養子縁組が相続を壊す?節税の裏に潜む、実子の相続分激減の落とし穴
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
故人様が遺された「遺言書」。
その内容をスムーズに、そして確実に実現するために、遺言書の中で「遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)」が指定されていることがあります。
遺言執行者は、相続財産の管理や、遺言の内容に沿った名義変更、預貯金の解約・分配など、非常に重要かつ強力な権限を持つ役割を担います。
しかし、その指定された遺言執行者が、
「特定の相続人にだけ肩入れしていて、公平性に欠ける…」
「手続きの進め方が不透明で、財産の内容をきちんと開示してくれない…」
「そもそも、その人物をあまり信用できない…」
と、その言動や能力に”強い不信感や不安”を抱いてしまったら、ご遺族としてはどうすれば良いのでしょうか。
故人が信頼して託した相手だとは分かっていても、このまま任せていては不公平な遺産分割が進んでしまったり、相続財産が不当に扱われたりするのではないか、と心配になりますよね。
そこで今回は、この「遺言執行者に対する不信感や、その解任」という、非常に深刻でかつ法的な手続きが必要となる問題について、
- そもそも遺言執行者とは何か?その強い権限と義務
- 遺言執行者を解任できるのはどんな場合か?(正当な事由)
- 具体的な解任手続きの流れ(家庭裁判所への申立て)
- 解任が認められた後、どうなるのか?
- トラブルを避けるために、遺言者自身ができること
などを、分かりやすく解説していきます。
【結論】不信な遺言執行者は家庭裁判所に解任請求が可能。任務懈怠などの正当事由と証拠が必須、弁護士相談を
遺言書で指定された遺言執行者が、その任務を怠っていたり、特定の相続人に不当に肩入れしたりするなど、信頼できない場合には、相続人などの利害関係人は、家庭裁判所に「遺言執行者解任の申立て」を行い、その解任を求めることができます。
ただし、単に「気に入らない」「自分に不利だから」といった主観的な理由だけでは、解任は認められません。
解任が認められるためには、
任務の懈怠(けたい):正当な理由なく、遺言執行の手続きを全く進めない。
任務違反:遺言の内容に反する行為や、財産を不当に処分するなどの行為。
その他、著しく不公平な態度や、病気、長期の不在など、執行者として不適当であると認められる「正当な事由」
があることを、”客観的な証拠に基づいて”主張する必要があります。
解任手続きは、家庭裁判所での法的な手続きとなるため、必ず相続問題に詳しい弁護士に相談し、解任の可能性があるか、どのような証拠が必要か、といったアドバイスを受けながら進めることが不可欠です。
解任が認められれば、家庭裁判所が新たに遺言執行者を選任するか、相続人が協議して新たな執行者を選任する手続きに進むことになります。
1. 遺言執行者とは? その強い権限と重い義務
遺言執行者の役割:
遺言書に書かれた内容を、法的に実現する責任と権限を持つ人です。相続人の代理人として、相続財産の管理・処分、預貯金の解約、不動産の名義変更、子の認知など、遺言の内容を実現するためのあらゆる行為を行います。
強い権限:
遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません。(民法1013条)つまり、相続人は遺言執行者の業務に口出ししたり、勝手に財産を処分したりすることはできないのです。
重い義務:
その強い権限の裏返しとして、遺言執行者は、善良な管理者としての注意をもって(善管注意義務)、誠実にその任務を行わなければなりません。
①任務開始の通知義務:
就任したら、遅滞なく相続人に遺言の内容を通知する。
②財産目録の作成・交付義務:
遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付する。
③報告義務:
相続人の請求があれば、いつでも執行の状況を報告する。
これらの義務を果たさないことは、解任の正当な事由となり得ます。
2. 遺言執行者を解任できるのはどんな場合か?「正当な事由」とは
家庭裁判所が遺言執行者の解任を認めるのは、「正当な事由」がある場合に限られます。(民法1019条2項)
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
任務の懈怠(けたい):
- 正当な理由なく、財産調査や財産目録の作成を全く行わない。
- 遺産分割や名義変更などの手続きを、長期間にわたって放置している。
- 相続人からの問い合わせや報告要求に、一切応じない。
任務違反・不適切な行為:
