「相続した実家が違法建築だった!売れないし、どうすればいい?」
皆様、こんにちは。
株式会社大阪セレモニー代表の山田泰平です。
前回のコラムでは、故人様の借金などマイナスの財産を引き継がないための有効な手段として、「相続放棄」の手続きについて詳しく解説しました。
確かに、相続放棄は多額の負債からご遺族を守ってくれる、非常に重要な制度です。
しかし、どんな制度にもメリットがあれば、デメリットや注意すべき点が存在します。
「借金を引き継がなくて済むなら、すぐに放棄しよう!」と安易に考えてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があるのです。
今回は、そんな相続放棄の「デメリット」や「注意点」、そして「誤解されやすいポイント」について、最新の情報も踏まえながら、分かりやすく解説していきます。
「知らなかった」では済まされない、重要な情報が含まれていますので、ぜひ最後までお読みください。
【デメリット1】プラスの財産も一切相続できなくなる
これが、相続放棄の最も基本的で、かつ最大のデメリットです。
相続放棄をすると、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金、不動産、株式、自動車、思い出の品など、全てのプラスの財産を相続する権利も失います。
「借金は放棄したいけど、実家だけは相続したい」
「預貯金だけは受け取りたい」
といった、都合の良い部分だけを選んで相続することはできません。
相続放棄は、「オール・オア・ナッシング(全か無か)」の選択なのです。
たとえ、後になって故人様に価値のある財産(例えば、知らなかった土地や高価な骨董品など)が見つかったとしても、一度相続放棄をしてしまうと、それを相続することは原則としてできません。
放棄する前には、本当にプラスの財産がないのか、あるいはプラスの財産を放棄してでも借金を免れるメリットの方が大きいのか、慎重に財産調査を行い、比較検討する必要があります。
【デメリット2】相続放棄の撤回は原則としてできない
前回のコラムでも触れましたが、一度家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されると、原則として撤回(取り消し)することはできません。
後から「やっぱり相続したい」と思っても、それは認められないのです。
(ただし、脅迫や詐欺によって無理やり放棄させられた、などの極めて例外的な状況下で、取り消しが認められる可能性はゼロではありませんが、非常に稀です。)
そのため、相続放棄の判断は、非常に慎重に行う必要があります。
特に、財産調査が不十分なまま放棄してしまうと、後で大きな後悔をすることになりかねません。
【デメリット3】次の順位の相続人に相続権が移る
あなたが相続放棄をすると、あなたは「最初から相続人ではなかった」とみなされ、相続権は自動的に次の順位の相続人に移ります。
相続人の順位は法律で決まっています。
第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫)
第2順位:親(親が亡くなっている場合は祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
例えば、故人様に配偶者と子がいる場合、子が全員相続放棄をすると、次は第2順位である故人の親(または祖父母)に相続権が移ります。
もし親(祖父母)も既に亡くなっているか、相続放棄をすると、さらに第3順位である故人の兄弟姉妹(または甥・姪)に相続権が移っていくのです。
【重要な注意点】
あなたが相続放棄をしたからといって、次の順位の相続人に自動的にその事実が伝わるわけではありません。
もし、あなたが放棄したことを伝えないと、次の順位の相続人が、自分が相続人になったことを知らないまま、借金を引き継いでしまう可能性があります。
または、知らないうちに相続放棄の期限(自分が相続人だと知ってから3ヶ月)を過ぎてしまうかもしれません。
法的な義務はありませんが、トラブルを避けるためにも、相続放棄をした場合は、次の順位の相続人にその旨をきちんと連絡するのが、マナーであり、親切な対応と言えるでしょう。
場合によっては、親族全員が相続放棄の手続きをする必要が出てくるケースもあります。
