相続放棄の手続きの期限は3ヶ月!?失敗しないための最新知識と注意点
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
遺産相続の手続きを進める上で、原則として「法定相続人全員」で話し合い(遺産分割協議)、合意する必要があることは、以前のコラムでもお伝えしました。
しかし、相続人の中には、
「長年疎遠になっていて、どこに住んでいるのか、連絡先すら分からない…」
「海外に移住してしまったらしいが、詳しい状況が不明…」
「そもそも、行方不明になって久しい…」
といったように、連絡を取ること自体が困難な相続人が含まれているケースも、残念ながら少なくありません。
またこの問題は、単に時間が解決してくれるものではなく、放置しておくとさらに状況が複雑化してしまう可能性もあります。
そこで今回は、連絡が取れない、あるいは行方不明の相続人がいる場合に、「遺産分割協議をどのように進めれば良いのか」、そのための法的な手続きや注意点について解説していきます。
【結論】代理で遺産分割協議に参加する人を選んでもらうことは可能であるが、手続きに手間がかかる。
まず結論として、連絡が取れない、または行方不明の相続人がいる場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。
そのような状態で進めた協議は法的に無効となり、後で大きなトラブルの原因となります。
この問題を解決するためには、家庭裁判所を通じた法的な手続きが必要不可欠です。
具体的には、状況に応じて以下のいずれかの手続きを検討することになります。
不在者財産管理人(ふざいしゃざいさんかんりにん)の選任申立て:
連絡は取れないが、生きている可能性が高い(行方不明期間が比較的短いなど)場合に、その不在者の代わりに財産を管理し、遺産分割協議に参加する人を家庭裁判所に選んでもらう手続きです。
失踪宣告(しっそうせんこく)の申立て:
長期間(通常7年以上)生死不明の状態が続いている場合に、家庭裁判所に申立てを行い、法律上、死亡したものとみなす手続きです。これにより、その人は相続人から除外され、残りの相続人で協議を進めることができます。
どちらの手続きを選択するかは、状況によって異なります。
いずれにしても、これらの手続きには時間と費用がかかり、専門的な知識も必要となるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進めることを強くお勧めします。
それでは、なぜこれらの手続きが必要なのか、それぞれの具体的な内容や注意点を、さらに詳しく掘り下げていきましょう。
1. なぜ「相続人全員」の参加が必須なのか?
遺産分割協議は、相続人全員の共有財産である遺産の分け方を決める、非常に重要な法律行為です。
民法では、遺産分割は「共同相続人間の協議で定める」と規定されており(民法907条)、これは相続人全員の参加と合意がなければ有効な協議とは認められない、ということを意味します。
一人でも欠けた状態で行われた協議は、後でその相続人から異議を申し立てられれば、無効となってしまうのです。
2. まずは徹底的な捜索努力を!連絡が取れない場合の探し方
法的な手続きに進む前に、まずは可能な限りの方法で、連絡が取れない相続人の所在や連絡先を調査する努力が必要です。
戸籍附票(こせきふひょう)の取得:
本籍地の役所で取得できる「戸籍附票」には、その戸籍が作られてからの住所変更の履歴が記録されています。これを辿ることで、現在の住民票上の住所が判明する可能性があります。(ただし、本人が住民票を移していなければ分かりませんし、DV被害者支援などの理由で取得が制限されている場合もあります)
他の親族や共通の知人への聞き込み: 疎遠になっていても、他の親族や共通の友人・知人が連絡先を知っている可能性があります。諦めずに聞いてみましょう。
弁護士への依頼: 弁護士は、職務上の権限(弁護士法23条の2に基づく照会など)を用いて、個人では取得が難しい情報を調査できる場合があります。
3. 法的手続き①:「不在者財産管理人」の選任
上記のような調査をしても、どうしても連絡が取れない、しかし亡くなっているとは考えにくい(例えば、行方不明になってから日が浅い、海外にいるらしいが連絡がつかないなど)場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人の選任」を申し立てます。
不在者財産管理人とは?:
行方不明となっている相続人(不在者)の財産を、本人に代わって管理する人のことです。家庭裁判所によって選任され、通常は弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。
役割: 不在者の財産を調査・管理・保存するだけでなく、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得ることで、不在者に代わって遺産分割協議に参加することができます。
申立てができる人: 利害関係人(他の相続人、不在者の債権者など)または検察官。
