未婚・子なしの方の相続で起きる「兄弟姉妹相続」の悲劇的な落とし穴
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
故人様が遺された「遺言書」。
それは、故人の最後の意思として、本来であれば最大限尊重されるべきものです。
しかし、いざその遺言書の内容を見てみると、
「なぜ、長年介護してきた私ではなく、ほとんど付き合いのなかった親戚に全財産を?」
「故人が生前に話していた内容と、全く違うことが書かれている…」
「筆跡が、なんだか本人のものとは思えない…」
「認知症がかなり進んでいた時期に書かれているけど、本当に有効なの?」
と、その内容に大きな疑問や不信感を抱き、「これは故人本人の真意ではない。誰かに不当な影響を受けて、あるいは無理やり書かされたのではないか?」と疑ってしまうケースがあります。
しかし、「おかしい」と感じたからといって、その遺言書の効力を覆すことは、決して簡単なことではありません。
そこで今回は、この非常に困難で、かつ法的な対応が不可欠となる「遺言書の有効性を争う」という問題について、
- どのような場合に遺言書が無効になるのか?(主な無効事由)
- 「故人の意思とは思えない」と疑った場合に、まずやるべきこと
- 遺言の無効を主張するための具体的な手続き(遺言無効確認調停・訴訟)
- 主張する際に必要となる「証拠」とは?
- このようなトラブルを避けるための生前の対策
などを、分かりやすく解説していきます。
【結論】遺言書の有効性に疑義がある場合、遺言無もこう確認調停・訴訟で争うことが可能。
故人が遺した遺言書の内容が、その人の生前の言動と著しく矛盾していたり、作成された時期の故人の判断能力に疑問があったりする場合、その遺言書の有効性を争うための法的な手続きとして、家庭裁判所に「遺言無効確認調停」を申し立て、話し合いで解決しない場合は、地方裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起するという方法があります。
ただし、一度作成された遺言書の効力を覆すことは、極めて困難であることを、まず認識しておく必要があります。
裁判所は、故人の最終的な意思を尊重する観点から、遺言書を安易に無効とは判断しません。
遺言を無効だと主張する側が、「なぜ無効なのか」を、客観的で強力な証拠に基づいて、具体的に証明する責任を負います。
遺言が無効となる主な理由としては、
- 遺言の方式に不備がある(自筆証書遺言の場合など)
- 遺言者に「遺言能力(判断能力)」がなかった
- 遺言が、詐欺や強迫によって書かされた
- 遺言の内容が、公序良俗に反する
などが挙げられます。
これらのいずれかを主張し、証明するためには、医療記録、筆跡鑑定、関係者の証言など、専門的な証拠収集が不可欠です。
したがって、遺言書の有効性に少しでも疑問を感じたら、感情的に相手と争うのではなく、まず速やかに、相続紛争に詳しい弁護士に相談し、法的な見通しと、取るべき戦略についてアドバイスを受けることが、絶対に必要な第一歩となります。
1. なぜ「故人の意思とは思えない」遺言書が生まれるのか?
このような遺言書が生まれる背景には、様々な状況が考えられます。
高齢者の判断能力の低下:
認知症などにより判断能力が低下し、特定の人物(例えば、身の回りの世話をしているが、相続人ではない人など)の言うがままに、遺言書を作成してしまう。
特定の相続人による不当な働きかけ:
同居している相続人などが、他の相続人に不利になるよう、故人を誘導したり、心理的に圧力をかけたりして、自分に有利な内容の遺言を書かせる。
第三者による詐欺的な行為:
故人の孤独や不安につけ込み、親切を装って近づき、財産を目的として遺言書を書かせる。
遺言書の偽造・変造:
故人の死後、誰かが筆跡を真似て遺言書を偽造したり、日付などを書き換えたりする。
故人の一時的な感情:
他の家族との些細な喧嘩など、一時的な感情の高ぶりから、勢いで偏った内容の遺言を書いてしまう。
2. どのような場合に遺言書は無効になるのか?(主な無効事由)
遺言書が無効と判断される主なケースです。
方式の不備(形式的不備):
- 自筆証書遺言で、全文、日付、氏名のいずれかが自書でない(パソコン作成など)。
- 押印がない。
- 日付が「〇年〇月吉日」のように特定できない。
- 共同で作成された遺言書(夫婦連名など)。
遺言能力の欠如:
これが最も争点となりやすい事由の一つです。
遺言者が、遺言書を作成した当時に、その内容や結果を正しく理解できるだけの判断能力(遺言能力)がなかったと認められる場合。
認知症、精神疾患、重病によるせん妄状態などが該当する可能性があります。
詐欺・強迫:
騙されたり(詐欺)、脅されたり(強迫)して、本意ではない内容の遺言書を作成させられた場合。
公序良俗違反:
内容が社会の一般的な道徳観念に反する場合。例えば、「愛人関係を維持することを条件に財産を遺贈する」といった内容など。(ただし、単に愛人に財産を遺すこと自体が直ちに無効となるわけではありません)
遺言内容の不明確さ:
