認知症の親の契約は無効にできる?死後の財産トラブルと生前の対策を専門家が解説
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
もし故人様が有効な遺言書を遺していなかった場合、あるいは遺言書があっても全ての財産の分け方が指定されていなかった場合、次に必要となるのが「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」です。
これは文字通り、法定相続人全員で集まり、故人様が遺した財産(遺産)を、”誰が、どのように分けるか?”を話し合って決める、非常に重要なプロセスです。
しかし、この遺産分割協議…
お金や不動産が絡むだけに、些細なことから感情的な対立が生まれ、これまで仲の良かった家族や親族の関係に、ひびが入ってしまうという悲しいケースも、残念ながら存在します。
そこで今回は、この「遺産分割協議」を円満かつスムーズに進めるために、「どのように進めれば良いのか」、その具体的な手順、話し合いのポイント、そして注意点などを、分かりやすく解説していきます。
故人様の想いを尊重し、残された家族がこれからも良好な関係を続けていくためにも、ぜひ正しい進め方を理解しておきましょう。
【結論】当事者だけではトラブルになる可能性大!ぜひ専門家への事前相談を!
遺産分割協議を適切に進めるためには、以下の点が非常に重要です。
必ず「法定相続人全員」が参加する(または代理人を立てる): 一人でも欠けた状態での協議は無効となります。
事前に「相続財産目録」を作成し、財産の全体像を共有する: 何を分けるのかが明確でないと、話し合いが進みません。
冷静かつ建設的に話し合う: 感情的にならず、お互いの意見を尊重し、譲り合いの精神を持つことが大切です。
合意した内容は、必ず「遺産分割協議書」という書面に残す: 口約束だけでは後のトラブルの原因になります。相続人全員が署名・捺印(実印)します。
遺産分割協議に法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)などを考慮すると、できるだけ早めに着手し、期限内に完了させることが望ましいです。
もし、どうしても話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判といった法的な手続きを利用することになりますが、その前に弁護士などの専門家に相談することも有効な手段です。
それでは、遺産分割協議の具体的な進め方や注意点について、その根拠となる部分を詳しく掘り下げていきましょう。
1. 遺産分割協議とは?
目的: 故人(被相続人)が遺した遺産(プラスの財産もマイナスの財産も含む)の具体的な分け方を、法定相続人全員の話し合いによって決定することです。
なぜ必要か?:
遺言書がない場合: 法律で定められた相続分(法定相続分)はありますが、これはあくまで目安です。具体的に「どの不動産を誰が」「預貯金をどう分けるか」を決めるためには、相続人全員の合意が必要です。
遺言書があっても協議が必要な場合: 遺言書で全ての財産の分け方が指定されていない場合や、相続人全員が遺言書とは異なる分け方で合意した場合(遺言執行者がいる場合はその同意も必要になることがあります)など。
法的根拠: 民法第907条で、遺産分割は相続人全員の協議によって行うことが定められています。
2. 協議を始める前の重要な準備
スムーズな協議のためには、事前の準備が欠かせません。
① 法定相続人の確定(再確認): 故人の出生から死亡までの戸籍謄本類を取り寄せ、誰が法定相続人なのかを正確に確定させます。認知した子や、前妻(夫)との間の子なども含まれる可能性があります。漏れがあると協議が無効になります。
② 相続財産の調査と「相続財産目録」の作成: どのような財産(不動産、預貯金、有価証券、借金など)が、どこに、どれだけあるのかを全て調査し、一覧表(財産目録)を作成します。不動産や株式などは、その評価額も調べて記載しておくと、話し合いの基準となります。この目録を相続人全員で共有し、財産の全体像を把握することが、公平な話し合いの前提となります。
3. 遺産分割協議の具体的な進め方
参加者: 必ず法定相続人全員が参加しなければなりません。直接集まるのが難しい場合は、電話、メール、手紙、オンライン会議などを活用しても構いませんが、最終的な合意は全員から得る必要があります。
未成年者がいる場合: 親権者が代理人となりますが、親権者自身も相続人である場合は利益が相反するため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらう必要があります。
認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる場合: 家庭裁判所で「成年後見人」を選任してもらい、その成年後見人が協議に参加します。
行方不明の相続人がいる場合: 家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があります。
話し合いの方法: 特定の形式はありません。相続人同士で自由に話し合います。
話し合いのポイント:
①冷静に、感情的にならない: お金が絡むと感情的になりがちですが、冷静に話し合うことが重要です。
②お互いの主張を尊重する: 自分の意見ばかり主張せず、他の相続人の意見や状況にも耳を傾けましょう。
③法定相続分は目安として: 法定相続分(例:配偶者1/2、子1/2を人数割り)はあくまで分割の目安であり、必ずしもその通りに分けなければならないわけではありません。全員が合意すれば、自由に分け方を決めることができます。
④寄与分・特別受益を考慮する: 故人の介護に尽力した相続人(寄与分)や、生前に故人から多額の贈与(学費、住宅資金など)を受けていた相続人がいる場合、それらを考慮して相続分を調整することもありますが、計算や主張が難しく、争いの原因にもなりやすい部分です。必要であれば専門家に相談しましょう。
⑤譲り合いの精神で: 全員が100%満足する分割は難しいかもしれません。どこかで譲り合う気持ちを持つことも、円満な解決には必要です。
4. 合意したら必ず「遺産分割協議書」を作成!