- 遺言の内容に反して、特定の相続人に有利になるように財産を分配しようとする。
- 相続財産を不当に安く売却したり、自分のものにしたりする(横領)。
- 相続財産の管理がずさんで、財産を減少させてしまう。
その他、執行者として不適格な場合:
- 特定の相続人にだけ肩入れし、著しく不公平・不誠実な態度をとる。
- 病気、高齢、長期の海外滞在、破産などにより、執行業務の遂行が困難である。
- 他の相続人との対立が激しく、円滑な執行が期待できない。
逆に、単に「遺言執行者の進め方が気に入らない」「自分と意見が合わない」「もっと早く手続きしてほしい」といった主観的な不満だけでは、正当な事由とは認められにくいので注意が必要です。
3. 具体的な解任手続きの流れ(家庭裁判所への申立て)
証拠の収集:
まず、解任の「正当な事由」を証明するための客観的な証拠を集めます。
①任務懈怠の証拠:内容証明郵便で財産目録の交付などを請求したが、応答がない、といった記録。
②不公平な態度の証拠:メールや手紙のやり取り、会話の録音など。
③財産の不当処分の証拠:不動産の登記事項証明書、預金の取引履歴など。
家庭裁判所への申立て:
①申立人:相続人、受遺者、その他利害関係人。
②申立て先:被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。
③必要書類(主なもの):
- 遺言執行者解任審判申立書
- 故人の除籍謄本、申立人の戸籍謄本など
- 遺言書の写し
- 解任の正当な事由を明らかにするための証拠資料
- 収入印紙(800円)、連絡用の郵便切手
家庭裁判所による審理(審問):
* 裁判所が、申立人と遺言執行者の双方から、事情を聴取します(審問期日)。
* この場で、申立人は解任を求める理由を具体的に主張し、遺言執行者はそれに対する反論を行います。
審判:
①裁判官が、提出された証拠や審問の内容などを総合的に考慮し、解任するかどうかを決定(審判)します。
②解任が認められれば、その旨の審判書が当事者に送付されます。
4. 解任が認められた後、どうなるのか?
解任の審判が確定すると、その遺言執行者は資格を失います。
その後は、
①他の遺言執行者がいる場合:その者が任務を行います。
②他の遺言執行者がいない場合:
相続人などの利害関係人が、家庭裁判所に新たに「遺言執行者選任の申立て」を行います。
通常、利害関係のない弁護士や司法書士などの専門家が、新しい遺言執行者として選任されます。
そして、新しく選任された遺言執行者が、遺言の内容を実現するための手続きを進めていくことになります。
5. トラブルを避けるために、遺言者自身ができること
このような解任トラブルを避けるためには、遺言書を作成するご本人自身が、生前に以下の点を考慮することが重要です。
信頼できる人物・専門家を選ぶ:
遺言執行者には、特定の相続人だけでなく、利害関係のない友人や、あるいは弁護士、司法書士、信託銀行といった専門家を指定することを検討する。
複数人を選任する:
一人が任務を遂行できなくなった場合に備え、複数の遺言執行者を指定しておく。
遺言執行者の権限や報酬を明確にする:
遺言書の中で、執行者の具体的な権限や、支払われるべき報酬額を明確に定めておく。
付言事項で想いを伝える:
なぜその人を執行者に選んだのか、相続人たちに協力してほしい、といった想いを付言事項として記しておく。
【まとめ】遺言執行者への不信感は放置せず、法的手段も視野に専門家と連携を
遺言執行者は、故人の最後の意思を実現するための、非常に重要で強力な権限を持つ存在です。
その執行者が信頼できない場合、故人の遺志が正しく実現されないだけでなく、相続人間のトラブルを助長することにもなりかねません。
そのような状況では、故人様も決して安らかには眠れないでしょう。
では、本日のポイントをまとめます。
- 遺言執行者が任務を怠る、不公平な態度をとるなどの「正当な事由」があれば、家庭裁判所に解任を請求できる。
- 解任を主張するには、「気に入らない」といった主観的な理由ではなく、「客観的な証拠」が必要。
- 解任手続きは法的な手続きであり、必ず弁護士などの専門家に相談して進める。
- 解任が認められれば、家庭裁判所が新たな執行者を選任することができる。
- 遺言者自身も、トラブルを避けるため、信頼できる専門家などを執行者に指定することを検討する。
遺言執行者の言動に強い不信感を抱いた場合は、泣き寝入りしたり、感情的に対立したりするのではなく、まずは弁護士に相談し、法的な権利として「解任請求」という手段があることを知っておいてください。
それが、故人の真の意思を守り、ご自身の正当な権利を実現するための、賢明な道筋となるはずです。
株式会社大阪セレモニー



