます。
相続財産清算人の選任:
家庭裁判所が、弁護士などの専門家を「相続財産清算人」として選任します。
清算手続き:
選任された清算人は、故人の財産を調査・管理し、債権者への支払いなど、必要な清算手続きを行います。
国庫への帰属:
全ての清算手続きが終わった後、それでもなお残った財産があれば、最終的に国庫(国の財産)に帰属することになります。
相続財産清算人が選任され、その人に財産の管理を引き継いだ時点で、相続放棄した人の管理責任は、ようやく正式に終了します。
4. 管理責任から完全に解放されるための対処法
【最善策】相続財産清算人の選任申立て:
ご自身が管理責任から解放されるための、最も確実な方法です。
しかし、この申立てには、”裁判所に予納金を納める”必要があります。
予納金は、清算人の報酬や、財産管理にかかる費用に充てられるもので、金額は事案によりますが、”数十万円から100万円程度”と高額になることが一般的です。
他の利害関係人による申立てを待つ:
もし、故人に債権者などがいて、その人が申立てをしてくれれば、ご自身で費用を負担せずに済みます。
しかし、必ずしも申立ててくれるとは限りません。
5. 放置した場合のリスク
相続財産清算人の選任手続きなどを取らずに、完全に放置した場合のリスクです。
損害賠償責任:
空き家が倒壊したり、ブロック塀が崩れたりして、隣家や通行人に損害を与えた場合、管理責任者として損害賠償を請求される可能性があります。
行政からの指導・命令:
空き家対策特別措置法などに基づき、自治体から管理不全な空き家の所有者(この場合は管理責任を負う者)として、助言、指導、勧告、命令、最終的には行政代執行(強制的な解体とその費用の請求)を受ける可能性があります。
6. トラブルを避けるために、相続放棄の前に検討すべきこと
このような放棄後の管理問題という厄介な事態を避けるためには、相続放棄を決断する前に、以下の点を検討することも重要です。
財産の全体像の正確な把握:
本当に負債しかないのか? 不動産にわずかでも価値はないのか? 専門家(不動産会社など)に査定を依頼し、客観的な価値を把握しましょう。
限定承認の検討:
プラスの財産の範囲内で負債を清算する「限定承認」であれば、このような管理責任の問題は生じにくいです。(ただし、手続きは非常に複雑です)
相続人の中での引き取り交渉:
相続人の誰かが、非常に安い価格で、あるいは他の相続人が費用を一部負担するなどの条件で、不動産を引き取ることはできないか、最後の最後まで協議してみる。
相続土地国庫帰属制度の利用検討:
放棄する前に、土地を国に引き取ってもらう制度が利用できないか、その要件を確認してみる。
相続放棄は、一度行うと撤回できません。放棄後のリスクも十分に理解した上で、慎重に判断する必要があります。
【まとめ】相続放棄は「終わり」ではない。放棄後の管理責任も念頭に専門家と万全の対策を
「相続放棄をすれば、全ての負担から解放される」というのは、残念ながら幻想である場合があります。
特に、管理が必要な不動産が残される場合は、「放棄した後の責任」という、新たな問題に直面する可能性があるのです。
この点は、相続放棄を考える上で、決して見過ごしてはならない重要なポイントだと、私たちは考えています。
では、本日のポイントをまとめます。
- 相続人全員が相続放棄をしても、最後に放棄した者などに、残された不動産の一定の管理責任が残る可能性がある。
- 管理責任を負うのは、主に”放棄の時にその財産を現に占有していた人”。
- 管理責任を放置すると、”損害賠償責任や行政からの命令”を受けるリスクがある。
- 管理責任から完全に解放されるためには、”家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる”必要があるが、高額な予納金が必要。
- 相続放棄を決断する前に、この放棄後の管理問題についても、必ず考慮に入れるべき。
- このような複雑な状況では、必ず弁護士や司法書士に相談し、法的なリスクと対処法について正確なアドバイスを受けることが不可欠。
故人が遺した負の遺産から逃れるための相続放棄。
しかし、その選択が、予期せぬ新たな責任を生む可能性があることを、ぜひ覚えておいてください。
そして、そのリスクを回避するために、適切な知識を持ち、専門家の助けを借りながら、最後まで責任ある対応を心がけていただきたいと思います。
株式会社大阪セレモニー



