【資産管理会社の相続税対策】節税スキームの罠と税務署に否認されない鉄則をプロが解説
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
故人様に多額の借金があることが判明したり、相続財産よりも負債の方が多いことが明らかになったりした場合、相続人は「相続放棄」という選択をすることがありますよね。
相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がなくて済むため、借金の返済義務から逃れることができます。
しかし、相続放棄をした後、
「故人が住んでいた家の荷物(遺品)は、どうすればいいんだろう?」
「相続放棄したんだから、もう片付けなくてもいいの?」
「でも、賃貸物件だったら、大家さんから何か言われるんじゃ…」
「もし片付けるとしたら、その費用は誰が負担するの?」
と、残された「遺品」の整理と、その「費用負担」について、疑問が残ると思います。
相続放棄は、法的には「初めから相続人ではなかった」とみなされる手続きです。
では、相続人でなくなった以上、故人の遺品に対する責任も一切なくなるのでしょうか?
この点は、非常に誤解されやすく、対応を間違えると後々トラブルに発展する可能性もある、デリケートな問題です。
そこで今回は、この「相続放棄後の遺品整理と費用負担」について、
- 相続放棄した場合の遺品整理の基本的な考え方
- 法的に遺品整理の義務は誰にあるのか?
- 賃貸物件の場合の注意点(原状回復義務)
- 遺品整理の費用は誰が負担するのか?
- 相続放棄者が遺品に手をつけても良い範囲とは?(法定単純承認との関係)
- どうしても誰も対応できない場合はどうなる?(相続財産清算人)
などを、分かりやすく解説していきます。
【結論】相続放棄後も状況により遺品整理の必要性あり。費用は相続財産から、困難なら相続財産清算人の選任も
相続放棄をした場合、その人は法的には相続人ではなくなるため、原則として故人の遺品を整理したり、その費用を負担したりする義務は負いません。
遺品を含む故人の財産は、次の順位の相続人、あるいは最終的に相続人が誰もいなくなった場合は、国のもの(国庫に帰属)となります。
しかし、現実的には、そう単純にはいかないケースが多いのが実情です。
特に、以下のような場合には、相続放棄をした人でも、何らかの対応を求められたり、注意が必要になったりします。
賃貸物件の場合: 大家さんや管理会社から、部屋の明け渡しや原状回復(遺品整理含む)を求められることがあります。法的な支払い義務はなくても、道義的な責任や、次の相続人との関係で対応が必要になる場合があります。
他に相続人がいない、または全員が相続放棄した場合: 遺品が放置されたままになると、社会的な問題(ゴミ屋敷化、衛生問題など)に発展する可能性があります。この場合、最終的には家庭裁判所が「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」(以前の相続財産管理人)を選任し、その清算人が遺品の処分などを行うことになりますが、選任には費用と時間がかかります。
道義的責任・感情的な問題: 法的な義務はなくても、故人の最後の始末として、ある程度の片付けをしたい、というお気持ちになる方もいらっしゃるでしょう。
遺品整理の費用については、原則として故人の相続財産から支払われます。
もし相続財産がなければ、最終的には相続財産清算人が国の費用で処理するか、場合によっては賃貸人などが負担することになる可能性もあります。
相続放棄者が自ら費用を負担して遺品整理を行う場合は、その行為が「単純承認」とみなされないよう、慎重な対応が必要です。
したがって、相続放棄をした場合でも、遺品整理の問題については、放置せず、弁護士などの専門家に相談し、状況に応じた適切な対応をとることが重要です。
それでは、相続放棄後の遺品整理と費用負担について、その法的な考え方や具体的な対応、注意点などを詳しく掘り下げていきましょう。
1. 相続放棄と遺品整理の基本的な考え方
相続放棄の効果:相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。つまり、故人のプラスの財産もマイナスの財産も一切承継しません。
遺品の法的性質:故人の遺品は、相続財産の一部です。
原則としての整理義務:相続放棄者は相続人ではないため、原則として、相続財産である遺品を管理・処分する権利も義務もありません。
2. では、誰が遺品整理の義務を負うのか?
相続放棄者以外の人が遺品整理の義務を負うことになります。
①他の相続人がいる場合:その相続人が遺品整理の義務を負います。
②相続人全員が放棄した場合、または相続人が不存在の場合:
この場合、利害関係人(故人の債権者、特別縁故者、賃貸人など)または検察官が、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てることができます。
選任された相続財産清算人が、故人の財産を調査・管理し、債権者への支払いなどを行った上で、残った財産があれば国庫に帰属させます。遺品の処分も、この清算業務の一環として行われます。
ただし、相続財産清算人の選任には、予納金(数十万円~百万円程度)が必要となる場合が多く、これがネックとなることもあります。
3. 賃貸物件の場合の注意点:大家さんとの関係
故人が賃貸住宅に住んでいて、相続人が相続放棄をした場合、大家さんや管理会社との間で問題が生じやすいです.
