【孫への相続】相続税2割加算の罠!節税のつもりが大損するケースと対策をプロが解説
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
大切な方を亡くされた後、遺品整理などを進める中で、”故人様に思いがけない借金があること”が判明するケースは、残念ながら少なくありません。
消費者金融からの借入、住宅ローン、カードローン、あるいは友人・知人からの借金、さらには誰かの連帯保証人になっていた、などその内容は様々です。
そんな時、ご遺族は、「故人の借金も、私たちが返さないといけないの?」と、深刻な不安と焦りに襲われることでしょう。
そこで今回は、この「借金の相続」という非常に重い問題について、
- 借金も相続の対象になるのか?
- 借金を相続しなくて済む方法はあるのか?
- 特に注意が必要な「保証債務」について
- 借金の調査方法
- 手続きの期限と注意点
などを、法律的な側面も踏まえながら解説していきます。
予期せぬ借金に直面した場合でも、慌てず、適切な対応を取るための知識を身につけておきましょう。
【結論】もし遺産相続する場合は、借金は返済しなくてはならない。
まず結論として、故人(被相続人)の借金は、原則として相続の対象となり、相続人が引き継ぐ義務を負います。
これは、相続が、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産も全て含めて引き継ぐ「包括承継(ほうかつしょうけい)」である、と法律(民法)で定められているからです。
残念ながら、「プラスの財産だけをもらって、借金だけは放棄する」ということはできません。
しかし、借金を引き継がなくても済む方法は、法律でちゃんと用意されています。
それが、以前のコラムでも触れた「相続放棄」と「限定承認」です。
相続放棄: プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない方法。借金が明らかに多い場合に有効です。
限定承認: 相続するプラスの財産の範囲内で借金を返済し、もし財産が残ればそれを相続する方法。借金の額がはっきりしない場合などに有効ですが、手続きが複雑です。
これらの手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所で行う必要があります。
特に注意が必要なのは、故人が誰かの「連帯保証人」になっていた場合、その保証債務も原則として相続されるという点です。
したがって、故人に借金がある、あるいはその可能性があると分かった場合は、速やかに財産の全容を調査し、3ヶ月の期限内に、相続放棄や限定承認の手続きを検討・実行することが、借金の負担からご自身とご家族を守るために最も重要となります。
それでは、借金が相続される仕組み、回避する方法、調査方法、注意点などについて、その根拠となる部分を詳しく掘り下げていきましょう。
1. なぜ借金も相続される?「包括承継」の原則
民法第896条本文には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定められています。
これが「包括承継の原則」です。
「権利」とは預貯金や不動産などのプラスの財産、「義務」とは借金の返済義務や損害賠償義務などのマイナスの財産を指します。
つまり、相続するということは、良いものも悪いものも基本的に全て丸ごと引き継ぐ、ということなのです。
2. 借金を相続しないための選択肢:「相続放棄」と「限定承認」
借金の額がプラスの財産を上回る場合や、借金の返済義務を負いたくない場合に、相続人が取れる選択肢は以下の二つです。
相続放棄:
効果: プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない。最初から相続人ではなかった扱いになる。
手続き: 相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に「相続放棄申述書」と必要書類(戸籍謄本など)を提出する。
メリット: 借金の返済義務から完全に解放される。手続きが比較的シンプル。
デメリット: プラスの財産(自宅不動産、預貯金、思い出の品など)も一切相続できない。一度行うと原則撤回できない。次順位の相続人に権利が移る。
限定承認:
効果: 相続したプラスの財産の範囲内でのみ、借金を返済する。もしプラスの財産の方が多ければ、残りは相続できる。
手続き: 相続開始を知ってから3ヶ月以内に、相続人全員で家庭裁判所に「限定承認申述書」と財産目録などを提出する。その後、官報公告や債権者への弁済など、複雑な清算手続きが必要。
メリット: もしプラスの財産が残れば相続できる。家宝など、どうしても手放したくない財産がある場合に有効な場合がある。
デメリット: 手続きが非常に複雑で時間と費用がかかる。 相続人全員で協力して行う必要がある。税務上のデメリット(みなし譲渡所得課税)が生じる場合がある。
選択されるケース: 手続きの複雑さから、実際には限定承認が選択されるケースは多くありません。しかし、借金の額が不明確で、プラスの財産が残る可能性も捨てきれない、といった場合には検討の価値があります。
3.【要注意!】「保証債務」も相続される
故人が生前に、誰かの借金の「保証人」、特に「連帯保証人」になっていた場合、その保証人としての地位(保証債務)も、原則として相続の対象となります。
これは非常に見落としやすく、かつ深刻な問題に繋がりやすい点です。