どの財産を誰に遺すのかが、全く特定できないほど曖昧な場合。
3. 遺言の有効性を疑った場合に、まずやるべきこと
まずは冷静に状況を整理する:
なぜ「故人の意思ではない」と感じるのか、その具体的な理由や、矛盾点をリストアップします。
遺言書そのものの確認:
遺言書の種類(自筆証書か、公正証書か)、作成された日付、署名・押印の形式などを確認します。
特に自筆証書遺言の場合は、方式の不備がないかチェックします。
証拠の収集:
無効を主張するための客観的な証拠を集める努力をします。
①遺言能力を争う場合:
故人の生前の医療記録(カルテ)、介護認定の記録、要介護認定調査票、長谷川式スケールなどの認知症テストの結果、故人の日記や手紙(当時の判断能力がうかがえるもの)、施設職員やヘルパー、親族などの証言。
②筆跡を争う場合:
故人が生前に書いた他の筆跡(手紙、日記、契約書など)をできるだけ多く集めます。
③不当な影響を主張する場合:
財産を多く受け取った人物と故人との関係性や、生前のやり取りを示す証拠(メール、録音、証言など)。
弁護士への相談:
これらの作業は、必ず相続紛争に詳しい弁護士に相談しながら進めてください。
個人では入手できない資料(カルテなど)も、弁護士を通じて取り寄せられる場合があります。
4. 遺言の無効を主張するための具体的な法的手続き
遺産分割協議での主張:
まず、他の相続人に対して、遺言の無効を主張し、遺産分割協議を行うことを求めます。
ここで全員が遺言の無効に同意し、別途遺産分割協議が成立すれば、裁判手続きは不要です。
遺言無効確認調停:
話し合いで解決しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停委員が間に入り、当事者間の合意による解決を目指します。
遺言無効確認訴訟:
調停でもまとまらない場合、最終的には地方裁判所に訴訟を提起します。
訴訟では、原告側(無効を主張する側)が、証拠に基づいて遺言の無効を立証しなければなりません。
5. 証明することの難しさ:特に「遺言能力」の立証
医師の診断書があっても…:
例えば、「要介護認定で認知症と診断されていた」という事実だけでは、直ちに「遺言能力がなかった」とは判断されません。
遺言書作成”当時”、その内容を理解できる能力があったかどうかが個別に判断されます。
公正証書遺言の場合:
公正証書遺言は、公証人が本人の意思と判断能力を確認した上で作成されるため、その有効性を覆すのは、自筆証書遺言に比べて格段に困難です。
証拠の重要性:
最終的には、医療記録、専門家の鑑定意見(筆跡鑑定、精神鑑定など)、関係者の証言といった、客観的な証拠を積み重ねて、裁判官に「遺言能力がなかった可能性が極めて高い」と判断してもらう必要があります。
6. トラブルを避けるための生前の対策(遺言者側の視点)
ご自身の遺言書が、後で「本人の意思ではない」と争われるような事態を避けるためには、
公正証書遺言で作成する:
これが最も確実な方法です。
公証人が関与することで、方式の不備や、遺言能力に関する争いを大幅に防げます。
作成時の状況を記録しておく:
自筆証書遺言を作成する場合でも、作成日の日記をつけたり、作成の様子をビデオに撮ったり、専門家に立ち会ってもらったりすることで、自身の明確な意思で作成したことの証拠を残せます。
医師の診断書を取得しておく:
もし高齢で、将来の判断能力に不安があるなら、遺言書作成と同じ時期に、医師から「遺言能力に問題なし」との診断書を取得しておくことも有効です。
付言事項で想いを伝える:なぜこのような内容にしたのか、その理由や想いを丁寧に記しておく。
【まとめ】遺言書への疑義は感情論ではなく証拠が全て。諦める前に弁護士へ
故人が遺した遺言書の内容に納得がいかず、「これは本人の真意ではない」と感じる時のお気持ちは、察するに余りあります。
故人への想いが強いほど、その遺志が歪められていると感じることは、耐えがたい苦痛でしょう。
しかし、その疑念を法的に認めさせるには、感情的な主張だけでは足りず、客観的で強力な証拠に基づいた、冷静な対応が求められます。
では、本日のポイントをまとめます。
- 遺言書の有効性を疑う場合、まずは「無効事由」(方式不備、遺言能力欠如など)にあたるか検討する。
- 主張を裏付けるための”客観的な証拠収集”が何よりも重要。
- 遺言の有効性を覆すことは非常に困難。特に公正証書遺言の場合はさらに難しい。
- 当事者間の話し合いで解決しなければ、「遺言無効確認調停・訴訟」という法的手続きで争う。
- 遺言書の有効性に少しでも疑問を感じたら、すぐに相続紛争に強い弁護士に相談する”ことが絶対条件。
- 遺言書を作成する側も、将来のトラブルを避けるために、公正証書遺言を利用するなどの対策を。
もし、あなたがそのような状況に置かれ、一人で悩んでいるのであれば、決して諦めないでください。
まずは弁護士に相談し、法的な観点から、ご自身の主張に可能性があるのか、どのような証拠が必要なのか、具体的なアドバイスを受けることから始めましょう。
株式会社大阪セレモニー