大家さんの立場:部屋を次の人に貸すためには、遺品を撤去し、部屋を原状回復してもらう必要があります。しかし、相続放棄者には法的な支払い義務を直接追及しにくい状況です。
相続放棄者の対応:
法的な支払い義務はなくても、大家さんから遺品の撤去や清掃について協力を求められることがあります。
もし、故人の財産(敷金や、少額の預金など)が残っている場合は、その範囲内で遺品整理費用を支払うことを提案する、といった対応は考えられます(ただし、これも単純承認とみなされないよう注意が必要)。
大家さんとよく話し合い、相続財産清算人の選任手続きを進めてもらうか、あるいは大家さん自身が費用を負担して遺品を処分することに同意するか、といった解決策を探ることになります。
連帯保証人がいる場合は、その連帯保証人に責任が及ぶ可能性があります。
4. 遺品整理の費用は誰が負担するのか?
原則は故人の相続財産から:遺品整理費用は、故人の債務の一つとして、相続財産の中から支払われるのが基本です。
相続財産がない場合:
相続人が相続放棄をせず、財産がなくても遺品整理を行う場合は、その相続人が自己負担することになります。
相続人全員が放棄し、相続財産もない場合は、最終的に相続財産清算人が国費で処理するか、あるいは大家さんなどが費用を負担して処分せざるを得ない状況になることもあります。
相続放棄者が費用を負担する場合の注意点:もし、相続放棄をした人が、道義的な責任などから自ら費用を負担して遺品整理を行う場合、その行為が「相続財産の処分」とみなされ、法定単純承認となり、相続放棄が無効になってしまうリスクがないか、慎重に検討する必要があります。
専門家(弁護士)に相談するのが最も安全です。
5. 相続放棄者が遺品に手をつけても良い範囲とは?「法定単純承認」を避けるために
相続放棄を考えている、あるいは既にした人が、故人の遺品に手を付ける行為は、非常に慎重に行わなければなりません。
なぜなら、民法で定められた「法定単純承認」事由に該当すると、相続放棄ができなくなったり、無効になったりする可能性があるからです。
法定単純承認とは:相続人が、相続財産の全部または一部を処分したときなどに、単純承認(全ての財産と負債を相続すること)をしたものとみなす制度です。
遺品整理と法定単純承認:
形見分け:社会的儀礼の範囲内とされる、ごくわずかな形見分け(写真、衣類数点など、経済的価値の低いもの)であれば、問題ないとされることが多いです。しかし、高価な貴金属や骨董品、自動車などを持ち帰る行為は、財産の処分とみなされるリスクが高いです。
ゴミの処分:明らかな生活ゴミや、腐敗しやすい食品などを処分することは、財産の保存行為として許容されることが多いです。
換価行為(売却):遺品を売却して現金化する行為は、典型的な財産の処分行為であり、単純承認とみなされる可能性が極めて高いです。
判断基準は「財産的価値の有無」と「保存行為か処分行為か」:境界線が曖昧なケースも多いため、相続放棄を検討している場合は、遺品整理に着手する前に、必ず弁護士に相談し、どこまでの行為が許容されるのか、具体的な指示を仰ぐべきです。勝手な判断は禁物です。
6. どうしても誰も対応できない場合の最終手段:「相続財産清算人」
相続人全員が相続放棄をし、かつ遺品の管理・処分を行う人が誰もいない場合、放置された遺品は社会的な問題となります。
このような場合に、利害関係人(大家さん、故人の債権者など)や検察官は、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てることができます。
相続財産清算人の役割:故人の財産(遺品含む)を調査・管理し、換価(現金化)して、債権者への支払いなどを行い、最終的に残った財産があれば国庫に納めます。遺品の処分も、この清算業務の一環として行われます。
選任申立ての費用(予納金):相続財産から清算人の報酬や経費が支払えない場合、申立人が予納金(数十万円~)を納める必要があります。この費用負担がネックとなり、選任に至らないケースもあります。
7. 専門家(弁護士など)への相談の重要性
相続放棄後の遺品整理は、法的な問題や費用負担、関係者との調整など、非常に複雑な要素が絡み合います。
・相続放棄の有効性:遺品整理の行為が、相続放棄の効力に影響しないか。
・賃貸人との交渉:部屋の明け渡しや原状回復について、法的な根拠に基づいた交渉。
・相続財産清算人の選任申立ての要否判断や手続きサポート。
・他の相続人との連絡・調整。
これらの点で、相続問題に詳しい弁護士に相談することが、トラブルを避け、適切に対応するための最も確実な方法です。
【まとめ】相続放棄後の遺品整理は慎重な判断を。まずは専門家に相談し、適切な対応を
相続放棄をした場合、原則として遺品整理の義務は負いませんが、現実的には様々な問題が生じる可能性があります。
- 法的な義務はなくても、賃貸物件の大家さんなどから対応を求められることがある。
- 費用負担は原則として故人の相続財産から。ない場合は複雑化する。
- 相続放棄者が遺品に手を付ける際は「法定単純承認」に細心の注意を。必ず専門家に相談。
- 誰も対応できない場合は、最終的に「相続財産清算人」が処理するが、費用と時間がかかる。
- 最も重要なのは、状況を放置せず、早期に弁護士などの専門家に相談すること。
相続放棄という難しい決断をされた後、さらに遺品整理の問題で悩まされるのは、精神的にも大きな負担です。
一人で抱え込まず、専門家の知恵を借りながら、故人様にとっても、残された関係者にとっても、そしてご自身にとっても、できる限り円満な解決を目指してください。
「相続した実家、住み続けたい人と売りたい人で意見が割れたらどうする?
株式会社大阪セレモニー



