「相続した不動産の名義変更(相続登記)って、必ずしないといけないの?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
「終活」という言葉が一般的になり、ご自身の人生のエンディングについて、元気なうちから考えて準備される方が増えていますね。
その中でも、特に重要な準備の一つが「遺言書(ゆいごんしょ、いごんしょ)」の作成です。
遺言書は、ご自身が亡くなった後、誰に、どの財産を、どのように遺したいかという、最終的な意思を法的な形で示すためのもの。
「うちは財産なんてないから関係ない」
「家族仲が良いから、遺言なんてなくても大丈夫」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続財産の多少に関わらず、また、家族仲が良い場合であっても、遺言書がないことが原因で、残されたご家族の間で思わぬトラブルに発展してしまうケースは、残念ながら少なくないのです。
遺言書をきちんと作成しておくことは、
- ご自身の意思を尊重してもらうため
- 残された家族間の無用な争いを防ぐため
- 相続手続きをスムーズに進めるため
に、非常に大きな意味を持ちます。
ただし、遺言書は法律で厳格な方式が定められており、書き方を間違えると、せっかく作成しても法的に「無効」になってしまう可能性があります。
今回は、この「遺言書」について、
- 主な遺言書の種類とその特徴
- 法的に有効な書き方の基本ルール
- 無効にならないための注意点
- 専門家(弁護士、司法書士、行政書士、信託銀行など)への相談のメリット
などを、最新の情報を踏まえながら、分かりやすく解説していきます。
ご自身の想いを確実に未来へ繋ぎ、大切なご家族を守るために、ぜひ正しい知識を身につけてください。
遺言書にはどんな種類がある? 主な3つの方式
法律で定められている遺言書の方式はいくつかありますが、一般的に利用されるのは主に以下の3つです。
それぞれにメリット・デメリットがあります。
1.自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
特徴: 遺言者(遺言を書く人)が、全文、日付、氏名を全て自筆で書き、押印する方式です。最も手軽で、費用もかからずに作成できます。
メリット:
いつでもどこでも、自分一人で作成できる。
費用がかからない。(※法務局での保管制度を利用する場合は手数料がかかります)
内容を秘密にしておける。
デメリット:
方式不備で無効になりやすい: 全文自筆、日付、氏名、押印など、一つでも要件を欠くと無効になります。パソコン作成や代筆は不可です(※財産目録のみパソコン等で作成可能になりました)。
発見されない、紛失、改ざんのリスク: 自宅で保管していると、死後に発見されなかったり、紛失したり、誰かに書き換えられたりする危険性があります。
内容が不明確だと争いの原因に: 専門家のチェックがないため、表現が曖昧だったり、法的に問題のある内容だったりすると、かえって相続トラブルの原因になることも。
家庭裁判所での「検認(けんにん)」が必要: 自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、相続開始後、家庭裁判所で「検認」という手続きを経ないと、不動産の名義変更や預貯金の解約などに使えません。検認は、遺言書の有効性を判断するものではなく、あくまで偽造・変造を防ぐための手続きですが、手間と時間がかかります。(※法務局の遺言書保管制度を利用した場合は、検認は不要です)
【最新情報】自筆証書遺言の方式緩和と保管制度
以前は財産目録も全て自筆で書く必要がありましたが、法改正により、財産目録についてはパソコン等での作成や、通帳コピー・登記事項証明書等の添付が可能になりました(ただし、その目録の各ページに署名・押印が必要)。
また、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度(遺言書保管制度)が創設され、これを利用すれば、紛失・改ざんのリスクがなくなり、家庭裁判所の検認も不要になるという大きなメリットがあります。
利用には手数料(1通あたり3,900円)がかかります。
2.公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
特徴: 遺言者が公証役場に出向き、証人2人以上の立会いのもと、遺言の内容を公証人(法律の専門家)に口頭で伝え、公証人がそれを文書にまとめて作成する方式です。
メリット:
最も確実で安全な方式: 公証人が内容を確認し、法律的に不備のない形で作成するため、無効になるリスクが極めて低い。
原本が公証役場に保管される: 紛失、改ざん、隠匿の心配がない。
家庭裁判所の検認が不要: 相続開始後、すぐに相続手続きに利用できる。