話し合いがまとまり、全員が合意に至ったら、その内容を必ず「遺産分割協議書」という書面に残します。
なぜ必要か?:
合意内容の証明: 後になって「そんな合意はしていない」といったトラブルを防ぎます。
相続手続きに必要: 不動産の名義変更(相続登記)や、預貯金の解約・払い戻しなどの手続きにおいて、金融機関や法務局から提出を求められます。
記載事項(主なもの):
- 被相続人(故人)の氏名、最後の住所、死亡年月日
- 相続人全員の氏名、住所
- 遺産分割協議が成立した旨
- どの財産を、誰が、どのように相続するか、具体的に記載(不動産は登記簿通り、預貯金は金融機関名・口座番号など)
- 協議書作成年月日
- 相続人全員の署名
- 相続人全員の実印による捺印
作成方法: 相続人の誰かが作成しても、専門家(行政書士、司法書士、弁護士など)に依頼して作成しても構いません。ただし、法的に有効で、後の手続きに使える正確なものを作成するためには、専門家に依頼するのが安心です。
必要書類: 遺産分割協議書には、相続人全員の印鑑証明書を添付するのが一般的です。(実印であることを証明するため)
5. 遺産分割協議の注意点
期限はないが…: 遺産分割協議自体に法律上の期限はありません。しかし、相続税の申告・納付期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限までに遺産分割協議がまとまっていないと、相続税の配偶者控除や小規模宅地等の特例といった税制上の優遇措置が受けられなくなる可能性があります。できるだけこの10ヶ月以内を目処に協議をまとめることを目指しましょう。
不動産の評価: 不動産の分け方を決める際、その評価額をどうするかで揉めることがあります。固定資産税評価額、路線価、不動産鑑定士による鑑定評価など、どの基準を使うか、相続人間で合意が必要です。
「負債」の分割: 遺産分割協議で合意できるのは、原則としてプラスの財産についてです。借金などのマイナスの財産は、法定相続分に応じて各相続人が引き継ぐのが原則であり、相続人間の合意だけでは債権者(お金を貸した人)に対抗できません。(ただし、特定の相続人が債務を引き継ぐ旨を合意し、債権者の同意を得るなどの方法はあります)
6. 話し合いがまとまらない場合
どうしても相続人間で話し合いがまとまらない場合は、以下の方法があります。
家庭裁判所の遺産分割調停: 調停委員が間に入り、話し合いによる解決を目指します。
家庭裁判所の遺産分割審判: 調停でもまとまらない場合に、裁判官が一切の事情を考慮して、分割方法を決定(審判)します。
調停や審判になる前に、弁護士に相談・依頼して、代理人として交渉してもらうことも有効です。
まとめ
遺産分割協議は、故人様の遺した財産を巡る、相続人全員にとって非常に重要な話し合いです。
円満かつスムーズに進めるためには、
- 事前の準備(相続人確定、財産調査、目録作成)をしっかり行うこと。
- 必ず相続人全員が参加し、冷静に話し合うこと。
- 合意内容は、必ず「遺産分割協議書」にまとめ、全員が実印で捺印すること。
- 相続税申告などの期限を意識して、早めに着手すること。
が不可欠です。
感情的な対立を避け、故人様の想いを尊重し、残された家族がこれからも良好な関係を築いていくためにも、お互いを思いやる気持ちを忘れずに協議に臨みましょう。
そして、もし手続きが複雑で難しい、あるいは話し合いが難航しそうだ、と感じた場合は、決して一人で悩まず、弁護士や司法書士、税理士といった専門家に、できるだけ早い段階で相談することをお勧めします。
株式会社大阪セレモニー