故人に多額の遺産が残っていた…と安心したのも束の間、隠れた保証債務があることもあり得るからです。
保証人と連帯保証人の違い:
保証人: まず主債務者(お金を借りた本人)に請求し、それでも返済されない場合に初めて保証人に請求が来る。また、保証人には「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」といった、支払いを一時的に拒否できる権利がある。
連帯保証人: 主債務者とほぼ同等の重い責任を負う。債権者(お金を貸した側)は、主債務者に請求せず、いきなり連帯保証人に全額請求できる。上記の抗弁権もない。
相続への影響: 相続人が連帯保証人の地位を引き継いだ場合、もし主債務者が返済できなくなれば、相続人がその借金を全額肩代わりしなければならなくなる可能性があります。これは、相続したプラスの財産の額とは関係なく、保証契約で定められた全額について責任を負うことになります。
調査の重要性: 故人が誰かの保証人になっていないか、遺品の中から保証契約書や関連書類がないか、注意深く調査することが非常に重要です。
保証債務があることが判明した場合、そのリスクを考慮して、相続放棄を検討する必要性が高まります。
4. 故人の借金の調査方法
故人に借金があるかどうか、またその額を正確に把握するための調査方法です。
遺品の確認: 契約書、借用書、請求書、督促状、ATMの利用明細、預金通帳の引き落とし履歴などを探します。
郵便物の確認: 金融機関、消費者金融、カード会社などからの郵便物がないか確認します。
信用情報機関への情報開示請求: 故人の借入状況(主に金融機関や消費者金融、クレジット会社からの借入)を確認するために、以下の3つの信用情報機関に、相続人として情報開示を請求することができます。
CIC(株式会社シー・アイ・シー):主にクレジット会社の情報を保有。
JICC(株式会社日本信用情報機構):主に消費者金融の情報を保有。
KSC(全国銀行個人信用情報センター):主に銀行や信用金庫などの情報を保有。
開示請求には、故人の死亡が確認できる書類や、請求者が相続人であることを証明する書類などが必要です。郵送やインターネットでの請求が可能です。
注意点: 信用情報機関で把握できるのは、主に正規の貸金業者からの借入です。個人間の借金や、闇金からの借入などは分かりません。
5. 手続き期限(3ヶ月)と「法定単純承認」のリスク
相続放棄・限定承認の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。
この期間内に手続きをしないと、単純承認したとみなされます。
さらに注意が必要なのが「法定単純承認」です。
相続人が以下のような行為をすると、相続放棄・限定承認の意思がない(=単純承認した)とみなされ、後から放棄・限定承認ができなくなる可能性があります。
- 相続財産の全部または一部を処分したとき: 故人の預貯金を引き出して使ってしまった、不動産を売却した、形見分けの範囲を超えるような高価な遺品を持ち帰った、など。
- 熟慮期間(3ヶ月)を経過したとき。
- 相続財産の全部または一部を隠匿したり、消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったとき。
【葬儀費用の支払いと単純承認】
「故人の預貯金から葬儀費用を支払ったら、単純承認になるの?」という疑問については、判例上、社会通念上相当な範囲の葬儀費用を、故人の財産から支出することは、必ずしも単純承認にはあたらない、とされる傾向があります。
しかし、明確な基準があるわけではなく、グレーゾーンであることに変わりはありません。
特に相続放棄を検討している場合は、故人の財産には手を付けず、相続人が立て替えるか、仮払い制度を利用するか、あるいは事前に専門家に相談するのが最も安全です。
6. 生命保険金等で借金を返済する場合の注意
故人が死亡保険金の受取人を指定していた場合、その保険金は受取人固有の財産となり、相続財産ではありません。
しかし、その受け取った保険金で、故人の借金を返済してしまうと、これも単純承認とみなされるリスクがあります。
借金の返済は、相続人が故人の債務を引き継ぐことを認めた行為、と解釈されかねないからです。
相続放棄を考えている場合は、受け取った保険金で安易に借金を返済しないようにしましょう。
7. 専門家(弁護士・司法書士)への相談の重要性
借金の相続は、法的な判断が非常に重要となる複雑な問題です。
- 借金の額が不明確な場合
- 保証債務の有無や内容が分からない場合
- 相続放棄・限定承認の手続きに不安がある場合
- 3ヶ月の期限が迫っている場合
- 他の相続人との間で意見が対立している場合
このような場合は、必ず相続問題に詳しい弁護士や司法書士に相談してください。
専門家は、状況に応じた最適な対応策(財産調査の方法、相続放棄・限定承認の判断、手続きの代行、債権者との交渉など)をアドバイスし、実行してくれます。
相談費用はかかりますが、将来的に背負う可能性のある借金の額を考えれば、専門家のサポートを得るメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
遺産があるからと安心してはいけません。
必ず徹底した調査を行いましょう。
「遺産分割の話し合いってどう進めるの?」
「相続税の申告って、うちは必要? いつまでに何をすればいいの
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