自筆できなくても作成可能: 口頭で内容を伝えられれば、字が書けない人や病気の人でも作成できる。
デメリット:
作成に手間と費用がかかる: 公証役場に出向く必要があり、証人も2人以上必要。公証人への手数料(財産額に応じて数万円~)や、証人への謝礼(専門家に依頼する場合)がかかる。
内容を秘密にしにくい: 証人や公証人に内容を知られることになる。
3.秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
特徴: 遺言者が遺言書を作成・署名・押印し、それを封筒に入れて封をし、同じ印鑑で封印します。その封書を公証役場に持参し、証人2人以上の立会いのもと、自分の遺言書であること、氏名・住所を申述し、公証人が封紙に日付等を記載する方式です。
メリット:
遺言の内容を誰にも知られずに作成・保管できる。
パソコン作成や代筆も可能(ただし署名は自筆)。
公証役場で存在が証明される。
デメリット:
内容の不備で無効になるリスク: 公証人は内容を確認しないため、自筆証書遺言と同様に、内容や方式の不備で無効になる可能性がある。
作成に手間と費用がかかる: 公証役場での手続きが必要で、証人も必要。公証人手数料(定額11,000円)もかかる。
家庭裁判所での検認が必要: 相続開始後、検認手続きが必要となる。
利用されるケースは比較的少ない: 上記のデメリットから、公正証書遺言ほどは利用されていません。
無効にならないために!遺言書作成の基本ルールと注意点
どの方式を選ぶにしても、遺言書が法的に有効と認められるためには、厳格なルールを守る必要があります。特に自筆証書遺言の場合は注意が必要です。
【自筆証書】全文・日付・氏名を自書する: 代筆やパソコン作成は原則NGです(財産目録を除く)。日付は「〇年〇月〇日」と特定できるように正確に。吉日は不可。
【自筆証書・秘密証書】押印する: 署名の後に必ず押印します。認印でも可能ですが、実印の方が望ましいとされています。
財産の特定: どの財産を誰に遺すのか、具体的に明確に記載します。預貯金なら銀行名・支店名・口座番号、不動産なら登記簿謄本通りに正確に記載しましょう。曖昧な表現は争いの元です。
遺留分(いりゅうぶん)への配慮: 法定相続人(配偶者、子、親など。兄弟姉妹を除く)には、法律で最低限保障された遺産の取り分「遺留分」があります。遺言書で遺留分を侵害する内容(例えば「愛人に全財産を遺す」など)も有効ですが、後で遺留分を侵害された相続人から「遺留分侵害額請求」をされる可能性があります。トラブルを避けるためには、遺留分に配慮した内容にするのが望ましいです。
遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)を指定する: 遺言の内容(預貯金の解約、不動産の名義変更など)をスムーズに実現するために、遺言執行者を指定しておくことをお勧めします。信頼できる人や専門家を指定できます。
付言事項(ふげんじこう)を活用する: 法的な効力はありませんが、「なぜこのような遺産分割にしたのか」という理由や、家族への感謝の気持ちなどを「付言事項」として書き添えることで、相続人間の納得感を得やすくなり、争いを防ぐ効果が期待できます。
複数作成した場合: 内容が矛盾する遺言書が複数見つかった場合は、日付の最も新しいものが有効とされます。
書き直し・訂正: 遺言書の内容を変更したい場合は、法律で定められた方式に従って、訂正・追記するか、新たに書き直す必要があります。安易な修正は無効の原因になります。
専門家への相談も有効な選択肢
遺言書の作成は、思った以上に複雑で、法的な知識も必要となります。
特に以下のような場合は、弁護士、司法書士、行政書士、信託銀行などの専門家に相談することを強くお勧めします。
- 財産の種類が多い、または評価が複雑な場合。
- 相続人の関係が複雑な場合(前妻の子がいる、など)。
- 特定の相続人に多く財産を遺したいなど、遺留分への配慮が必要な場合。
- 確実に有効な遺言書を作成したい場合(特に公正証書遺言)。
- 遺言執行者になってくれる人がいない場合。
専門家に相談すれば、法的に有効な遺言書の作成はもちろん、相続に関する様々なアドバイスを受けることができ、将来のトラブルを未然に防ぐことに繋がります。
費用はかかりますが、それ以上の安心感が得られるはずです。
遺言書は、ご自身の人生の集大成として、大切な人へ遺す最後のメッセージであり、未来への道しるべです。
それは、財産の多少に関わらず、残される家族への愛情と思いやりを示す、非常に価値のあるもの。
しかし、その想いを確実に形にするためには、法律で定められたルールを守り、正しい方法で作成することが不可欠です。
「まだ早い」と思わず、元気なうちに、そして判断能力がしっかりしているうちに、遺言書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。
株式会社大阪セレモニー