【デメリット4】相続財産の管理責任が残る場合がある(※民法改
ここは少し複雑で、かつ近年の民法改正で変更があった点なので注意が必要です。
以前は、相続放棄をしたとしても、次の相続人が財産の管理を始めるまでは、放棄した人にも一定の財産管理義務が残るとされていました。
しかし、2023年4月1日の民法改正により、この点が変更されました。
改正後の民法では、相続放棄をした人は、「その放棄の時に相続財産を現に占有しているとき」に限り、相続人(または相続財産清算人)に対してその財産を引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって、その財産の保存義務を負うことになりました。(民法940条)
簡単に言うと、
「相続放棄した時に、あなたが故人の家に住んでいたり、故人の財産を実際に管理していたりしたら、次の管理者が決まるまで、自分の物と同じくらいの注意を払って保管しておいてね」
ということです。
以前よりも、放棄した人の管理責任は軽減されたと言えます。
しかし、全く責任がなくなるわけではありません。
例えば、相続放棄した空き家を放置して、倒壊して隣家に損害を与えてしまった場合などは、責任を問われる可能性が残ります。
もし、相続人全員が相続放棄をしてしまい、財産の管理者(相続財産清算人)を選任する必要が出てきた場合、その選任申し立ての費用(数十万円~)を、放棄した人が負担しなければならない可能性も出てきます。
「放棄したから、あとは知らない」と完全に放置してしまうのは危険が伴う、ということは覚えておく必要があります。
【デメリット5】生命保険金や遺族年金は受け取れるが…注意点も
「相続放棄したら、生命保険金や遺族年金も受け取れないの?」
と心配される方がいらっしゃいますが、これは誤解です。
生命保険金(死亡保険金):
受取人が特定の相続人に指定されている場合、これは相続財産ではなく、受取人固有の財産とみなされます。そのため、相続放棄をしても、指定された受取人は生命保険金を受け取ることができます。
(ただし、受取人が「被相続人(故人)」になっていた場合は相続財産となるため、注意が必要です。)
遺族年金:
これも、遺族の生活保障を目的とした制度であり、遺族固有の権利とされています。相続放棄をしても受け取ることができます。
死亡退職金:
会社の規定によりますが、死亡退職金の受取人が遺族と定められている場合は、遺族固有の財産として受け取れることが多いです。
ただし、これらの受け取ったお金を、故人の借金の返済に充ててしまうと、「単純承認」したとみなされ、後から相続放棄ができなくなる可能性がありますので、注意が必要です。
【デメリット6】一部の遺品(形見)の扱い
「借金は放棄したいけど、故人の写真や手紙だけは手元に残したい…」
これは人情として当然ですよね。
原則として、相続放棄をする場合、財産価値のある遺品を自分のものにすることは「法定単純承認」にあたる可能性があります。
しかし、著しく価値の低い、一般的な「形見」(写真、手紙、衣類の一部など)を受け取ることまでが、直ちに問題視されるわけではありません。
ただし、どこまでが許容範囲かは、明確な線引きが難しい部分です。
高価な貴金属や骨董品などを形見として持ち帰るのは、単純承認とみなされるリスクが高いでしょう。
判断に迷う場合は、専門家に相談するのが安全です。
まとめ
相続放棄は、借金を引き継がないための強力な手段ですが、見てきたように、様々なデメリットや注意点も存在します。
- プラスの財産も全て失う
- 撤回は原則できない
- 次順位の相続人に影響が及ぶ
- 財産管理責任が残る可能性がある(限定的になったがゼロではない)
これらのデメリットを十分に理解せず、安易に相続放棄を選択してしまうと、後で大きな後悔をすることになりかねません。
相続放棄を検討する際は、
- まずは徹底的な財産調査を行うこと。
- メリットとデメリットを天秤にかけ、本当に放棄すべきか慎重に判断すること。
- 期限(3ヶ月)を意識し、早めに行動すること。
- 必要であれば、弁護士や司法書士などの専門家に相談すること。
これらを心がけてください。
正しい知識に基づいた慎重な判断が、あなたとご家族の未来を守ることに繋がります。