申立て先: 不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所。
必要なもの: 申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍附票、財産に関する資料、管理人候補者の資料(候補者がいる場合)、申立て費用(収入印紙、郵便切手など)。
選任後の流れ: 選任された財産管理人は、不在者の財産を管理し、家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議に参加します。協議が成立すれば、その内容に基づいて相続手続きを進めることができます。
費用: 申立て費用に加え、財産管理人に支払う報酬が必要になります。報酬額は、管理する財産の額や業務内容に応じて家庭裁判所が決定し、通常は不在者の財産から支払われますが、財産が少ない場合は申立人が予納金を納める必要があります(数十万円~)。
注意点: 選任までに数ヶ月かかることもあります。また、管理人はあくまで不在者の利益のために行動するため、他の相続人に有利なだけの分割案には同意しない可能性があります。
4. 法的手続き②:「失踪宣告」の申立て
不在者財産管理人の選任ではなく、行方不明の相続人が長期間(通常7年以上)生死不明の状態である場合に検討するのが「失踪宣告」です。
失踪宣告とは?: 一定期間以上、生死不明の人に対して、法律上、死亡したものとみなす制度です。(民法第30条、31条)
種類:
①普通失踪: 生死不明の状態が7年間継続した場合。7年の期間満了時に死亡したものとみなされます。
②危難失踪(特別失踪): 戦争、船舶の沈没、震災など、死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後1年間生死不明の場合。その危難が去った時に死亡したものとみなされます。
効果: 失踪宣告が確定すると、その人は法律上死亡したと扱われるため、相続人ではなくなります。そのため、残りの相続人だけで遺産分割協議を進めることができます。また、その失踪者の相続も開始することになります(代襲相続が発生する場合も)。
申立てができる人: 利害関係人(他の相続人、配偶者、債権者など)。
申立て先: 失踪者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所。
手続きの流れ: 申立て後、家庭裁判所による調査、官報などによる公示催告(一定期間内に生存の届け出や死亡の証明がなければ失踪宣告をする旨を知らせる)を経て、失踪宣告の審判が下されます。確定までには半年~1年以上かかることもあります。
費用: 申立て費用(収入印紙、郵便切手)、官報公告料などがかかります。
注意点: もし失踪宣告後に本人が生きて戻ってきた場合、本人や利害関係人は失踪宣告の取り消しを請求できます。取り消されると、相続関係などが元に戻ることになりますが、複雑な問題が生じる可能性があります。
5. 放置した場合のリスク:なぜ早めの対応が必要か
連絡が取れない相続人がいる状況を放置しておくと、以下のようなリスクがあります。
遺産分割協議ができない: 相続手続きが全く進みません。
預貯金の解約・払い戻しができない: 相続人全員の同意(署名・捺印)が必要なため。
不動産の名義変更(相続登記)ができない: 法務局での手続きに遺産分割協議書などが必要なため。不動産が「塩漬け」状態になります。(※相続登記の義務化も始まっています)
相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わない可能性: 期限内に協議がまとまらないと、税制上の優遇措置が受けられなくなるリスクがあります。
時間が経つほど関係者が増える可能性: 他の相続人が亡くなるなどして、さらに連絡の取りにくい人が相続人に加わる(代襲相続など)可能性があります。
6. 専門家(弁護士・司法書士)への相談が不可欠
不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立ては、法的な手続きであり、必要書類の収集や申立書の作成も複雑ですし、どちらの手続きを選択すべきか、という判断も重要になります。
そのため、このような状況に直面した場合は、必ず弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談することを強くお勧めします。
費用はかかりますが、時間と労力を大幅に節約でき、確実な解決に繋がります。
まとめ
相続人の中に連絡が取れない、あるいは行方不明の人がいる場合、遺産分割協議を進めることはできません。
この問題を解決するためには、家庭裁判所への「不在者財産管理人の選任申立て」または「失踪宣告の申立て」という、法的な手続きが必要です。
これらの手続きは、決して簡単なものではありませんが、相続手続きを完了させ故人の遺産を適切に整理するためには避けて通れない道です。
問題を認識したら、できるだけ早く専門家へ相談し、適切な一歩を踏み出すことが重要です。
「遺産分割協議ってどうやるの?」
株式会社大阪セレモニー



